第239話 おびえるかかかってくるかの2択です
宿屋に送り、別れる前イワナさんが振り返った。
「ごめんね」
いきなり謝られた。
「……私、実は料理の最中、邪魔してたの。君に嫉妬してた」
…………。
「一見隙のない女性がドジッ子属性という、ギャップ萌えではなかったのか」
ちょっとショック。
計算か!
計算だったのか!
「うん。じゃないと宿屋で雇ってもらえないよ」
「そうか? ドジッ子属性持ちは、逆に萌え要素になるから、男の客にウケそうだが」
「…………。それは、今度頑張るとして」
計算か!
計算でやるのか!
……と、イワナさんがうつむいて小声でしゃべった。
「あと、ソードさんにも謝っておいてもらえる? ……私、実は、惚れ薬をちょっとだけ使おうと思ってたから」
……惚れ薬? とはなんぞや。
「催淫剤か?」
ズバンと言ったらイワナさんが真っ赤になった。
「うむー。そうか、隠し味ではなかったか。いや、ある意味隠し味だな。だが、残念だが、ソードはその手の薬は効かない体質だ。無論、私も効かない」
「そうなの!?」
「昔、狙われすぎて盛られすぎて効かない体質になったそうだ。私は別に盛られてないのだが、即死級の毒茸の胞子を浴びても死ななかったので、耐性持ちらしい」
なぜにそうなってしまったのか謎なのだが。
「うむ、だがまぁ、若気の至りだ! ソードはピリピリしてたが、振り向いて欲しい女心を邪険にしてるからそう言う目に遭うのだと説教しておく。気に病むな」
イワナさんがホッとしたような、そして曖昧な表情になった。
「……インドラ君ておっさ……若く見えるけど年齢を誤魔化してない?」
「うら若い美少女だ!!」
なんで慰めたらおっさん扱いなんだよ!
ムッツリして戻ったら、ソードが食べずに待ってた。
「ん? 食べてなかったのか?」
「一緒に食べたかったの!」
なんかまだ怒ってるし。
「そうカリカリするな。別に、お前に恋する乙女ってだけじゃないか。催淫ざ……惚れ薬も、どうせお前は効かないんだから、別にいいだろう。どうしても一晩の思い出が欲しかったんだろう、その恋心を汲んでやれ」
「うわー。出たよ、おっさん発言」
なにおう!?
「イワナさんも言ってたがなぁ、なんで私が慰めるとおっさん発言と言うのだ!? 慰めてるんだぞ!」
憤ったら爆笑された。
「お前、あの子にもおっさん発言つわれたのかよ!? 女扱いしてくれてたのによ!」
うるさーーーい!!
「そこまで言われてないッ! い、イワナさんは、優しかったぞ! お前とおんなじ表情してたけどなぁ、私の美脚をお前みたいにデリカシーなく『小僧の脚』とか抜かさずに、そのうちびっくりするほど綺麗になるって言ってくれたぞ!」
「うーわ。お前にデリカシーないとか言われる俺って、結構終わってる気がする」
終わってるよ。
私はちゃんと言うべきときに言うべき人に言うべきことを伝えてるだけだ!
料理を仕上げ並べると、ソードの傾いてた機嫌が戻った。
「お、すっげー美味そう」
「別世界でゴチソウと言ったらコレだな。〝ハンバーグ〟、肉を細かくし、中に野菜とパンの砕いた物とスパイスを入れて混ぜ、丸めて焼いた物だ。肉汁が出る派と出ない派とに分かれ、私は出ない派だ。ビジュアル的には切ると肉汁が出る方がうまそうだが、私のは、口に入れて噛むと染み出るのだ」
ソードがゴクリと唾を呑んだ。
「ハンバーグには卵をそのまま鉄板で焼いたもの……そのビジュアルから『目玉焼き』もしくは『サニーサイドアップ』と呼ばれる物を乗せている 黄身が半熟なので絡めて食べてもいい。付け合わせはフライドポテトと、玉葱ドレッシングのサラダだ。前菜に、蒸し野菜と蒸し肉の冷製コンソメジュレを出そうと思ってたが、もう全部並べてる」
「うわー……。ご馳走だな」
ソレを作れと言っただろうが。
ソードは早速ハンバーグを黄身ごと切って絡めて食べると、
「~~~~!!」
もん絶してる。
「熱かったのか?」
「うますぎるんだよ!!」
怒鳴られた。
「これ、超好き。すっげーうまい。なんなのコレ? コレって、アマトのやつ、知ってるの?」
「知ってるんじゃないか? ただ、コレの作り方はいろいろあるのでな。私のは割とオリジナルだし、そもそも肉が別世界とこちらとでは違うからなぁ。同じ味ではないな」
私も食べた。
うん、うまい。
私は牛のみも合い挽きもどちらも好きだが、作るのは合い挽きかな。
単品は素材が勝負! みたいな感じになるが合い挽きは旨味の深みが増すと思う。
チーズインはそんなに好きではない。
黒太がたん白質を凝固させる胃液を吐いてくれて、チーズ自体は作れたのだが。
あ、黒太に会いたくなっちゃった。
「それでよ……ごめんな」
いきなり謝られたし。
「お前って、唐突なんだ。いきなり前置きなしに謝られて、私はどうすればいいのだ」
「イワナのこと。……俺のせいなのに、面倒だからってお前に押しつけた」
そのことか。
「別に私は面倒ではないからいいけどな。だが、お前もお前だぞ? 気を持たせるのは良くないが、なら、キッパリと断れ。ハニートラップ回避スキルは大したものだが、その前に、気があると気付いた時点で断れば良いだろうが。相手はわからないから微かな希望を胸に抱き、催淫剤を使ってまでお前に攻勢をかけるんだ」
「……それって、自惚れだって笑われない?」
「気に、するな!!」
そんなふうに体面を気にするから催淫剤を盛られるんだろうが!
ソードがしばらく私を見た後、笑った。
「そういや、お前は勘違いとか自惚れとか思わずに、すぐにお断りしてるもんな」
「私だけじゃないだろう。スカーレット嬢にも再三お断りされたぞ。私は女なのにな!」
思い出したらしくまた笑った。
「そうか。そういやそうだな。みんな、自惚れ屋って思われるんじゃないかとか思わずに断ってるな」
「思われたっていいだろうが。相手がどう思おうが相手の勝手だ。私は意思表示をしてるだけだ」
ソードがうなずく。
「うん、わかった。……で、悪かったな。アイツ、お前にも当たってなかったか? 女扱いしてたし、なんかちょっとやきもちっぽいのも妬いてたぜ?」
「あぁ、そう言ってたな。謝られた」
「あ、そうなんだ?」
うなずく。
「まぁ、私はそんなことでいちいち目くじらを立てるほど狭量ではない。被害もまったくないしな」
「ついでに女に甘いしな」
付け加えられた。
「むぅ。『かわいいは正義。』なだけだぞ?」
「そういやそうだな。別に、魔物にもダンジョンコア様にも美形のエルフやかわいい顔したドワーフにも優しかったな。人間の男でかわいいって思う男がいないだけか」
うなずいた。
「強いて言えば、スワン君かな? 私を怖がりおびえて震える様がコカトリスのようでかわいかったな」
思い出して言ったら、ソードに呆れた顔をされた。
「……スワンって、お前をスパイしてた同室の男? 震えが出るほど怖かったのにスパイさせられてたって、ホント同情するよな。ちなみに、コカトリスは脅威度Bランクなんだけど。まーな、お前にとっちゃ脅威度とかカンケーねーか」
関係ないね!
おびえるかかかってくるかしかないね!
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