第230話 イワナとの会話〈ソード視点〉
イワナはインドラを気にしつつ、当たり障りのない会話をしてきた。
今なにしてる、から、この町の発展等々。
だが、実際のところ、俺とイワナはほぼ接点がない。
当時、姉のルーナに引き合われたのだがイワナは姉に思うところがあったようで会釈くらいで去った気がする。あまり仲の良い姉妹といった感じでは無かったし、そもそもルーナともコソコソと付き合ってたし、しかもほんの数日間の話だ。
……ただ最後にルーナの遺品を届けたとき、責められ理由を聞かれた気がした。
そのときのことを、俺はあまり覚えていない。
泣かれ、なじられた気がするが、曖昧な記憶だ。
会話が尽きて沈黙が続いた後、
「…………ソードさんに、謝らなきゃってずっと思ってたんだ」
イワナにそう切り出された。
ピクリ、とようやくインドラが反応した。
「……私、子供だったから、ソードさんにひどいこと言ってなじったでしょ? 冒険者がダンジョンで死ぬなんて、日常茶飯事だし、それを覚悟で冒険者はダンジョンに潜るのに……。当時は全然わかってなくて、ただ一人生きて帰ってきたソードさんにひどいこと言っちゃった。それがどんなにすごいことなのか、当時はわからなかったの。今はね? ホラ、王都でも活躍したって聞いたし、私もすごい人だったんだって、わかるんだけど……」
俺はイワナを手で制した。
「いや、いいんだ。しかたがないってわかってる。ただ……すまない、君の姉さんがどうして死んだのかは、わからないんだ」
再度、ピクリ、とインドラが反応した。
そんなインドラを意識しながら俺は話を続ける。
「……あの時、俺は先行して行ってくれと言われてたんだ。それで、渡された地図通りに進んだんだが……途中、地図と違った場所があり、そこで俺は罠にかかってしまった。他の連中……君の姉さんも含めて、全員別のルートを進んだか引き返したはずなんだが……。俺がその罠から脱出し先に進むとボス部屋に行き当たり、そこに連中がいて、ほぼ全滅していた。リーダーは辛うじて息があったが、俺がボスを倒して振り返ると誰もいなくなってた。……多分、死んで、ダンジョンに食われたんだと思う。だけど、わからない。俺が理由を聞く前にみんな死んでいなくなってしまったから……」
イワナが暗くうつむいた。
「……ボスに挑む実力はまだなかったのは、全員がわかってた。だから、もっと強くなってからって話していたし、俺が罠にひっかかったところにもボスがいて、そいつにすら全員で挑んで勝てるかどうかの力量だって、全員がわかってたはずなんだ。なのに、なぜボス部屋にいたんだろう?
そして、メンバー全員が彼女を好きで、命を懸けても守るとよく言っていたのに、彼女は死んでいた。彼女だけでもボス部屋から逃がせば良かったのに、なぜそうしなかったんだろう……」
って話していたら、インドラが憐れんだ顔をしていた。
……話を聞いたインドラには理由が分かるのか。
でも、言わなくていいよ。俺、インドラのわかった理由って聞きたくないから。
俺は、情緒的にロマンチックな理由で『わからない』ってしとくから!
イワナは俺の話を聞いて、暗くうつむく。
「……そっか、そんなことがあったんですね。……ごめんなさい、私、本当に子供だったから、そんなことも知らずに……」
「そりゃ無理だろ。俺だってお前くらいの歳で兄妹が死んで、その仲間だけ生きて帰ってきて理由も言わなかったら責めると思うし」
俺は肩をすくめたが、イワナは首を振ってほほ笑んだ。
「……ソードさんは、優しいね。本当は、姉が裏切ったのを分かってるんでしょう?」
イワナがズバッと言ったので、思わず顔が引きつった。
「…………いや…………」
「ふふ、ウソがつけないのね。いいよ、私も大人になったし、それに……。本当は姉のこと、そんなに好きでも無かったから」
俺はイワナを見た。
イワナが俺を見てほほ笑んだ。
「姉は要領の良いところがあって、私はそこが苦手だったの。孤児院で育てられた子が神職になれるなんてほとんどないのに、姉は選ばれたし。神職になると、マナの量なんて関係なしに聖魔術を授けられるの。待遇も全然違うようになる。……だから私、姉のせいで随分いじめられたし……。綺麗で優しかったけど、トラブルメーカー。だから、姉が死んで、悲しくて心細かったけど、ホッとした部分もあったの。もう、いじめられないで済むから。死んだ姉を理由にいじめたりは、さすがにしないでしょう?
というか、それを理由に責めたら、さすがにみんなやめてくれた。それからは、頑張って独り立ちして、なんとかこの宿屋に雇ってもらえたの。……ふふ、ソードさんも姉にひどい目に遭ったみたいだけど、私もなんだよ?」
……笑うところか?
チラッとインドラを見たが、やはり反応せずにメシ食ってる。
――お前、自分で作った方がうまいだろうに、なんでそんなに食ってんだ?
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