第272話 お作法はちゃんとやらないとね!
ギルドマスターは死にそうな顔色をしているな。
ソードと同じ、余計な取り越し苦労を抱えるタイプっぽい。
打って変わって意気揚々とやってきたのが落ちぶれBランク冒険者クン。
「さて、もう逃げられないぞ! 魔物に襲わせようとし、それを防いだ私を卑怯な真似で陥れた償いをどうとらせてくれようか!」
芝居がかった大声で、ギルド中に聞こえるように言う。
ソードが呆れ顔、の後に険しくなった。
「まず、魔物たちは殺処分だ。お前たちは大広場で私に土下座してわびるんだ! わび方次第では許してやるぞ! 落ちぶれSランク冒険者!」
ソードはまったく関係ないのにソードに向かって言っているぞ。
私をチラリとも見ないのだが?
私はギルドマスターを見た。
ギルドマスターは、死にそうな顔色で疲れたような声で尋ねてきた。
「…………事の真偽を聞きたい。シャイニングライトニングスターが言ったことは本当か? そして、コイツに大けがを負わせたのはお前たちか?」
ソードが答えようとする前に、私が一歩前に出る。
「つまり。お前は私に敵対する者ということだな?」
私がそう告げると、死にそうな顔色のギルドマスターが一瞬呆けた。
「…………いや、そんなことは言ってないだろう? 私は、シャイニングライトニングスターの……」
皆まで言わせずかぶせて高らかに言い放つ。
「その落ちぶれBランク冒険者クンに味方するのだろう? ならば、私の敵だな! 私は敵には容赦しないぞ。拷問される覚悟をすることだな。――別に、お前たちからかかってきても構わないぞ? 私に敵うと思っているのならな!」
最後にニヤリと笑う。ギルドマスターは私の言葉がそうとう意外だったようで、土色の顔色が元に戻って放心しているよ。
反対に、慌て始めたのが落ちぶれBランク冒険者クンだ。
「お、お前! ギルドを敵に回してただで済むと思うなよ!? ライセンス剝奪の上、お尋ね者になるのだからな!」
私は顎を上げて見下した目をして落ちぶれBランク冒険者クンを見た。
「ギルドを敵に回す? 何をほざくのだ、私の敵はお前と、こっちのギルドマスターだけだぞ。それとも、ここにいる全員は敵なのか? ……お前たち、私の敵なのか? 私たちSランク冒険者パーティ【オールラウンダーズ】の敵に回るというのか!?」
私が見回すと、慌てた皆が一斉に首を横に振った。
「ふむ。敵ではないそうだ。だから、敵はお前たち二人」
私が指を突きつけると、落ちぶれBランク冒険者クンはギルドマスターの背後に隠れるように下がった。
……と、唐突にソードが笑い出した。
「お前って、本当に最高だよな。濡れ衣を着せられようとして、フツーなら弁解するところを逆に自分と敵対する者かと尋ねて相手をたじろがせるんだからな」
私はソードを振り返って返した。
「腹が立つなら拷問して惨殺し、憂さを晴らせばいいだろう? 濡れ衣を着せてくる連中は、殺せばもうそれ以上やらかすことはない。となると、敵かどうかだけ確認してあとは拷問の末惨殺だ」
「確かにな。明快な答えだ」
ソードが肩をすくめた。
「……で? 俺も聞くよ。お前等、俺たちの敵か? 敵なら殺す。そうでないなら、今言ったことを取り消せ。インドラをなめるなよ。……ってなめてねーから俺に食って掛かってんのか。なめられてんのは俺だったってか」
ソードが肩をすくめて自嘲する。
「お前が私のお楽しみ拷問タイムを止めるからだ! 罰が当たったんだぞ!」
私が大声でなじるとソードがまた笑った。
「はいはい、悪かった」
謝ってなでくり回すソード。
「それで? ギルドマスター、どうなのだ?」
私はなでくり回されながら、ギルドマスターに問いただす。
ギルドマスターはしばらく黙って私を見つめていたが、深々と頭を下げた。
「私の勘違いだった。申し訳ない、謝罪する」
私はあげつらうような声音で念を押す。
「ほう? 敵ではないと言いたいのか? なら、そう言え。ソイツの味方をしない、私たちの敵に回らないとハッキリと言え」
「…………。この横にいる者の味方ではない。Sランク冒険者パーティの敵になど回らない」
言い逃れせず弁解せずにハッキリと言った。
言い逃れしてくるかと思ったけれど、意外と潔かったな。
がく然としてる落ちぶれBランク冒険者クン。
私はソードを見て、ニヤ~ッと笑いかけた。
「ソード、別世界ではこういうときに言うべきセリフがあるんだ」
「うーわ、嫌な予感しかしない」
なんだよぅ。
せっかく教えてあげようと思ったのにぃ。
アマト氏やスカーレット嬢なら喜ぶぞ?
私は落ちぶれBランク冒険者クンの前に立ち、小首をかしげてのぞき込む。
「ねぇねぇ、今どんな気分?」
シ――――ン、と場が凍りついた。
私は一歩下がるとトントン、とつま先で床をたたく。
「『憧れのSランク冒険者ソードに謝らせて自分が優位に立ってやるー!』って意気揚々と陥れようとしたのにさ、みーんなに見捨てられたのってどんな気分? 誰もが『巻き添えを食らいたくない』って遠巻きに見てるだけで、掌返しを食らってだーれも味方になってもらえなくて一人寂しく見世物になってるのって、どんな気分なのかなぁ?」
楽しげに聞いてあげたらソードに引き離された。
「ちょっと、さすがにかわいそうでしょ。やめてあげなさい」
むぅ。
むくれてソードに怒鳴った。
「こういう場面のお作法だぞ! アマト氏やスカーレット嬢に聞いてみろ! そして、お前もやれ! でないとなめられるぞ!」
「え、無理。俺、ドSじゃないし」
うそつけぇ。
割とドSだぞ?
ギルドマスターが震えるため息をついた。
「……シャイニングライトニングスターは、この町の治安を守るため東奔西走していて、少し疲れていたんだ。魔物を見て過敏に反応してしまったようだ、すまない、私が代わりにわびる。疲れて混乱していただけで、敵対しようと思ったわけではないんだ。それは私が保証するので、許してくれ、この通りだ、頼む」
ますます深々と頭を下げる。
むぅう~。
「どうしよっかなぁ~。ソイツはホントにそう思ってるのかぁ?」
唇をとがらせながら聞いてみた。
「もちろんだ」
ギルドマスターが力強く肯定したけれど肝心の落ちぶれBランク冒険者クンはどう思っているか……。
って見たら、燃え尽きて真っ白になったみたい。エクトプラズムが出ている。
目の前で手を振っても反応がない。
「お前に精神的拷問にかけられたから、現実逃避しちまったんじゃねーのか?」
って、ソードが推測した。
むぅう~。
つまんない結果だな。
「じゃあいいや。反応ないのに拷問してもつまらないからやめた。またの報復を楽しみにしてるぞ! と伝えてくれ。その時こそ拷問にかけてやろう! では、精神を鍛えておけよ。さらば」
ギルドマスターが大きく安堵の息を吐いた。
「ホンットーにお前って向かうところ敵なしだな」
ギルドを出たらソードに言われたので、反論した。
「お前だってそうだろう」
「俺、あぁいった場面は絶対ダメ。確実にはめられちゃうね」
ソードはいちいちお話を聞くからね。あんなん虚言だらけの茶番なんだから、まともに相手なんかする必要ないのに。
「お前は真面目に聞くべき時に聞かずに、聞かなくていいときに真面目に聞くから良くない。連中が始める茶番に律儀に付き合うからはめられるんだ。面白そうな展開になるなら乗るのも一興だが、そうでないなら敵か味方か確認して敵は殺せば済む話だぞ。お前のその絢爛たる肩書きがあるのならば、ギルドだってお前と面と向かって敵対しようなぞ思わんだろう。
――今回に限って言えば、Sランク冒険者を取るかBランク冒険者を取るか、ギルド全体の益を考えるなら答えは明白で、私たちが白と言えば黒でも白になるのだ。『自称偉い人』ではなく周囲に認められている英雄という認識があるならば、気に入らないやつは斬り捨てろ。そうしても大した問題になどならん」
「はいはい。あと、『自称偉い人』は余計だから」
グリグリなでられた。
「……お前って結構計算高いのね。そこまで考えて喧嘩売ったり買ったりしてるんだ?」
ブンブン首を横に振った。
「結果論だ。理屈をこねている。どうであれ気に入らないやつは私の人生を楽しむ糧にする予定なのでな」
「…………。だと思った」
グリグリが強めになった。
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