第250話 聖女たちと遊ぼう!

 私の笑みに何人かひるんだようだが、一人、高飛車そうな男がズイ、と前に出た。

「頭が高いぞ平民! この御方を誰と思っているのだ!」

 怒鳴ってきた。

「ダンジョンコア様か?」

 と聞いたら、斜め上の回答だったらしく、ポカンとした。

「私が騎士の礼をするのは、ダンジョンコア様のみだな。男子の礼ならそちらが挨拶してきたなら、やってやってもいいぞ」

 呆気にとられた一同。

「……にしても、お前。私に対して随分と生意気な口を利いたな。私を誰と思っているのだ?」

 高飛車な男に一歩迫って言ってやった。

 後ろから指笛が飛ぶ。

「インドラ様、かっけー!」

「最強! 絶対ついてく!」

 ふむ。

 つまりは、連中は指針だな。

 私に利がないと悟ったら、離れていくのだ。

 つまり、それにより私も方針を変える必要があるのか。

 ……でもやっぱ、我慢するの無理だから、利がなくてもやりたいことをやーろうっと。


「……な、なんだと?」

 ひるんだ高飛車な男に私は言った。

「土下座してわびろ。今ならまだ許してやる」

 全員が、シーン、と静まった。

 まさかそうくるとは思っていなかったのだろう。

 もう一歩迫ったら、全員が一歩下がった。

「私の頭は、この国の王にも下げることはない。せいぜい、魔王国のダンジョンコア様、いわく魔王様にダンジョン攻略のお願いをするときくらいだな。その私に頭が高いだと? ……抜かしてくれるな。その高慢、私が物理的にたたき直してやろうか」

 高飛車な男は、ワケがわからないといった顔をしている。

 後ろではヒソヒソしゃべっている。

「ヤバい、惚れちゃいそう」

「待てリモン、兄ちゃんは反対だ。インドラ様はかっけーけど、主人としてはいいけど、兄ちゃんの義弟には向いてない。王様にも頭を下げないって、兄ちゃん、そんな義弟怖くて無理」

 兄妹よ。残念ながら、私は男とも女とも結婚しない主義だ。

 さて、目の前の連中は、とんでもないのに喧嘩を売っちゃった、って顔しているやつと、呆気にとられて何言ってんだコイツ? って顔しているやつとが半々だ。

 まだ用件すら聞いていない段階でコレだもんな。

 もう、魔術使って拷問しちゃおうっかなー?


 すると、私と同じかもうちょい年上の女性が、静かに制した。

「お待ちなさい。……彼は、私をかばってのセリフです。愛をもって許しておやりなさい」

 …………。

 何言ってんだコイツ?

 って顔を私がした。

 その顔を見た女性が、眉をひそめた後、咳払いした。

「私は、ララ。次代の聖女に認定された者です」

 ふぅむ?

 つまりは、まだ聖女ではないのか。

 ……だが、私にそんなことを言ってどうするつもりだ。

 そんなことは知ったことではないだろうが。

 聖女がまた咳払いした。

「ここに、Sランク冒険者がいると伺いました。貴方は彼の従者なのですか? 主人はどこです?」

 …………。

「わかった、つまり、聖女というのは人様の家にズカズカ入り込んで、威張り散らす人間のことを言うんだな!」

 私が叫んだら、全員硬直した。


「な、な、な、なんということを……」

 高飛車な男がブルブル震えた。

「お前が最も聖女だな! いきなり、人様の家に入ってきて頭が高い! は、一部の貴族がやるかやらないかだぞ? しかも、私に言ってのけるとは、実力が読めないバカな人間しかやってこないぞ。魔物ですら私の実力を知りおびえ隠れるというのにやるとは、魔物以下のバカだな!

 わかった、つまり、聖女とは威張り散らすバカのことを言うんだな!」

 私は指を突きつけた。

「なんということを!」

 高飛車な男が繰り返した。

 私の後ろでもドン引きしているようだった。

「私、やっぱ、インドラ様のお嫁さんは無理かも」

「だから兄ちゃんが言っただろうが。王様に頭を下げられない人のお嫁さんなんて、心臓に毛が生えてないと無理だから」

 リモンたちにひどいこと言われている気がする。


 私の発言を聞いてる気になったぽい高飛車な男と護衛は、武器に手をかけ始めた。

 それを見たリモンたちはひるんだようで、おびえた声を出した。

「い、インドラ様……」

 私は少しだけ振り返り、安心させるように笑う。

「お前たちはおう揚に構えて、準備していろと言っただろう? 私は大魔術師にして大魔導師、ソードに匹敵する天才だぞ。しかも、リョークもいる。そんなに不安なら、リョークの側にいろ。リョーク、ソイツらを守れ。魔素障壁展開!」

「あいさー!」

 私付きのリョークがシュタッと現れて、あっという間に魔素障壁展開。

「あ! 昨日の歌ってたゴーレム!」

 リモンが叫ぶと、リョークが挨拶をした。

「僕はリョーク! お母さんが作ってくれた歌って踊れる戦闘ゴーレムだよ!」

「やっぱすげーなインドラ様。なんかもう、いろいろ規格外すぎ」

 現れたリョークにお気楽メンバーが安堵し、聖女の護衛が動揺した。

 聖女も動揺した。

 高飛車な男は、動転しながらわめく。

「ま、魔物!!」

「ゴーレムと言ってるだろうが」

 私が訂正すると、高飛車な男が否定する。

「こんなゴーレムがいるわけがない!」

 なんで決めつけるのだ。

「なぜお前が決める。お前は神なのか?」

 私がそう聞いたら、高飛車な男は動揺したなんてものではなかった。

「神であるわけなどないに決まっているだろうが!」

「じゃあ、なぜ決めつけた」

「…………」

 高飛車な男、黙る。

「お前が森羅万象を創造し全てをつかさどる神でないなら、決めつけるな。神を気取るな。お前のような者を『罰当たり』というのだ、わかったか」

 後ろで拍手。

「すっげー! 聖女の従者相手に『罰当たり』って言ってのけた!」

「お母さん、さすがですー!」

 リョークが応援してくれて、ニヘラ~と笑った。

「むふ~。リョークが応援してくれてるし! よーし、張り切って拷も……説教していくか!」

 私の張り切った発言を聞いた全員が、声をそろえた。

「「「「「拷問って言った!?」」」」」

 気のせいだ。

「さぁ、かかってこい! 順番に優しく説教してやるぞ! フフフフフ……ソードは折良く依頼消化中! さぁ、ソードが帰ってくる前に、私と存分に楽しもう! レッツ拷問!」

「「「「「拷問って言った!」」」」」

 あ、言っちゃった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る