第242話 屋台の準備をしよう

 空き地を借りた。

 リョークのイラストも添えた立て看板をぶっさす。

『夕方から、屋台をやるよ! お手伝い募集! リュートでミニライブもやるから、皆来てね!』

 私は腕を組んで看板を見つつ、つぶやいた。

「まず、文字が読めるか? というところから始まるが、最悪、ギルドマスターが職員を呼んでくれるそうだ」

「それでもいいよ。つーか、金なんて取らなくたっていいだろ?」

 そう言ったソードを見据えて、私は真剣に言った。

「駄目だ。私は施しは嫌いだ。金銭の問題じゃない。与えるだけは良い関係を築けない。金が無かったら物と交換でも、一曲歌っていくのでも、働くのでもいいのだ。金のやり取りが発生するために手間がかかろうと、無料は良くない。お前も、何を言われようが施しはやめろ。寄付とは違うのだ。相手に負い目が出来る」

 ソードが面食らった顔をした後、うなずいた。

「…………そうか。そうだよな。って、寄付はいいのか?」

「そもそも、アレは考え方が違う。働いてる連中がそもそも無給だ。寄付の代わりに、祈りをささげたり、弱者の救済をしたり、与えているばかりではないのだ。だから、受け取る方も堂々と受け取るだろう? 負い目なく『別の形にして返す、もしくは役立つことに使う』と心から思っているなら施しではないし、自分もそのつもりで渡すのだ。そして救済ならば、相手が欲しているなら渡したいなら渡せば良いのだ。相手は助かるし自分は良いことをした気分になれる」

 ソードが笑った。

「わかった。無闇矢鱈におごるのはやめる」

 なでられた。

「で? 屋台では何を出す?」

「内海は、海の幸が採れるはずだが今日は討伐した肉だな。シンプルに香草焼き、あとは野菜と一緒にバーベキューソースで焼いたもの、あとは……餃子でもいっとくか。小さめの揚げ餃子なら食べやすいからな、ついでにミートボールのトマト煮込みでも作るか。あ、一応付け合わせの野菜も、蒸した物にマヨネーズだな!」

 ソードが膝をついた。

「どうした!?」

「うまそう。すげーうまそう。今すぐ食べて酒飲みたいって思ったら、身体に力が入らなくなった」

 なんだそれは。


 脱力したあと気合いの入ったソードが、五つくらいギルドの依頼をこなした。

 私は最初ついていったのだが、案の定エンカウントしなくなったので、

「酒場の準備しててくれ。お前に討伐依頼は向いてないから」

 ってソードに言われてしまった。


 ムムム……。

 だがしょうがない。

 私もおびえる魔物を殺したくないし。

「おびえなさそうな、手助け出来そうな魔物がいたら呼んでくれ」

 念押ししてから屋台制作に取りかかった。


 皿やフォークはこんなことがあろうことかと事前に作っておいたので足りる。

 バルのようにしたかったので簡素な椅子とテーブル(これも事前に作った)の他にカウンターと立ち飲み用のテーブルも作った。

 前回は、いろいろな人が手伝ってくれたのと、ある程度顔が知られてからやったので盛況だったが、今回はいきなりやるので来ないかもだなー。

 ま、そのときはそのときで、ソードとしんみりと飲んでればいいか。


 ギルドマスターから聞いたところ、この町はわりと宵っぱりだそうだ。

 他の町だと暗くなると皆家に引っ込む、酒場も日が完全に落ちる前に閉まるのだけど、王都とここは夕方からが勝負!みたいな、別世界の都心部みたいな感じだ。

 皆、ランプを持参するのは当たり前だそうで……。

 火事に気をつけてね。


 さて。バルと言えばタパス。

 タパスと言えばピンチョス。

 だが、圧倒的にパンが足りない。

 バケット三本くらいしかないし、今から仕込んで間に合うか間に合わないかって感じだな。

 とりあえず仕込んでおいて、クラッカー焼くか。

 ……といろいろ考えつつ仕込んでいたら、ソードが戻ってきた。

「とりあえず、最初の獲物」

 わざわざ一つずつ狩っては戻ってくるのか!

 義理堅いな!

「ありがとう。助かる」

 魔物を受け取り、ふと、この世界の魔物って肉食なのになんで肉がおいしいのかな? と考えた。

「ふーむ。別世界では、肉食獣の肉は食えたものじゃないほど臭かったらしいが、この世界の魔物は肉食でも食べられるのだな」

 つぶやいたら、ソードがキョトンとした。

「魔物は肉を食わないぜ?」

「えっ?」

 今度は私がキョトンとすると、ソードが説明してくれた。

「魔石を食うんだ。肉は食わない。ま、魔石の周りにある肉は一緒に食うかもしれないけど。チャージカウだって、草食ってるじゃねーか。コカトリスの蛇は魔物を食ってるけど、アレも魔石狙いだろ。丸飲みしてるからな。ワームも丸飲みするけど、基本は土食ってる」


 ガーーーン。


「……人の罪深さが浮き彫りになる話だな。つまりは! 人間しか肉を食らわないのか!」

 ソードが呆れた顔になった。

「魔石狙って殺して魔石食うのと肉狙って殺して肉食うのと、同じだと思うけどね、俺は」

 ……確かにその通りだね。


 ソードはまた狩りに行き、私は調理へ。

 塩漬け発酵肉がいいあんばいになってるので、これをスライスして、果実と野菜と合わせてピンチョスにしよう。

 では、野菜を仕入れてくるか。

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