内海DE屋台ざんまい編

第241話 いきなり叫ばれたよ

 内海の周りにある町の中で、一番近かった町に着いた。

 にぎやか且つ華やか。

 イメージとしては、別世界にあった最大の内海がある場所の陽気な国っぽい。

 検問所の役人にカードを見せたらなぜか固まり、二度見された後、叫ばれた。

「うわーーーーっ!」

 詰め所にいた役人がわらわら出てきた。


 私とソードは呆気にとられる。

 現れた役人たちが叫んだ役人と私たちを見比べて聞いた。

「なんだ!? どうした!?」

 コッチが聞きたい。

「見ろよ!」

 って、叫んだ役人が勝手に人のカードを見せている。

「うわーーーーっ!」

 また叫ばれた。


「おい、返せよ」

 ソードが若干不機嫌になりつつ催促した。

「ハッ! し、失礼しました! 【迅雷白牙……」

「Sランクパーティ【オールラウンダーズ】!」

 役人にみなまで言わせずソードが叫ぶ。

「あ、そういう名前だったんですね?」

「そうなの。ちょっと、変な二つ名で呼ばないで。【オールラウンダーズ】だから! 俺はソード!」

 ソード、必死。

 そして、ここでなら修正が利くと思って【オールラウンダーズ】を浸透させようとしてる。

 役人は、朗らかになってあいさつしてきた。

「いやー、遠路はるばるようこそお越し下さいました! 王都からは遠いでしょう? ここはここで栄えてる……と思うのですが、交流は同じ内海の者たちとばかりなので、王都の情勢に詳しくなくて。でも、内海ならではのものがたくさんあると思うので、是非ご覧になっていって下さい」

 もちろん!

 こここそ私の別世界でのクラシックギター知識が映える場所だと思う。

 酒場で是非かき鳴らしたい。

 いや、酒場を作るね!

 また屋台やっちゃうぞー!


 ……と、私がウキウキしてたら、

「あ、そういえば。今、聖女様がご滞在されてます! それで、かなりにぎわっております。普段は詰め所にこんなに人数がいないのですが、万が一のために増員しており、さらに関門チェックも厳しくしていて、ちょっとお時間がかかってしまいました」

 とか、役人に弁解されたけど。

 いや、ソレ、冒険者カードを皆が回し見てるからでしょ?

 クリスタルっぽい魔石に代わる代わるかざしてるの、こっから見えてるよ?


「……聖女?」

 ソードがピクリと眉を動かした。


 むむ?

 ソードが聖女に反応したぞ?

「……まさか、そやつらも勇者に続く問題児、ではないよな?」

 私が聞いたらソードは黙ったが、役人は手を横に振った。

「いやいやとんでもない! 聖女様は、各所を巡り、浄化と、さらに難病の回復を行う尊い方です。こんな場所まで来ていただけるとは、光栄ですよ」

 ふむぅ。

 だがソードの反応を見るに、そうでもないぽいのだが。

 後で聞こう。


 町に入ったら、期待通りの景観だった。

 ソードも感動してるようだ。

「なんつーか、今まで訪れたことのない雰囲気だよな」

「うむ! 海辺の町と似ているが、もっと穏やかだな! ここは、私が習っていた楽器の曲を産み出した町に似ている! なので、是非! 屋台で盛り上がりたい! 私の弾いている曲は、酒場で弾くのがお作法なのだ!」

「何でも言って。何でも協力するから」

 ソードが即答した。


 ギルドに入り、ソードがお決まりのセリフを受付嬢に述べた。

「Sランクパーティ【オールラウンダーズ】のソードだ。ギルドマスターに面会させてくれ」

 すると、なぜかシーン、と静まった後、

「「「「「うそ!?」」」」」

 って周り中から言われた。

「『うそ』って掛け声は、今までになく斬新だな」

 私がつぶやくと、ソードが肩をすくめた。

「ま、来たことないからな。でもカードはうそ吐けないけど」

 ソードが受付嬢にカードを渡すと、受付嬢は両手で掲げるように受け取る。

 私は腕を組んで感心した。

「斬新な受け取り方だな。他では見たことないぞ」

「……うん、さすがに俺もそう思う」

 ソードはやや呆れ顔だ。

 受付嬢、読み取り魔石にかざし……。

「本物です!!」

 両手を上げて皆に見せるように振り返った。


「当たり前だ」と、私。

「え? もしかして本当に疑ってたの?」はソード談。


 そして、そのままカードを持ってどっかにいってしまう受付嬢。

「おい! 返せ!」

 ソードが慌てて声をかけるが、姿を消してしまったよ。

「斬新すぎるな。受付嬢がカードを持ち逃げとは。まぁ簡単に追いつけるのだが。どうする?」

 私が聞くと、ソードが頭をかいた。

「ギルマスに見せに行ったんだろ。まーいーや、待ってよーぜ」

 ソードが投げやりに言った。


 ソードの言う通り、ほどなくしてギルドマスターと受付嬢が現れた。

 ギルドマスターが叫ぶ。

「【迅雷白牙】が来てるって、本当か!?」

「Sランクパーティ【オールラウンダーズ】!!」

 ソードが叫び返した。

「おぉ! そういうパーティ名なのか! 本物か!?」

「カード見ただろうが! つーか、カード返せ!」

 ここの人たちって、カードを貸すとなかなか返してくれない。

 私、学習した。


 みなさん、ようやく落ち着いて、私とソードはギルドマスターの部屋で依頼確認。

 内容自体は大したことはないけれど至急案件が多いので、それをこなすことになった。

「ここは冒険者の数が少ないのか?」

 ソードが聞くと、ギルドマスターが首を横に振る。

「聖女様がいらしていて、それの警備に冒険者が駆り出されて人手不足なんだ」

 ギルドマスターの言葉に、ソードが眉を上げた。

「教会の聖騎士団がいるだろ」

 ギルドマスターは苦笑した。

「今の聖女様、修行中だそうだ。お付きの聖騎士団もほんの二~三人だよ」

 ソードが驚いた顔になった。

「……そりゃ、教会も随分変わったな。俺が昔出遭った聖女様とやらは、聖騎士団の連中に周りを囲ませて、本人なんかまったく見えなかったもんだったぜ?」

 なるほど、それで嫌な目に遭ったのか。

 ソードは不幸体質だからなぁ。

 ギルドマスターは声を潜めて言った。

「噂だと、前の聖女様に大層嫌われてるらしいぞ? 何やらかしたのか知らないが、前の聖女様はここまで来なかったからな」

 ふーん。

 ありきたりの話だな。

 巻き込まれると楽しそうだが、ソードがかわいそうなのでやめておこう。

 ソードはギルドマスターの話を聞いて眉根を寄せる。

「じゃ、近寄らないようにしとこっと」


 ホラ言った。


「お前が巻き込まれると気の毒だから、私も率先して巻き込まれに行くのはやめておこう」

 私が同意するとソードがびっくりした顔になり、いい子いい子してきた。

「お前、優しくなったなぁ。お前なら絶対にわざと巻き込まれに行っただろ?」

「うむ。でないとトラブルが避けて通っていくからな。面白そうだが、まず依頼を片づけてこの町をゆるりと楽しもう。肉を手に入れたいから、討伐依頼からサクサクこなしていこうか」

 それでソードが屋台開催を思い出し、ギルドマスターと交渉し始めた。


 今回から宿屋ではなく、シャールを空き地に駐めそこに宿泊することになった。

 ソードはいろいろ懲りて、体裁がどうのこうのよりシャールに引きこもることを選んだようだ。

 建て前として、ソードが「勇者に狙われていて、下手に借りて泊まると二次被害が出るので、自前のキャンプゴーレムに泊まる」と言うと、ギルドマスターは真顔で同意をしてくれた。

「ここには来ないと思うが、絶対に来てほしくないな。被害の報告がすごいぞ? 人死にが出てないのがさいわい、ってくらいだな。だが、そのうち出るだろう。今まででは、武器屋に飾られていた最高級の剣を強奪し、その場で試し斬りにされた店主がひん死になったが、特級回復薬で命を取り留めた、ってのが一番ひどい報告だな」

「「…………」」

 私とソードは呆れかえってしまった。

 ソードと顔を見合わせ、ソードが私に言った。

「むしろ、出遭って殺した方がいいかな?」

「ソード、そんなやつは一瞬で殺す方が慈悲になるだろう。むしろ、被害に遭った連中に端から細切れにさせ鬱憤晴らしをさせた方が役立つ使い方だと思うぞ?」

「……怨嗟がどれくらいかわからないから何とも言えねーけど。端から細切れにして良心が痛まずにいられるなら、やらせれば?」

 ギルドマスターが苦笑した。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る