第264話 ギルドマスターの苦悩〈ギルドマスター視点〉

〈ギルドマスター〉

 ――この町の住人全員が困っただろう。

 Sランク冒険者が訪問してきたこと、それ自体は手放しで喜びたい。

 冒険者ギルドから回ってきた情報では、

『Sランク冒険者【迅雷白牙】が新たな仲間を引き入れてパーティを作った。見たこともないゴーレムを引き連れて王都のダンジョンを攻略し、構えた拠点のある町はこれといった特徴もなく役人を派遣して徴税していた小さな町だったのに、今や整備され王都に負けない繁栄を見せている』

 とのことだ。

 シーイのギルドマスターからも連絡が来ている。

『酒場を開いたら絶対に行け』『飲んだことのないような酒や料理を【迅雷白牙】の『相方』が作っている』『彼は天才だ』と褒めちぎっていた。


 だがシーイの住人のように、手放しで無邪気に喜べない。

 ここには、『シャイニングライトニングスター』と名乗っている青年がいるからだ。

 言動に癖があり、シャイニングライトニングスターを毛嫌いした冒険者がここから他に移ってしまうという難点もあるのだが、彼はこの町で唯一のBランク冒険者。彼が快く依頼をこなしてくれているからこそ町が回っている。

 冒険者の質や人数に対して依頼が多すぎ、彼の機嫌を損ねて出て行かれたらこの町は困るのだ。

 住人もわかっているからSランク冒険者の来訪を喜べなかった。


 本当はもっと歓待したい。

 せっかく来てくれたのだ。

 王都からの距離を考えると、来訪してくれたのは奇跡に近い。


 だが、Sランク冒険者をライバル視している彼がいるために、困ってしまっている。

 そう思い、言葉を濁していた。

 濁していたのだが……。

 ギルドマスター自身、という存在を分かっていなかった。


 なぜSランク冒険者が優遇されているのか。

 三名しかいないのか。

 そのSランク冒険者が認めた冒険者という存在がどれほどの者か。


 Bランク冒険者とSランク冒険者の差は、埋まるどころかその距離すら計れない。

 特に英雄【迅雷白牙】は剣術も魔術もトップだ。

 悲鳴を聞いたらその悲鳴が叫び終わる前にそこに現れ、何時抜いたかわからない速さで抜刀している。

 魔術は、全ての魔術に精通し一瞬で唱え発動。

 力自慢の漁師が二十人ほど集まって運ばなければならないような重量と大きさの獲物を軽々運ぶ。

 それは人間業ではない。

 さらに、その豪胆な精神は、Sランク試験があると勘違いし、ドラゴンが来襲すると目を輝かせる。

 ドラゴンの強さを知らない者ではない。

 戦って撃退しその強さを実感した者が、強敵に再び見えると胸を躍らせたのだ。


 ……シャイニングライトニングスターも、ドラゴンが来襲すると知ったら決して退かないだろう。

 今こそ名を馳せる機会だと言い、立ち向かうだろう。

 だが……本当に見えたとき、その計りしれない強大な敵に出遭ったとき彼はどうするのか?


 ――シャイニングライトニングスターには、しばらく遠出してもらうための依頼をかけておいたので穏便な対応が出来たが、そうでなかったら彼がどんな暴挙に出たかわからない。

 絶対に勝てない相手だ。

 知らずにいてほしい。

 そう願った。

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