第234話 ダンジョンで検証中
美脚と思っていたら小僧の脚だったことが判明した私、ようやっとダンジョンに突入した。
ここのダンジョンは罠が多いらしい。
ソードがマップを見て、罠にかかったのはこの辺りで、ボスがこの部屋、と指さしていく。
「ふーむ。お前はもうボス部屋まで行かないと出られないルートしかないな。で、恋人たちはどの方角に消えた?」
ソードはルートを指し示した。私たちはマップを見ながら考える。
私はマップのルートを指でなぞりながら話した。
「見ればわかるが、正規のルートを通らないとボス部屋には到達しない。お前が嵌まった罠以外はボス部屋に直行の罠はないので、お前が罠にかかったのを見て、元恋人一行はボス部屋に向かったとしか考えられないな」
ソードが厳しい顔をした。
「なんでまたそんなことしたんだ?」
私は腕を組んで相づちをうった。
「まぁ、確かに不思議だな。お前に恨みを持ってるのはわかるが、途中までだませていたのなら、最後まで欺いてだまし討ちにした方が面倒じゃない。ボス部屋に用があるなら、むしろお前を盾として、ボスと戦わせ、背中を刺せば良かった。だが、それをしなかったのはなぜか。……恋人は、仲間がお前をだましたことを知っていそうだったのか?」
ソードがうなずいた。
「俺を見て、『サヨナラ』っつったからな」
私は組んで腕をほどき、顎に手を当てた。
「ふむ……。そうなると、お前がかかった罠に出たボスを、中ボスだと認識していたかどうかだな」
私の言葉にソードが顔を上げる。私はソードを見てさらに続けた。
「お前を囮とし、ボスをおびき寄せた気になったのなら、ボス部屋はボスがいなくて空き部屋になるだろう? ボスがいない隙にその部屋にある宝を奪えば良い、と考えたのかもしれん。でなければ、お前だけを罠に掛けてボス部屋に行く意味がないからな。そもそも、ダンジョンはそういうものではなく、ボスを倒さなければ宝箱は出ないはずだが、連中がそれを知っていたかどうか、あるいはボス部屋のボスを罠でおびき寄せればボス部屋には宝箱だけ残る、とガセ情報が流れていたのか、あるいは仲間に誰かがそういったガセネタを流したか」
私は指で金貨のマークを作る。
「お前の恋人は、金を欲していた。なぜかは、楽な暮らしをしたかったのか、妹のためか、そこら辺のありふれた理由を当てはめておく。……で、お前と恋仲になったが、お前が金持ちだとは知らなかった」
「待て。当時は金持ちじゃない。俺、まだ十五くらいだったし」
ソードが私の言葉を訂正した。
あ、そんなに若い頃なんだ? 子供じゃんか。
「……そんな子供の頃に交尾したのか? それは、確実に身体の相性だな! 私の親指くらいのサイズしかぎゃー!」
私が親指をピコピコ動かしたらソードにアイアンクローされた。
「いいから続けろ」
腹に響くような低音ボイスでソードが促した。
「うぅ……。だ、だから、お前と彼女が恋仲なのを知った誰かが、その噂を利用してお前を亡き者にしようとした。ついでに恋人に裏切らせた。恋人は、別にお前が贄でなくても良かっただろうが、お前が一番強く長時間ボスを引きつけていられるのはわかっていて、企てた連中に、宝の大半を渡すとか言われて誘惑されたり、あるいはソードを選ぶか仲間を選ぶかしろ、ついでに今まで貢いだ物返せとか脅されたりしたかしたんだろうな」
「…………」
ソードはなんとなく納得したらしい。
「ありふれてはいないが、筋道が通る推理だ。但し、筋道が通るだけだな。何の証拠もない」
「証拠は、ボスに聞いてみるさ。覚えててくれたらの話だけど」
ソードがかっこよく言った。
ソードと相談し、ソードは当時の罠にかかったルートで進み見落としがないかを確認。私はソードが罠にかかったのを見届けて、ボス部屋まで行くことにした。
互いにリョークがサポートにつくので、人の目では気付かない部分の指摘に期待してリョークの意見も参考にする。
ルートを進み、ソードが罠にかかった後、
「では、またな。簡単に勝つだろうが、油断して見落としをするなよ」
と私が挨拶すると、ソードが笑って手を挙げた。
「後でな。……ありがとうな」
また礼を言われた。
「しつこいぞ。別に、私に不利になっているわけではないのだから、そんなに気に病むな。ウザい」
「お前って、ホンット俺の情緒を粉々に砕いてくるよな!」
ってソードが怒鳴ってきた。
お互い様だと思う。
私のこの美脚を『小僧の脚』とか抜かして情緒をぶっ壊したくせにぃ。
私は出入り口へと進む。
リョークは私と分かれてボス部屋への道を進んでいる。
あちこち探りながら進んでいくと、行きにはあったはずの罠が起動しなくなっていることに気がついた。
「ソードがあの部屋にいる間は、他の罠が無効になるようだな」
考察していると、ソードから無線が入った。
『そろそろ倒して良い?』
「うむ。特に収穫はないが、これ以上延ばしても同じだろう。リョーク、どうだ?」
『ボス部屋前でーす。収穫なしであります!』
うん、かわいい。
「ふむ~。倒して良いみたいだぞ?」
『うーわ、気持ち悪! ――了解。倒してボス部屋へ向かいまーす』
最初の一言が余計だ。
私は引き返してボス部屋へ向かった。
やはり何もないが、罠が無効になっている。
「こちらインドラ。気付いた点は、お前が罠にかかったせいなのかわからんが、他の罠が無効になっているということだ」
『こちらソード。ボスは倒して今リョークとボス部屋へ向かってる最中。こっちは、一本道で、罠無しだな。リョークの探知にも引っかかってこないし、俺もなんも感じない』
「うーむ。その、中ボスとやらの強さは? このダンジョンの平均でいくとだ」
『うーん、ボスと似た感じだな』
となると。
「ボーナストラップだな」
『は?』
私がつぶやいた言葉がソードに聞こえてしまったらしい。私は説明した。
「お前が入ったそこは隠し部屋で、お前の戦った中ボスはボス部屋のボスと同程度、いやむしろボスよりも強いかもしれん。そこに誰かが入るとボーナスがつく。宝が増えたり、今の状態のように他の罠が無効になったり。勝てばボス部屋の宝が倍増だったりするかもしれんな」
『マジか』
「予想だ。戦ってないので強さが計れない。お前が計ってくれ。念のため、ボスにも質問する。あるいは、ダンジョンコア様にお願いしてみる」
『よろしくね。……あ、俺、もうすぐ着きそう』
「私もだ」
「あ、お母さん!」
ボス部屋前でリョークと合流。ソードはまだ現れない。
「では、先に入る。無線をつけっ放しにするので、会話は聞こえる。適当に入って加わってくれ」
『わかった』
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます