第263話 ぬるぬるの液体にまみれてるよ

「うみー、それはひろくー、それはふかくー」

 歌っていたらソードが笑い出した。

「途端に元気になったな」

 だって、あんな寒い人間見て平常心を保てって言うのが無理だと思う。

 憐れを通り越して具合が悪くなるレベルだもん。


 ……と、見えてきましたウツボスポット。

 下に超巨大怪魚が潜んでいるのが見えます。

「リヴァイアサンもこんな感じじゃないのか?」

「ヒレがもっと豪華だな。あと、鱗がある」

 ふーん。

「モーレイは、陸でも活動出来るのだよな。皮膚呼吸出来るらしいぞ」

 ソードが驚がくした。

「マジかよ!?」

「別世界のモーレイはそう聞いたな。首を刎ねないとそのまま陸で暴れる可能性があるぞ」

「了解!」

「「あいさー!」」

 ソードがやる気。

 リョークもやる気だ。


   ドッパァアアアン!


 盛大に突き上げしてきた。

 全員跳んで回避。

「単調な攻撃だな」

「普通は効果的なんだろうな。船ならひとたまりもないだろうが……」

 機動力と小回りが段違いにあるからね。

 リョークが氷結ガトリングを発射。

 が、ぬめりがすごいらしく、凍った場所がヌルッと落ちた。

「いやらしい液で全身を濡らしておるな!」

「なに言ってんだよ」

 ソードが氷結魔術よりも冷たい目で見てきた。

 むっすー。

「この液体を採取して、夜の商売のお姉様方向けに売り出したらどうだろう?」

「生臭くて誰も買わないだろうな」

 …………。

 その通りだった。


 しばらく遊んでいたけれど、飽きてきたので凍らせる。

「絶対零度の氷結を思い知るがいい」

 厨二的セリフとポーズでキメたのに、

「首、落としていい?」

 スルーしたソードが聞いてきた。


 ソードが首チョンパした後、皆で引っ張って帰る。

 帰る途中で襲ってきた魚もついでに冷凍。

「大漁だー!」

「まったくだよな。魚料理、期待してるぜ?」

 笑顔で言われた。


 戻ってきたら、まだ人がいた。

「おい!? もう戻ってきたぞ!」

「スゲェ! アレ、追われてるとかじゃねーよな……?」

「いや、頭と胴体が別々になってるから違うだろ。……オイ? 他の魚もいるぞ……アレ、グレートソードフィッシュじゃねーか!?」

「マジか!? ……本当だ! あんなの仕留めてきたのかよ!?」

 なんだろう、冷凍本鮪みたいなネーミングの魚は。

 むしろ秋刀魚の方かな?

「むむ。食用出来ると思って仕留めてきたが、『この魚は食用に向かない』などというオチがあると悲しいな。凍らせたまま剣として使うしかないじゃないか」

「凍った魚を武器にするなよ。木剣の方がまだマシだっつーの」

 ソードにツッコまれた。


 桟橋に飛び乗ると、漁師っぽい人たちが駆け寄ってきた。

「本当に仕留めてきたんだな!」

「グレートソードフィッシュもかよ!?」

「ガッチガチに凍ってねーか? 海に浮かんでるのに、なんで凍ったままなんだよ!?」

 とかワイワイ言われた。

「凍らせてるのは、寄生虫を殺したいからだ。私の魔術は特殊でな、解除ができない。このまま放っておけば明日か明後日には溶けるだろう。ちなみに、帰る途中でコイツが襲ってきたのでついでに凍らせてきたのだが、これは食えるのか?」

「「「「もちろん!!」」」」

 その返事でおいしいらしいのがわかった。

「とりあえずギルマスに報告だな。うまいなら少し戻してもらおう」

 ギルドに行くまでもなく、ギルドマスターが走って向かってきた。

 そして、凍った魚を見て絶句。

「…………すさまじいな」

 とつぶやいた。

「買い取りよろしくな。身は少し戻してくれ。全部位を頼む」

 ソードがにこやかに伝えた。

 食べるのが楽しみらしいよ。

「あぁ、寄生虫対策に冷凍させている。丸一日凍らせれば息の根を止められるはずだからな。徐々に溶けていくだろうから、頃合いを見てから捌いてくれ」

「「「「応!!」」」」

 漁師らしい掛け声で了承された。

「頭は凍らせなくてもいいんじゃないか?」

 ギルドマスターに指摘されて、ポンと手を打った。

「そういえばそうだな。ソード、〝レンチン〟魔術の出番だ!」

 ソードを振り返り、ビシッと言ったらソードが嫌な顔をした。

「変なネーミングを付けんなよ。光魔術だっつーの」

 ソードが超早口で詠唱し、レンチンする。

 周りがどよめいた。

「さすがSランク冒険者……!」

「光魔術って、神官でも高位じゃねーと使えないって噂だろ?」

 そうなんだ。

 そんなありがたそうな魔術なのに、レンチンで使っているけれど。

「ホラよ。解凍出来たぜ。どっか運ぶか?」

「倉庫に頼む」

 ギルドマスターに言われたので、引き上げた。

 汚かったのでアルカリイオン洗浄魔術で洗う。

 またどよめかれた。

「詠唱してなかったよな?」

「Sランクってこんなん簡単に使えるのか?」

 使えないぽいよ。

 あ、でも、ソードはやる気を出したら使えそう。

「大体綺麗になったな」

 汚れた水をぽしゃっと捨てると、ソードが軽くつかんで背負った。

 私は残りの魚を別の倉庫に運ぶことに。

「下手に触るとやけどよりも大事になるから、素手では絶対に触るなよ」

 と脅してから倉庫に入れておいた。

 倉庫が冷凍庫のように寒いことになったので、理解してくれたようだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る