第295話 〈閑話〉プミラの婚約者とその商店その四
私は何度もプミラ宛てに謝罪の手紙を書いて送った。
妻と別れてやり直したいとまで書いた。
返事は来ない。
……ある日、
彼も憔悴しきっていた。
「なぜ教えてくれなかった!?」となじられたが、単なる八つ当たりだ。
私たちだって、知っていたらこんな事態を招かなかった。
私と両親と彼とで話し合いをした。
彼は、ベンジャミンの気が済むなら、自分が彼の下男になるとまで言っていた。
自分があざ笑い蔑んだ言葉、それをベンにやってもらうことで詫びの気持ちを示し、許してもらうつもりだそうだ。
私は、妻と別れてプミラと再婚する計画を話した。
原因はそれなのだから、プミラと結婚してやればベンジャミンの気は済むはずだ。
両親も妻の父親もそれに賛成した。
土下座をしてでも詫びてこい、旅費は出す、と言われて行くことになった。
それでなんとかなると思っていた。
…………王都に行くことを聞きつけた妻が、自分も行くと言い出さなければ。
絶対に連れて行くことは出来ないのに連れてきてしまったのは、言い争うのに疲れたからだ。
どのみち、この旅でお別れだ。
何をどうしようと、私はコレと別れる。
それは、コレ以外の全員の総意なのだから。
王都の外れにあるベンジャミンの店を訪れて、呆気にとられた。
……うちより小さい店、とどこかで考えていたのだ。――そう、私は見下していた。口調の軽い弟分を此の期に及んでも見下していたのだ。
まさかこんな、店とは思えないほどの素晴らしい大店を建てているとは……。
妻はしばらく放心しながら店を見た後、はしゃぎ始めた。
謝りに行く相手ということをすでに頭から吹っ飛ばし、早く中に入ろう、と催促をする。
……頭が痛い。
「ピッド、これから会うのは、私たちが謝らなければならない相手だ。遊びに来たんじゃない。……何度言ったらわかってくれるんだ?」
「あなたが謝ったら終わりでしょう? その後は買い物をしましょうよ! きっと素敵な商品がたくさんあるわ!」
……本当に、頭が痛い。
私はどうしてこんな女と結婚したのだろう。
店の前にいる人だかりはもともと多かったのだが、時間が経つにつれ、どんどん増えてきた。
中に入りたくても入れない。
「すみません、通して下さい。店に入りますので……」
声をかけたらけげんな顔をされた後、上から下までジロジロと見られ、明らかに見下したような笑い方をされた。
「君たちは田舎から出てきたのか。――なら、親切で教えておいてやるが、この店は田舎からふらっとやってきた観光客が気軽に入れる店じゃないんだよ。お貴族様だって伝手がないと入店出来ない。伝手がないなら抽選に申し込んで、当選したらやっと入れるんだ。今日ここに人が集まってるのは、今日が抽選日だからだ。わかったら、大人しく後ろで見ていてくれないか? 抽選に参加もしていないのに、前に行こうと人を押しのけないでくれないか」
妻がカチンと来て言い返そうとしたので、私は慌てて頭を下げて礼と詫びを言って無理やり妻を引っ張って下がった。
人だかりから離れ気が緩んだ瞬間、妻は腕を振り払い怒鳴ってきた。
「どうして止めたのよ! この根性無し!」
「……いい加減にしてくれ! 私たちは商人なんだ! 将来お得意様になるかも知れない裕福な方に食って掛かるなんてバカな真似は二度とするな! そんなに邪魔をするならもう一人で帰ってくれ! ――ハッキリ言うが、これ以上私に恥をかかせたり邪魔をしたりするな! じゃないと本当に置き去りにするぞ!」
我慢の限界がきて私が怒鳴り返すと、妻は私を憎々しげににらむが理解はしたようで口を閉じ、腕を組むとそっぽを向いた。
ため息ばかりが出る。
さらに時間が経つと、人だかりはピークになった。
前方から歓声があがったと思ったら、店の中から店員が出てきた。見覚えのある人物が先頭にいる。
あれは……そう、ベンジャミンの仕事仲間の、バロックという女性だ。
『副店長』と名乗り挨拶をしている。
そして……その傍らに、プミラが立った。
彼女も店を手伝っているのか……。
それはいいな。話がつけやすい。
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