第228話 ありふれた別れの理由〈ソード視点〉

〈ソード〉

 インドラに、俺の情緒を完全破壊された。

 ……あぁ、そうですよ!

 もっと、言えない理由って……こう、のっ引きならない事情かって思ってましたよ!

 身体の相性で気が変わったとか、言うな!!

 そんなんで俺、陥れられたワケ?

 え、そこまで下手だった?

 だって、お互い、初めてでしょ?

 …………初めてだよね? ルーナも?

「…………」

 知りたい気持ちがぶっ飛んだわ……。

『ごめん、下手すぎて、でもそんな理由言えなくて、自分の恥ずかしい過去を教えるくらい好きになって付き合った人がこんなに下手だと思わなくて、一気に気持ちが冷めて「もういっか」って陥れちゃったの』

 とか言われたら……うん、それは相当『望んでない答え』だな。

 ――現実なんてそんなモンだよな。

 知識豊富なインドラがあぁ言ってるってことは、それがありふれた男女が別れる理由。

『飽きた』とか『下手だった』とか、そんなもんか。

 俺が綺麗に考えすぎてただけか。

 ははは。

「はぁ……」

 思わずため息をついたら、

「まぁまぁ。理由なんてわからない方がいいんだ。お前は情緒的に考えてればいいんだ。好きな『別れの理由』を当てはめていろ。現実は、『もう別れた』それだけでいいんだ」

 って言ってきたし!

 あったまにきてグリグリやってやった。


 ――ルーナと一緒にデートしたスポットをインドラと回ったけど、思い出は思い出としてとっておいた方がいい、っていうインドラの意見を聞いておくべきだったとちょっと後悔した。

 要するに、ガッカリするほど見すぼらしくてガラクタだらけだった。

 ……あの頃は若くて、なんでもキラキラして見えた。

 好きな女と一緒にいるだけで楽しかった。

 今は高くて買えないけど、いつか成功して買おう、そんなやりとりをしてた。

 ――数年経たずに俺だけが叶えた。

 でもって、今俺の横にいるやつは、この町に売ってるものより数十段上の高品質なものを作れる腕前で、まったく興味ないだろうに律儀に付き合ってくれた。

 最後にギルドだ。

「悪いな、付き合わせて」

 謝ったら、キョトンとした後、

「言っただろう? お前が行くなら地獄だろうと共に行くと。だがここは地獄じゃないんだから、謝る必要はないぞ」

 そんなことを言う相棒に、笑った。

「でも、お前にとっちゃつまんねー町だろ?」

 って聞いたら、

「つまらないとは思わないが、普通だな。これがこの世界のスタンダードなんだろうと参考になった。……私が普通の冒険者で、最初に来ていたら楽しかったかも知れない」

 ちょっと遠い声でつぶやいた。

 だから頭をなでた。

「いいじゃねーかよ。お前がぶっ壊れてるのはお前のせいじゃねーし、だからこそ俺もお前といて楽しいんだ」

「ふーむ……。だが、お前は受け身だからなぁ。楽しいと思っているやつが側にいれば、楽しいと思えるやつなんじゃないか?」

 …………。

「そーでもねーよ?」

 そこまで俺はお人よしじゃない。

 実際、周りが楽しんでても俺だけ楽しくなかったことはたくさんあるし。

「そうか……?」

 インドラは首をかしげたが、それ以上は言わず黙って歩いた。


 ギルドを訪ね、受付に向かい名乗った。

「Sランク冒険者パーティ【オールラウンダーズ】のソードだ。ギルドマスターに……」

「ソード!?」

 その声に聞き覚えがあり、驚いて振り返った。

 そこには、歳を取ったルーナが…………

 …………いや。

 似てるけど違う。

「…………えーと、確か…………」

 ……そうだ、ルーナには歳の離れた妹がいた。

 あまり似ていないと言っていて、確かに似ていなかった。

 が、成長したら似ているな。

「イワナ……だっけか?」

 ぱぁっと顔が輝いた。

 ……良かった、当たりだったようだ。

「お久しぶりです、ソードさん」

 …………会いたくなかったな。

 俺の顔がこわ張った。


 ――姉の死に責任がないわけじゃない。

 というか、俺にもよくわからない。

『どうして死んだのか』を説明できないんだ。

 他のパーティの連中は地元のやつがいなかったので家族に問い詰められることも無かったのだが、ルーナだけは地元だった。

 妹と孤児院にいた。

 姉のルーナは神職の見習いで修行として冒険者……後で知ったが彼女のファンとパーティを組んでいた。

 俺は知らず、ただ、剣の強さを買われ、そのパーティのリーダーに声をかけられパーティを組んだ。

 単なる盾役として。

 その点では、誘ってくれたリーダーに感謝していた。

 当時はもっとだな。

 俺は色恋はおろか友達すらいなくて、とにかくそのパーティになじみたくて、声をかけてくれたのもうれしかったし、おとなしく盾としての役割をこなしていれば仲間として認めてもらえた。

 だから、パーティの実情も知らなかった。

 そして、ルーナという女の実情も……。

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