第291話 軌道にのったみたいだよ

 ベン君とバロック嬢がやっとこさ現れたので、ソードの知り合いの……平民のフリをしている人で、今日の購買ナンバーワン客だと紹介したら、ベン君たちは何度も頭を下げて挨拶した。

 で、お得意様に渡している会員カード(もちろん生体認証、違う人が持つと点滅する)を渡し、お見送りした。

 ソードが付き添って送っていった。

「さすがにお前が犯罪に巻き込まれたらマズい、つーか、俺がお前を連れ出したって勘違いされて捕縛されないといいんだけど」

 とかブツブツ言いながら。


 しばらくして、疲れた顔で戻ってきたソードに聞いた。

「ソードは、彼とは友人ではないのか? お前のファンという感じでもなかったようだが。平民ともにこやかに会話するほどに穏やかな性格の方だし、新しい物好き仲間として気が合いそうだぞ?」

 すると、ソードが難しい顔をしてうつむいてしまった。

「……うん? やっぱり彼はお前のファンだったのか」

 私が首をかしげてのぞき込むと、ようやくソードが答えた。

「……んー……。まぁ、昔はそうだったかな。今は、立場が違うからな。ジェラルドほど針が振れておかしくはねーからな……。もし立場が違ってたら、もしかしたら友人になれたのかもな」


 ふぅん。そうなんだ。

 私は別にファンでも良……あ、やっぱ良くない、ショートガーデ公爵がソードにするみたいなことされたら嫌かも。単に気が合う友人だから仲良く出来るけど。

 私はソードをなぐさめるように、背中をポンポンたたいた。

「……お前の人気も困ったものだな。普通なら友人になれそうなのに、その前にファンになられてしまうんだものな……」

「お、わかってくれる?」

 ソードがおどけて私に言うので、私は深くうなずいた。

「私だって、ショートガーデ公爵がお前にするみたいに追っかけられたら嫌だ。その前に気が合う友人になったから『楽しい方だ』で済んでいる。ちなみに、家族もキツい。スカーレット嬢が父親の奇行で精神ダメージを負うのを見る度、彼女に同情する」

「うん、俺もあの子にはホント同情するよ」

 二人で深く深くうなずいた。

 その後、顔を見合わせて笑った。


 ベン君のお店は一躍トップ商店として君臨した。

 王都では観光スポットの一つとして挙げられる。

 お得意様は、事前に連絡をしてもらえばゆっくり見てもらえるとし、貴族は公爵たちの紹介で招待して見てもらうことにし(格付けとか順番とかがあって下手をすると首が飛ぶ事態になるから希望者リストを作り、順番を振ってもらった)あとは一般公開。

 抽選を行って、当選した人はその日にちに来店出来る。

 この抽選は貴族枠があり木っ端貴族やどうしても行きたい招待されるまで待てない! みたいな貴族は貴族のみの一般公開日に来てもらうことになった。

 大小のトラブルはあるにしろ、私とソードとリョークが武力制圧。

 そもそも文字が読める字が書けるという篩いをかけているので知識層しか来られないようになっているけれど、それでも犯罪者が紛れ込んだりするけれど、むしろソードも私もそれくらいの刺激があった方が楽しい。

 簡単に制圧出来るのがもの足りないけどね!

 あと、抽選の際『イーサン商店とウェーブ商店の関係者はご遠慮願います』と、一言書いてあるのがミソ。

 ベン君、着々と敵を討ってるね!

 妹さんが若干引きつっていたぞ!

 でも、忙しすぎて、

「ちょっとでも抽選者が減るのは良いことですよね、うん、もうホントいっぱいいっぱい!」

 って発言をしているもんな。

 働き過ぎでもう婚約者のことはどうでもよくなってるみたいだね!


 三階ではドリンクだけでなくフードも出すことになった。

 従業員一同、忙しすぎて料理を作っている暇なんかない! 家事要員だったプミラ嬢さえ家事そっちのけで作業をさせられ、「またこんなに手紙が来てる━━━━!」って壊れて叫ぶレベルで忙しく、ベン君はプミラ嬢にゆっくりしててって思っていなかったか? 笑顔で「頑張るッスよ? ハイこれ追加ね! 返事よろしくッス!」って渡しているけれど? ……って状態で誰も家事をやる人間がいないので、公爵の伝手で信用のおける家事清掃が出来る使用人を雇い、寮と自宅の清掃を行ってもらう、そして料理は三階で賄いを作って裏で食べる、となったのだ。

 いや最初は屋台に食べに来ていたのだけど、屋台は混んでいるからね。売り切れになったりすると食いっぱぐれて悲惨な目に遭うのだと。

 賄い料理は一日三回。本来は一日二回らしいが私が「体力勝負の仕事なのにキチンと食事休憩しないと倒れるぞ?」とアドバイスして、休憩時間をバロック嬢が計算し、交代で食事を摂っている。

 ベン君が料理に興味があったり得意だったりする人間を募集(下手に料理人志望だとレシピを盗んですぐ辞められる恐れがあるため)して雇い入れ、私やお気楽メンバーが教えて賄いを作らせた。

 献立は応用も含めて六十種類くらい、こんだけありゃ、すぐには飽きないよね。

 で、賄いを作っていると、換気に気をつけていてもやはり匂いがする。

 匂いがすると、食べたくなる。

 それで、限定でランチとサパーを出すことになった。

 売り切れて賄い食わせろってゴネられると面倒なので、スナック程度の軽食も出す。

 この国特有の固いパンに麦蜜を垂らして塩を振って軽く焼いたラスクモドキなんて、高いのに飛ぶように売れる。


 ――と、まぁ、あらかた問題は出尽くしたので、ベン君は仕入れ希望の従業員と共に仕入れに出かけた。

 問題ある客はリョークとホーブでどうにかなるのも確認した。

 知り合いの憲兵ヤッシさんとその憲兵仲間にエールとおいしい干し肉の付け届けをして、これから迷惑をかけますがよろしくお願いしますと挨拶したら、ヤッシさんたちはまめに見回ってくれるようになった。付け届け、大事。

 もういいかなってことで、私とソードもお暇し、いったん拠点に戻り、そっからまた旅に出ることにした。

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