第249話 聖女が冒険者を引き連れてきたよ(ワクワク)

 洗い終わって出てきた神官さん(カソック洗濯乾燥中なのでとりあえず買ってきた古着に着替えた)がお礼を言った。

「大魔術師様、この度はありがとうございます」

「……開けるのが怖いので開けていないが、綺麗になったと思う。汚れてたら言ってくれ、再度洗浄する。とにかく! 綺麗にしたのだから、維持してくれよ? 私は、本当に! 汚いのが怖いのだ。綺麗にするための手間はまったく惜しまない」

 ソードにすがって言うと、神官さんが呆れたような顔をし、プッと笑った。

 え?

 何がおかしいの?

 私が不思議そうな顔をして神官さんを見ると、理由を言った。

「貴族の方なのに平民の孤児に目を掛けて下さるなんて、面白い方だと思いました」

 ん?

「いや、私は平民だぞ?」

 私は訂正する。

「え?」

 神官さんがポカンとした。

 ソードが苦笑する。

「コイツは元貴族なんで貴族の振る舞いが板についてるんだ。でも、今は平民だよ。俺たちは冒険者をやっている」

 神官さん、今度は曖昧な表情になった。

「ここら辺じゃあんまり聞かないだろうな。これでも俺たちはSランク冒険者なんだよ」

 神官さん、今度は目を見開いた。表情豊かだな。

「……まさか、あの、英雄【迅……」

「【オールラウンダーズ】! ってパーティ名なんだ! 俺は、ソード!」

 ソード、必死だな。

 ……にしても。

「お前のその痛々しい二つ名、王都から離れたここまで鳴り響いてるとはすごいな。アマト氏が聞いたらさぞかし気の毒がるだろう」

「うるさいよ!」

 グリグリされた。

 理不尽な!


 気を落ち着けた神官さんが、今度は微笑みながら言った。

「……そうですか。英雄様はパーティだったのですね。さすが、素晴らしい大魔術ですね。私も多少の聖魔術は使えますが、今のように多数の魔術を同時に無詠唱で行うなんて、ましてや戦い以外に使うなんて、本当に素晴らしい方々だと感心いたしました」

 それを聞いたソードが曖昧な顔になる。

 いいんだ、ソードもやろうと思えば出来るくせにやらないだけだ。

 ちゃんと理論を理解すればやれるはずなのになー。


 子どもたちも綺麗になって着替え、駆け寄ってきた。

「お兄ちゃん、ありがとー」

「うん、こっちのお兄ちゃんにお礼だな。私はお姉ちゃんだからな? お姉ちゃんにもお礼を言ってくれ」

「??? お姉ちゃん? ありがとー!」

 なんか疑問符がいっぱいついているけれど。

 ソードがグリグリと私の頭をなでた。

「気にするな。……つーことで、今日明日くらいまではいるから、なんかあったら空き地に来てくれ。子供たちは場所を知ってるだろ。俺はしばらく緊急依頼を片すからほぼいないけど、コイツはいるから。……にしても、なんでこんなに冒険者不足なのかね」

 ソードのつぶやきに、神官さんの顔が引きつった。

 んんん?

「どうかしたか?」

「いえ? なんでもありません」

 神官さんは、慌てた笑顔でほほ笑んだ。


 私は雇った連中の仮住居&店舗用にシャール・ノンバイオレンス・キッチンバージョンを作ることにした。

 ソードのシャールに乗せて連れて回るにはやや人数が多すぎるし、今後キッチンカーがあれば屋台を開催しやすくなるし。

 こういった、唐突に思いついて作るための材料は、常に準備してあるのだ!

 【笑顔でお気楽】メンバーに手伝ってもらいつつトンテンカンテンとキッチンカーを作っていると、集団がゾロゾロと空き地にやってきた。

 お手伝いさんたちではない。なぜなら、やってきたのが武器を下げた清潔感の欠片もない強面のおっさんたちだからだ。

 客にしても早すぎるな。

 ここは一応、ソードが借りた空き地だから、無断でゾロゾロと入ってこられては困るのだが。

 立ち上がり、向かって行こうとすると、

「い、インドラ様」

 ハッサが止めてきた。

 どうでもいいが、コヤツ等も『様』付けて呼ぶようになってしまったのだが。私は強制していないのだが。

「どうした」

 私が聞くと、ハッサがおそるおそる言った。

「……アレ、聖女様ですけど」

 聞いた途端、思わず口角が上がってしまった。

「うわ! インドラ様が悪い顔をしてる!」

 リモンが叫んだ。

「失礼だな、リモン君。トラブルが避けて通る私にしては珍しくトラブルが飛び込んできた! と喜んでなぞいないぞ?」

「「「「「自白した!!」」」」」

 失礼な。

 していないぞ。

「お、おい、リモン……」

 ハッサたちが不安そうに私を見つつリモンに、恐らくスキルでこの状況をどう感じているのかを聞いた。

「……大丈夫。インドラ様は負けない。この出会いは、絶対、当たりだって、私のスキルが言っている!」

 そう言い切ったリモンを見て私はうなずく。

「その通りだ。お前たちはおう揚に構え、準備を続けろ。私は平民、誰よりも自由な冒険者なのだ!」

 そう告げると、聖女に向かって歩く。

「何用かな? ここは私のパートナーが借りた私有地だ。勝手に入ってくるということは、何をされてもしかたがないということだぞ?」

 出方によっては拷問しよう。

 ウフフフフ、どんな拷問にしようかな~?

「うーわ、リモンの言う通り。インドラ様が、すっげー悪そうな顔をしてる!」

「難癖をつけられたら倍にして返すぜ! カモン! って顔だよねー」

「怖い、けど、成り行きを知りたい……!」

 後ろで騒いでいる声が聞こえるぞ。

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