第267話 また色目を使っているし!
翌日、魚が解凍出来たらしいので、もらいに行ってきた。
すごい盛況だな。
漁師とギルドの解体職員が総出で解体している。
異国の商人も周りで囲んで興奮しながら話しているし。
ギルドマスターがあっちこっちにアレコレ指示している。
「……それは領主が購入するってことだ。肝も買い手がついた……あぁ、端は出すのでそれをギルドで売り出す。身も出来るだけ大きく切ってくれ。……気をつけろ! ぬめりはやっかいだな……」
「ふむん」
鼻を鳴らしたら全員がバッと私を見たのでちょっと気圧された。
「坊主、来たのか」
「坊主ではないが、来たぞ。……ふーむ、ぬめりは思えば栄養価が高いのだよな。美肌成分だった。なので加工してやろう」
パチンと指を鳴らし、ぬめりを細粒化させた。
ザァッと音がし、粒になり積もる。
「これも戻してくれ。ちゃんと上の方の綺麗な部分をくれよ? ――これは、美肌成分たっぷりだぞ。年寄りの健康にも良いのだ。冒険者でお肌の荒れに困っている人に、毎日ワンスプーンをスープか何かに入れて飲むのが良いだろう。ちなみに、生臭い」
全員が呆気にとられている。
ソードが声を出さずに笑う。
「だから言っただろうが。インドラは、Sランク冒険者よか実力のあるやつだって」
「そういうわけではないだろう。得手不得手だ。【血みどろ魔女】さんの魔法は使えないぞ、私は」
やっぱり自分で入れようと思い直し、容器を出してざかざか入れながら言った。
「魚介のコラーゲンスープにしようっと。あ、小骨も戻してくれ。良い出汁が出そうだ」
「食う気か!? 武器になるんだぞ!?」
ギルドマスターが驚いているが、武器にする方がびっくりだ。
「武器にする気か……? なんか、生臭そうだぞ? 魔獣は魚の臭いが苦手なんだろう? 逃げるじゃないか」
「きちんと加工するから大丈夫なんだよ。じゃあ、武器に使えない端材でいいんだな?」
うなずいた。
デカいとむしろ煮ることが出来ない。
内臓を処理していた職員が「うわっ!」と悲鳴を上げた。
「……あ、死んでた。良かった、驚きだよ……」
ニョッと首を出して見てみたら、超巨大ワームみたいなのが死んでいた。
「……寄生虫だろうな。栄養価と味はどうなのだろう?」
「食ったことはないが、皮は防具で使うな。弾力があって衝撃に強い。防水性もあり、そうそう傷まないので内側の素材に使うんだ。特に使われるのが兜だな」
「ふむ! ふむふむ!」
天然ウレタン素材らしいぞ。しかも防水加工付き。
「それも戻してくれ」
ブロンコのシートに加工しちゃうぞ!
いい加減、私のブロンコも作りたいしなー。
「何に使うんだ?」
ソードが聞いてきた。
「ブロンコのシートに使いたい。長時間運転してるとお尻が痛くなる……」
ならなかった。
「ならないけど、せっかくだから快適なシートにしたいのだ。防水性もあるっていうならなおさらだ。雨の日に運転……」
しないな。
「しないけど、人間は汗をかく生き物だし、防水シートの方がいいだろう。そろそろ私専用のブロンコも作りたいからな」
と言ったらソードが微妙な顔をした。
「……俺の後ろに乗ればいーじゃん」
「自分でも運転したいのだ。専用機を作らないと足が届かない。せっかく超人的身体能力を手に入れたのだから、私専用のブロンコはオフロード、つまり崖を上り下り出来る飛蝗の形のブロンコを作ろうかと……」
ソードがぐらぐら揺れ出した。
いやソワソワしているのか。
……まさか、欲しくなったりしていないよな?
「ソードは、飛蝗の形のブロンコは嫌だと言っていたよな?」
念のために聞いたら、ソードが首を激しく横に振る。
「嫌とは言ってねーよ? つか、俺のブロンコは崖の上り下りは出来ねーのか?」
うなずく。
「カッコいい形なのは、オンロード用だからなのだ。カウルが邪魔して崖は無理、というより傷だらけになるのでやめてくれ。私のは外殻にして傷は自動修復するようにするつもりだ」
私の説明に、ソードがしゃがみ込んだ。
「……お前が虫の形にこだわるのには理由があったんだな。それが今ようやくわかったぜ」
ううん、こだわっていないよ?
たまたまだよ?
オフロード車は飛蝗っぽいと言えばぽいんだけど、飛蝗にするつもりないよ?
ソードはどよーんと座り込んでしまった。え。崖を上り下りしたいの?
「むぅう……。じゃあ、兼用にしよう。シートとハンドルを上下可動にする作りにすればいけるだろう」
それって自転車みたいだな。
まぁ、エンジンは要らないから似たようなものだけどさ。
弾けるように顔を上げて、ガバーッと抱きついてきた。
「お前ってホンット良いやつ! すっげー良いやつだ!」
……そんなに乗りたいの?
いーじゃんか、ブロンコあるじゃんか。
新しい子にすぐ目移りするんだから、この浮気者メェ!
むっすーとしていると、察したらしいソードが慌てて弁解をしはじめた。
「いや、ちゃんとブロンコもかわいがるよ?」
「その前にシャールはどうなった」
「ちゃんと運転してるじゃん!」
間髪入れず叫ぶソード。私はソードをジロン、とにらんだ。
「リョークに言いつけるぞ。私専用のブロンコを作ろうと思ったら、ソードが新しい子が入ってくるのを聞きつけて色目を使い始めた、とな」
ソードがめちゃくちゃ慌てて私を止める。
「やめて、ホントやめて」
まったく……女性には一切色目を使わないくせに、新しい玩具にばかり色目を使って浮気するんだから! いろいろ終わっているぞ!
私が唇をとがらせると、ソードも唇をとがらせてすねながら弁解を続ける。
「だって、崖の上り下りをブロンコでするなんて楽しそうじゃんかよ……。別に、俺のブロンコで出来るならそれでいいよ? でも、できないから、しょうがないんだよ? しかたなく、お前のブロンコを借りるんだぜ?」
何言ってんだよ、しかたがないことなんて一つもないぞ。
ソードならその長ーい二本の足で崖の上り下り出来るだろうが。
ため息をついた。
「……まぁ、いいけどな。別世界で〝ダウンヒル〟もしくは〝エンデューロ〟、崖を下る競技が前者でそれを含む悪路を走るのが後者だな、それが出来る身体能力になったのでやってみたかったのだ。
ブロンコはそういうんじゃない、あれは道を果てしなく流星のように走るのだ」
ジャンプしたりするけど。
だってこの世界の道って普通に悪路だからね、岩とか普通に転がっているからね、最悪ジャンプして避けて欲しいからね。
実はブロンコは魔素障壁を薄くまとっていてやすやすと傷つかないし、多少の傷なら自己修復機能で直るようになっているのだけれど、あんまり派手な傷をつけてほしくない。
「走るのはそれでいいんだよ、だけど、その悪路を走るのはやってみたいじゃんかよ。お前だってやってみたいからブロンコを飛蝗にするんだろうが」
むぅ。
そう言われると……。
ため息をついて折れた。
「わかったわかった。森林や崖を走らせる用の、新しい子を用意すればいいんだな? ちなみに、別世界では完全にレジャーだったからな。必要に迫られて普通に走行するワケじゃない、仲間と余暇に楽しむものだったんだからな?」
「わかった! じゃあ、二人で走らせようぜ?」
ソードのテンションがまた高くなったよ。
うぅむ、私もちょっと楽しそうとか思ってしまった。
本来はタイムを競うのだが、競う前からなぜか私が負ける気がする。
得意のガンシューティングで負けたからだ!
「では、ちゃんとリョークに『説得』という名の『弁解』をしろ。リョークが良いと言ったら作ってやるから」
「え?」
私が指した方向……倉庫天井の梁の陰からリョークたちがじーーーっとソードを見ていた。
目つきなんて変わらないのになぜかジト目だとわかるすごさ。
ウチの子ってやっぱりラブリー!
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