第304話 砂漠の町に着いたよ
着替えてから降りて、シャールをしまう。
ソードにも着せた。ソードがターバンの端をつまんで聞いてきた。
「この服にどんな意味があるんだ?」
「うむ? えーと、この一枚布を頭にぐるぐる巻きにすると、砂の侵入を防ぐし、有害太陽光線を防げるのだ。風が強くなったら鼻や口を覆うように巻けば、砂が入らず呼吸が楽だ。服のほうは、これを被るように着れば中は砂の侵入を少しは防げるし、砂が落ちやすいだろう?」
ソードが感心した。
「へぇ。考えられてんだな。お前と一緒でなけりゃ必須の装備って感じだな。お前と一緒でなけりゃな」
うん。現在、魔素障壁で風も太陽光線も砂もシャットアウトしているからね!
でもいいのっ! 郷には入れば郷に従うのっ!
私はソードをなだめた。
「まぁまぁ。お作法だし、雰囲気が出るじゃあないか! あとで玩具で遊ぼう! ここに来る前、【プロンク】……以前に海の町で話していた崖も砂漠も走れる二輪ゴーレムを作ったしな! プロンクで走り回ったら最高に楽しいぞ! 海上ボードを改造して、砂上ボードにして滑っても楽しそうだな!」
「うん! この装備最高! 砂漠最高!」
途端に褒めたたえはじめたぞ。
オアシス近くの高い壁、すごい。よく見たら砂で出来た壁だよ。
サンドアートだ!
感心しながら歩いていたら関所を見つけたので、そこに向かった。
役人らしき人がいて、その人も私たちと似たファッションをしていた。やっぱり考えることは一緒らしい。行き着くと、こう! ってなるんだろうね。
ソードが驚いている。
「何? お前、知ってたの?」
聞いてきたので、私は首を振る。
「違う。その土地で生きるとその環境に適した格好をするし、適した耐性がつく。これは、どこの砂漠でも適した格好がこれなのだ」
「……さすがだな」
ソード、ちゃんと感心したぽい。
さっきは、「どーせ魔術で防ぐのにこんな格好する必要あるのかよ?」って反応だったもんな。
役人がいぶかしげに私たちを見て、質問してきた。
「……見ない顔だな。どこから来た?」
ソードがカードを出す。
「冒険者だ。イースという町から来た。ま、あちこち回ってるので拠点はソコ、ってだけだけどな」
役人はカードを受け取り、水晶にかざし、ソードとカードを何度も見比べた。
「…………えぇと? 何やらすごい人らしいですが、何をしに?」
役人の質問する口調が、ほんのちょっとだけ丁寧になった。
ソードが笑う。
「別にすごくはねーよ。この国中を旅して回ってる冒険者ってだけだ」
「ちゃんと言うとだ、未知を探索しまだ見ぬ強敵に出会い心躍る発見をするためにここを訪れたのだ! この場所も未知なので、とても楽しみだ!」
私がソードの言葉に付け足すと、役人が私とソードを見て目をパチクリした後、感心した。
「ほぉ……。なるほど、他所の町の冒険者というのはそういうものなのですか。では、ようこそハーラへ。注意事項があります。おわかりかと思いますが、この町では水が大変貴重です。他の町と同じように水が使えるということはありません。飲み水の確保すら難しいと思って下さい」
なるほど、オアシスの湧き水をジャバジャバ使うということはないのか。
「了解した。水に関しては、私たちは自前でどうにか出来るので、気にしない」
役人に驚かれた。
「…………さすが、王都で英雄と言われている方ですな」
ソードが肩をすくめる。
「いや? 王都で英雄とか言われたやつでも、水を自前でどうにかは出来ねーよ。その英雄よかすげーやつがどうにか出来るんだよな」
今度は私が肩をすくめた。
「すごいのかはわからない。だが、特殊なのは理解している」
別世界から来たアマト氏や、似た生まれのスカーレット嬢ですら出来ないのだから特殊なんだろうね。
役人は私を見るとキリッと顔を引き締め、頭を下げてきた。
「もしも、売っても差し支えないほどお持ちでしたら、商人ギルドではなく町役場か冒険者ギルドへ、是非とも販売をお願いします」
なるほど、本当に水不足らしい。
冒険者ギルドの場所を聞き、ついでに関所にあった水甕を水魔術で満たしてやった。
そうしたら役人に、もうこれ以上はないってくらい感謝された。腰を九十度に曲げ、手を握ってずっと上下に振りっぱなし。わかったからやめて。
「……まぁ、砂漠だから当たり前だが、オアシスがあっても水不足なのか? 飲み水くらいならなんとかなるだろうに。干上がりすぎると死ぬんじゃないか?」
頭を下げっぱなしの役人と別れ、私が首をひねると、ソードは頭をかく。
「うーん……。ま、とにかくギルドに行ってみようぜ?」
ソードに促されて、二人でギルドに行ってみる。
まだ日は高いので、人通りがまったくない。
「ふむ! ふむふむ!」
ソードが私を見て聞いてきた。
「ん? 景観が良いか?」
うなずいた。
「情緒があるな。遮るものなくギラギラした太陽光線が照りつけ、通常ならまぶしくて目が開けてられないくらいだ。道も砂色、建物も砂色、そこに太陽が反射していっそ白い。その一面砂白色の世界に、彩度の強い濃い緑がポツポツとある。そして、あの辺りがオアシスだな。いかにも水辺で乾燥に強い植物、と言った感じの植物が生い茂ってる」
ソードが周りを眺めた。
「そういや、そうかな。……なるほどな、そうやって景色を眺めるのか」
私がソードを見る。
「お前はどう見てたのか?」
「こんなトコでよく暮らしてるよな。明らかに無理があるだろ。恐らく土魔術で壁を築き、魔物の侵入と砂を防いでる。でも、水は乏しい、植物も少ないし、恐らく魔物も少ない。アンデッドなんて食えねーし、無理して住まなくてもいいんじゃねーかよ、って思った」
……確かにその通りだけれど……。平たく言い過ぎだろ。
「うむむ、こういうところで頑張って住んでいる人がいるからこそ、この環境が保たれているのかも知れないぞ! そんな冷たいこと言うな!」
「はいはい」
いい加減に返事されてぐりぐりなでられた。
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