第268話 さむいよーいたいよー

 ソードが慌ててリョークに弁解しに行ったのを放っておいて、近くにいた商人たちとおしゃべり。

 コラーゲンの話だ。

 歳を取ったり無茶な生活を送ったりすると、身体の必須成分が少しずつ減っていく。

 回復薬でもどうにもならない、なぜならそれはケガでも病気でもないから。

「――だから、バランスの良い食事……肉と野菜と穀物、を適度に摂取することが大切なのだ。肉は魚に置き換えても良い、というか魚が良い。あと、海上では葉野菜と果物がとにかく不足する。別にな? 乾燥していても良いのだ。乾燥させて持っていけばいい」

 説明すると、すごい感心された。

 そしてだんだん囲まれてきたぞ。

 感心して聞いてくれるので、私は解説に熱が入ってしまった。手をブンブン振り回してしゃべりまくる。

「――このヌメヌメのぬめり成分は、人間で言うとお肌の張りだ。年寄りはこのぷるんぷるん成分が不足してきてシワシワになっていく」

 と、言った途端に商人たちの目がキラーンと光った。

「よし、私も仕入れよう」

「私もだ、良いことを聞いた」

「……だが、他で仕入れられるか?」

「「「「…………」」」」

 商人たち、ギルドマスターに駆け寄って交渉し始めた。

 私はコラーゲンを手に悩む。

「若い子が飲むと吹き出物が出来ちゃうのだよなー。私は飲まない方がいいかなー」

「お前の顔に吹き出物出来たなら、祝だよな。肌荒れしたことねーんだからよ。一度くらいボコボコに荒れてみろ」

 おや。

 ソードが説得と言う名の弁解を終えたらしい。戻ってきて毒を吐いた。

 私はうなずいて、ギルドマスターに話しかけた。

「試してみるとするか。……ギルドマスター、端材を分けてくれ。コラーゲンスープを作ってみる。私のこの玉のお肌に吹き出物が出来るか試してみたい」

「ハァ?」

 すごい相づちを打たれたな。

「栄養が足りすぎている少年少女は、過剰に摂取すると過剰成分が肌から噴き出すのだ。私もピッチピチに若いので、なるのか試す」

「……なんか、言い方に若々しさを感じねーぞ」

 ギルドマスターはひどいこと言いながらも、

「ホレ」

 と渡してくれた。


 倉庫の端で作る。

 まぁ、大したことはない。骨を洗浄した後焼いてから端切れや香草、コラーゲンと共に煮ただけだ。

 いい匂いがして、スープが出来上がったので味を調え飲んでみた。

「うわ! ……確かに、若いとすげーことになるのな」

 飲んだ後の私を見て、ソードが引くほど驚く。

 ニキビはできなかったが、テッカー! とテカリにテカりまくった。

 ソードにも飲ませたら、そこまではいかなかったがテッカテカになった。

「うむ、ちょっと危険だな。若い私たちにはまだ必要ないようだぞ。さて、残りは……」

「ちょ、ちょっと待って下さい。お金を払いますから、味見させて下さい」

 ずらりと商人、そして作業している人たちが並んだ。

「「…………」」

 そんなつもりで作ったのではないのだが?

 煮こごりにしようかと思ったのにぃ。

 まぁいっか。


 配ったら、テカる人とそうでもない人とに分かれた。

 ちなみにギルドマスターはテカらなかった。

「コレ、嫁さんに飲ませたらどうなる?」

「若さ以前の問題だろ? お前ントコはよ」

 って話をしているぞ。いいつけるぞ。


 私は話をしている漁師たちをジロン、と見た後ソードを見て、再度説教。

「お前も若い子に目移りせず、ほしがらず、今いる子たちをかわいがれ。でないと私が、若い子に目移りする男の歌をリョークに覚えさせて歌わせるぞ」

「やめて、本当にやめてください」

 ソードが慌てて私を拝んだ。

 敬語になったほど嫌みたい。


 ふと、寒々しい気配がしたと思ったら、悪寒の走るような声が聞こえてきた!

「……ふん、若い女に次々と目移りする落ち目のSランク冒険者か。ろくでもないやつだな。やはり、この『次代のSランク冒険者』シャイニングライトニングスターの敵ではないようだ!」

「ソーーーードーーーーー!!」


 出たーーーーー!!


「ハイハイ。かばってあげるから、リョークに変な歌を覚えさせないでね? あと、誤解を招く発言も止めてよ。俺、ちゃんとリョークもシャールもブロンコもかわいがってるから。つーか、全部別物じゃんかよ。機能違うんだから同列に扱えないでしょーが」

 ソードにヒシッとしがみつくと、ソードがよしよしとなでてくれた。

 それから眉根を寄せて痛すぎ男を見て言い放つ。

「おい、嫌がらせはやめろって言っただろうが。インドラはお前が怖いんだから、目につくところに現れるなよ」

 プルプルプル。

 イタイよーサムイよー。


 フッとキザったらしく笑う気配がして、さらに寒くなる。

「この俺シャイニングライトニングスターの直視できない輝きは、落ち目のSランク冒険者を見慣れている荷物持ちにはまぶしすぎたか」

「ソードーーーソードーーー!」

「ハイハイ」

 ソードが私を抱き上げた。

「わかったわかった。どっちもな。俺たち撤収するから、それまでホントどっか消えてて。あと、インドラは荷物持ちじゃなく、お前より高ランク且つ実力のある冒険者だから。――二度と忘れるなよ」

 ソードが最後の言葉を脅すように言った。

 そして私は寒い。

 フン、と鼻で笑う気配と何かをすする気配。

「……ふむ。味はまぁまぁだな。荷物持ちだけでは役立たずにも程があるしな、料理も多少は出来るようだから、この俺、シャイニングライトニングスターが拾ってやっても良い」

 ソードが呆れた声を出す。

「お前、聞いてた? 消えろ、っつってんの。あと、インドラはAランク冒険者だ。お前より上だから。もっかい言うけど、コイツはAランク冒険者! お前、まだBなのにAランクを荷物持ちにするっつってんだぜ? わかってんのか?」

「……ソード……無駄だ……その病持ちは……その特徴は……人の話を聞かない……難聴なんだ……そして妄想癖もあるんだ……コワッ!」

 震える声で伝えたら、ソードに頭をガシガシなでられどこかに運ばれた。


「しっかりしろ。もう出たからなー。それで、森林遊び用のブロンコ作ってね?」

 出たのか。ひと安心。

 ホッとしたので顔を上げ、ソードに言った。

「【プロンク】って名前にするつもりだ。鹿が跳ねてる意味だ」

「飛蝗作るんじゃねーのかよ」

 冷静なツッコミが。

 だって、グラスホッパーって言いにくいし。

 ……ホントは○トルホッパーとか○クロバッターとかつけないといけないのかもしれないが。


 あ、それで思い出した。

「私のプロンクはリョークと同じAIを搭載するが、どうする?」

 基本的に私の作るゴーレムには魔石を搭載して並列化させているのだけれど、それをやるとリョークがやきもちをやく。いっそ魔導具として作ればやきもちをやかれないんじゃないかなと思って聞いてみた。

「一緒にして。……でもそれってリョークがやきもちやかない?」

 やはりソードもそう思う?

「私にやくことはないだろうが、お前はどうだろう?」

 私はちゃんとかわいがっているしラブリーで鼻血出そうだしなにゆえソードの方がより懐かれているのかわからないくらいに好きだから。

「なんで俺だけ……」

 ソードがガックリしつつ、私を運んだ。

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