第238話 口説いてません
イワナさんは、ドジッ子属性らしい。
結構アレコレひっくり返しそうになってる。
まぁ、私の力量ならそんなものすぐに拾い上げられるのだが。
「ご、ごめんね……」
「いいのだ。ドジッ子属性は、モテ要素だから、しかたがないだろう。私なら造作もなくカバー出来るしな!」
胸を張ったらすっごい微妙な顔をされた。
なんか……何この残念な子? みたいな副音声が聞こえてきたんだけど、気のせい?
さーて、料理を仕上げていくか。
「これは盛り付けるだけだが……」
「あ! じゃあ、やるわよ?」
ドジッ子はここでもひっくり返す要素大だが、まぁ、カバー出来るだろうし、こないだ出てきた料理も綺麗に盛り付けされていたので任せてみようか。
手渡して、任せたら……うん?
なんか隠し味入れようとしてるんだけど?
「……何してるんだよ?」
その、イワナさんの手をガッとつかんだのは、ソードだった。
「すまない。隠し味を入れたいのかもしれないが味が変わってしまうから、取り分けた自分の分だけにしてくれないか?」
と、私がイワナさんに言ったら、
「おいインドラ」
低い声でソードが唸った。
……なんか怒ってる?
「う、うむ? い、イワナさんがソードに伝えたいことがあるとかでな、お前は風呂に入ってたから中で待っていてもらったのだ。うら若い女性を外で待たせるわけにもいくまい。お前の客だし、これはお前のゴーレムだから、問題ないだろう?」
って言ったら頭をつかまれてアイアンクロー!
「ぎゃー!」
「お前は! ホンット、女に弱いな! 年上から年下まで節操ないしよ! 俺を見習えよ!」
節操ないって……別に、男も女も好きじゃないよ?
まぁ、イワナさんはそこそこ美人だとは思うけど。
「……ソードさん。インドラ……ちゃんは、女なんだよね?」
「女なんだよ! 男よか女に弱い女だけど!」
ひどい。
ソードが手を放し、頭をかいてため息をついた。
「で? 言いたい事って何?」
イワナさん、私をチラッと見るとモジモジする。
「あ……。出来れば、二人きりで……」
「それはできない」
外そうかって言う前にソードがお断りした。
「俺には、インドラ抜きで他のやつと話すことなんてない。インドラがいたら言えないことなら、言わないままにしてくれ。俺は聞きたくない」
うーわー。
これがハニートラップ回避スキルか!
つーか、さすがふにゃんの男。
たぶんに告白するのだろうと思ったが、察知して回避した!
イワナさん、ソードを見て、震え、顔を覆って泣いた。
「……インドラ。お前が送ってやれ。お前が招き入れたんだから、お前がちゃんと宿屋まで送り届けろよ」
すっごい不機嫌な声で言った。
……しかたない。
「前菜は出来ている。盛り付けて、食べていてくれ」
そう言うと、イワナさんの腰を押して促した。
うーむ。
「ソードがすまんな。アイツは堅物でなぁ……。人に対して距離を置いてしまうのだ。特に、好意の度合いが深ければ深いほど距離を置くのだ。……まぁ、この国中を飛び回ってる男だし、現地妻にされるより、手堅い男と所帯を持った方がいいぞ?」
イワナさん、しばらく黙っていたがおずおずと呼ばれた。
「……インドラ……ちゃんは、ソードさんのことを好きなの?」
うーむ、恋愛感情的な意味合いだろうな。
「全然だな!」
明るく言ったら、目をパチクリさせた。
「……でも、ソードさんは……」
「全然だな! 好きだったら、恐らくパートナーを組んでいまい」
イワナさん、絶句した。
「私たちは、『対等の関係』なのだ。どちらかが恋愛感情を持つこともなく、また誰かを好きになることもない。まぁ、私はソードに恋人が出来ても良いのだが……ソードも私と出会うまでいろいろあったようでな、他人との距離感が非常におかしいのだ。私はわかってるのだが、ソードはわかってない。指摘しないのは、ソードが『昔、仲間とそういったことをやりたかった』ことを私とやりたがり、女性に対して非常に強い不信感を抱いてるからだ。
恋人が出来たとき、私に対して行っていることを恋人にはやらずに変わらず私にやるだろうことは明らかで、そうなると恋人に私とソードはもろとも殺されるだろうが、それもソードはわかってない。……だが、それもしかたがない。ソードの行動を束縛する気はないし、まぁ、私もさほど迷惑を被ってないのでな、今は」
イワナさん、うつむいた。
そして、独り言のようにつぶやいた。
「……インドラちゃんはいいよね。ソードさんからかわいがられて、あんなに素敵な部屋に住まわせてもらって」
…………?
「ん? シャール……さっきのゴーレムのことか? 褒められると恐縮するが、アレは私が作ってソードにプレゼントしたものだ」
「えっ」
イワナさんが大仰に驚いた。
「私はこう見えて、天才なのだ。大魔術師であり大魔導師であるのだ。以前、ソードのひいきしている商人にある商品を売ってもらいたくてな、アレに似た輸送ゴーレムを作ったのだ。それを見ていじったソードが羨ましがったので、作ってやったのだ。ついでに中で泊まれるようにしたのは、私たちは輸送する必要がないからだな」
イワナさん、唖然として、口を開けっぱなしにした。
美人が台無しと言いたいが、美人は何をやっても美人なんだよね、という感想の方がしっくりきた。
「あの、内装も、全部?」
「あぁ。素材は現地調達だ。魔物の素材だったり、植物だったりといろいろだ。魔術と魔導で合成したものもある。私は、天才なのだ!」
胸を反らしたら、プッと噴き出された。
え……なんで?
「……面白かったか?」
「うん、ごめん。……自分で天才とか言っちゃうんだ?」
「事実だからな! 天才美少女だ!」
また笑われた。
「ごめん、インドラ君って面白いね」
「インドラちゃん!」
なんで話してると君付けになるの!?
「あ、そっか。でも、わかった。女の子って訂正しても男の子に見られるって言ってたの。私も、男の子にしか見えなくなってきたもん」
「なぜだ!?」
どーして!?
ソレ不思議じゃない!?
「うーん、髪型と話し方かなー。男の子にしても変わってるよね」
それは、女の子だからじゃないかな?
「あと、女に弱いの?」
のぞき込まれた。
「弱くないッ! 私は男にも女にも弱くはないし、どっちにも興味はない! ただ、『かわいいは正義。』なだけだ!」
イワナさんがキョトンとした。
「かわいいは正義?」
うなずく。
「別に女に限らん。男だろうと魔物だろうとゴーレムだろうと別種族だろうと『かわいいは正義。』なのだ。かわいいのが好きなだけだ。ただし、観賞用として」
どうこうしたいわけはまったくない。
見て聞いてすると癒やされるだけだ。
「じゃあ、私は?」
イワナさんを見た。
「……そうやって、笑って、楽しそうに弾んでいるとかわいらしいな。何かに囚われて必死になるより、気楽に笑って楽しそうにしている方が魅力的だぞ」
イワナさん、びっくりした顔で立ち止まって目をパチクリさせた。
「……えっと? 私、もしかしてインドラ君に口説かれてる?」
「どうしてそうなる」
一般的意見を言っただけだし。
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