第270話 怒りが寒さを超えた瞬間!

 リモンアンテナを有効に使い、買いまくって空き地に戻ってきたら。

 ――あのサムい男がいた!

 しかも、式部やリョークに突撃しようとしてるし。

 カッチ━━━━ン。

 寒気よりも怒りが先に立った。


「食らえ! 魔物め!」

 斬りかかるのを、木刀で後ろから止めた。

「ぐっ!?」

 振りかぶったポーズのまま、固まっている。

「何をしている」

 怒りの籠もった低い声で問いただすと、コッチを見た。

「むっ? 貴様は、落ちぶれSランク冒険者の荷物持ちか!」

「そういう貴様は落ちぶれBランク冒険者だな。何が『次代のSランク冒険者』だ。大した腕前でもないくせに、狭い世界で威張り散らす身の程知らずが」

 あざ笑うと、落ちぶれBランク冒険者クンは真っ赤になった。

「……なんだと? 貴様、誰に向かってものを言ってる!?」

「お前だ、落ちぶれBランク冒険者クン。――お前なんぞ王都に出たらCランク冒険者にもかなわないだろうな。行ったことないだろう? ここから出たことない、辺境の片隅で威張り散らして誰よりも強い気になっている、落ちぶれBランク冒険者クン? 自分で自分の名前を付けちゃってるのがもう憐れ過ぎて涙を誘うな。ソードなぞ勝手に広められた二つ名をこれ以上広められないように必死なのに、お前は自分で自分に二つ名どころか名前まで付けちゃって広めようとしてるのか。憐れな男だよ、落ちぶれBランク冒険者クン」

 落ちぶれBランク冒険者クンは憤怒の形相。

 怒りすぎて、体勢を変えれば剣の押さえが外れるってのもわからないらしい。

 ブルブル震えながら押し返そうと必死だ。

「式部、リョーク、ケガはないか?」

「あいさー!」

「ギチギチ」

 そろって片手を挙げた。

 式部まで!

 ラブリー!


 ――と、式部が訴えてきた。

「ギチギチギチ」

 ん?

「斬りかかられてもその前に糸でぐるぐる巻きにできるから大丈夫だった、と?」

「魔素障壁展開中ですので、そもそも傷もつけられないのであります!」

 とはリョーク談。

「ふむふむ。つまり、こんな弱いやつに対して私が出張る必要など無かったと言いたいのか?」

「あいさー!」

「ギチギチ!」

 片手を挙げた。

「なんだと!? 貴様……虚仮にするのもいい加減にしろ! この拘束を外し、土下座してわびるんだ! でなければ、絶対に許さんぞ!」

 フッと、鼻で笑ってやった。

「こーんな、木の棒で軽ーく押さえてる程度が拘束だと? 笑わせてくれるな。それにしても、お前の今の様を端から見られたら皆大笑いだろう。『ちょんっ』と棒で押さえてられてるだけなのに、プルプルとおびえた魔物のように震えているのだものな!」

 笑ってやった。

「貴様……貴様、絶対に許さん!」

「そうか、ならばお前を殺すとするか」

 そう返してやったら落ちぶれBランク冒険者クンがビクッと震えた。

「後顧の憂いをなくしたいからな。今なら簡単に殺せるな。さて、殺すか」

「ま、待った。私も言い過ぎた」

 落ちぶれBランク冒険者クン、急に掌返ししてきたし。

 私は冷笑した。

「何を言いすぎたんだ? お前は私を荷物持ち程度の実力だと思っているんだろう? まぁ、私にはその荷物持ちとやらの実力がどの程度かはわからんが、お前やソードの言い方から察するに、揶揄の対象なのだろうな。私としては、大量の荷物を運びながら攻撃せずにダンジョンの魔物や敵などの攻撃を回避し続けひたすら冒険者についていくなぞ、素晴らしい実力者だと思うのだが。

 ――攻撃力がないという部分のみを切り取って私を揶揄しているつもりならば、私の攻撃力を見せつけてやろう。今ここで、お前の胴体を真っ二つに切ってやろう。ここで下半身と生き別れになるがいい。まぁ、即死んであの世ですぐに出会えるぞ」

 ものすごく慌てた声で止めてきた。

「待て! そんなことをしたら、お前は犯罪者になるぞ!」

「それがどうした」

 落ちぶれBランク冒険者クン、絶句。

「そんな些末なことを私が気にするわけがないだろう。気に食わなければ王城だって破壊し、王だろうと王の側近だろうと殺す。あいにくとな、私は攻撃力のない荷物持ちではないのだ。私の職業は、自由な冒険者なのだよ? だから、誰にも私の行動を制限することはできない。私は何でも好きなように出来るのだ」

 それを聞いて腰が抜けたようで、そのままへたり込んだ。

 よって拘束が解けた。

 私は木刀をプラプラと見せつけた。

「ホーラ、これでお前の剣を止めていたんだ。すごい業物だろう? 単なる木だけどな! ソードだってその気になれば木の剣で岩も斬れるぞ。もちろん私もな。それが私たち【オールラウンダーズ】の実力だ。では、式部とリョークを攻撃した罰として、お前を拷問の上惨殺してやる。端からこの木刀で細切れに切ってやる……」

「はい、終了」

 またしても、いいところでソードが現れた!


 私はキッとソードをにらんだ。

「今回は止めるな! コイツは式部とリョークを攻撃しようとしたんだぞ!?」

 憤って言ったが、脇に手を差し込まれ、ひょいっと抱き上げられた。

「コイツ程度の実力で、リョークや式部がどうにかなるわけねーだろ。傷一つ負わせることは出来ねーよ。リョークはたたかれたって無傷だろうし、アサシンスパイダーは俺やお前に匹敵するレベルの速さだっつーの」

 そうなのか。

 式部とリョークを見たら踊ってる。

 いや、強いぞアピしているのか、アレは。

 ラブリー過ぎて鼻血出そう。

 ……というか、式部ってばリョークを仲間と思っているらしいな、仲良すぎだ。

「むぅう……。お前は本当に最悪のタイミングで現れるな。いっつも私がお楽しみタイムに突入した途端にやってくるのをなんとかしてくれ。もう五分ほどずらしてくれれば、ちょっとは楽しめるのだぞ?」

「やめてあげなさい。弱い者イジメはよくないよ?」

 むぅうう~。確かにそうだけどー。

 ぶーっと膨れると、ソードが私をソードの後ろに下ろした。

 落ちぶれBランク冒険者クンを見下ろして、ハァ、とため息をついて頭をかいた。

「……お前、俺が間に合わなかったら確実に死んでたぞ? インドラは拷問が大好きなドSだ。お前は、そのインドラに拷問していい理由を与えたんだよ。……なんで俺が借りた場所に乗り込んで、インドラが作ったゴーレムとテイムした魔物を殺そうとしてんだよ。『魔物がいた』ってのは理由にならねーからな。そもそもリョークは、俺とインドラがこの町に到着してから連れ回してさんざんっぱらお披露目してるしお前もそれを目撃してる。

 式部……そっちの紫のは、この場所から動いてねぇ。インドラが雇った従業員の護衛やら手伝いやらしてるだけだ。俺たちと意思疎通出来るくらいに賢いから、むやみやたらに人を襲ったりしねーしな。どーせ、俺の絢爛たる肩書きに嫉妬して、なんか悪さしてやろうって乗り込んできて、魔物って理由だけで殺そうとしたんだろうけどな。俺たちにそういった冗談は通じねーんだよ、クソ野郎」

 そこまで一気にしゃべると、落ちぶれBランク冒険者クンの襟首をつかみ、放り投げた。

 落ちぶれBランク冒険者クンは綺麗な放物線を描いて数十メートル飛んで行き、ゴミ集積場にインした。

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