第227話 普通の町にやってきたよ
ソードに「心残りに付き合って」って言われて、元カノと出会った町にやってきた。
ふむ、普通。
よくあるファンタジーの定番で、栄えてることは栄えてるし、種種雑多な店がある。
だが生産が盛んな町でもなければ、特産品がある感じでもないく、全体的に万遍なく栄えてる。
教会も大きめだが、乱立してるわけでもないし、ギルドも大きめだがギルドが中心というわけでもない。全てが普通。
「ふむ。この普通の町で普通に出会い普通に付き合って普通に捨てられたのか」
「……」
ソードにグリグリされる。
「私としては、よくある話だと思うのだけどなぁ。まぁ、ダンジョンに潜るのは吝かではないが、だからといってヨリを戻せるワケでもない。何がそんなに心残りなのかわからないが、生き物っていうものは人間に限らず、必ず他人には解らない言動をするものだぞ? いちいち気に留めて気に病むからふにゃいたいいたいいたい」
もう、言葉を予測されたかのように最後まで言えずにウメボシの刑にされる。
「わかってるの! お前に言われずとも、みっともなく気に病んでるのは! お前に俺がそうしたように、いっちいち理由を言わずに去るなんてよくある話だってわかってるの!」
いや、わかってないから拘ってるのだろうが。
ソードから、せっかくだからこの町を観光しようと言われた。
私としては、憂いを晴らすためにとっとと潜ってダンジョンコア様なりボスモンスター(会話出来るタイプなら)なりを捕まえて当時のことを聞きたいと思うのだが……。
渋る私を見て、ソードが拗ねたように言う。
「ワクワク感はないのかよ? この町はそこそこ揃っているだろうが。中堅冒険者には人気の町だぜ?」
ふーむ。
私たちは既に中堅冒険者ではない気がするが、まぁ、そう言うなら定番感を味わうか。
「そうだな。普通の冒険者らしく、普通に観光してみるか」
「…………。確かに、俺たちはもう普通の冒険者じゃなくなってるけどよ……。ま、いいから行こうぜ?」
無理やり連れ回された。
確かに、初心者を卒業した中堅冒険者には魅力的な町なんだろう。
武器も防具も道具も生活用品も、そこそこのものが揃っている。
ちょっとだけ洒落たアクセサリー(お守りらしい)も売っていたりする。
大きめの教会もあった。
教会には孤児院も併設されているらしく、ソードが寄った。
「ここは真面な教会だから、ちょっと寄付してくる」
って言いながら。
私も興味があるので入ったら、うん、金ピカじゃない。
むしろボロい。
だが、金ピカよりこっちの方がいい。
趣がある、と評しておこう。
教会の司祭らしき……あ、普通に黒のカソックだ、の司祭と話して、寄付していた。
司祭はソードに何度も礼を言ってる。
確かに真面だー。
「待たせたな」
「いや? ……だが、お前がそういうことをするとは思わなかったな」
私の言葉でなぜか挙動不審になるソード。
「……なんでだよ?」
「お前には余裕がないように思えた。後、人間に対して私ほどではないにしろ不信感がある。だから、果たして寄付金がちゃんと使われるだろうか? などと考え、しないと思っていた」
そう言ったら、目をそらした後ソワソワする。
首をかしげて尚も見ていると、
「……知り合いが、ここの出だったから、実情を知ってるんだよ」
って答えた。
ふむ。
「つまりは元カノ」
「そう」
ふーむふむ。
出身地を伝えたとなると、相手もそれなりに気を許していたのか。
最初から騙そうとしていたわけではない。
……だとすると、ますます普通に捨てられたって可能性しか残らなくなってきたしー。
単に身体の相性が合わなかったんじゃないの?
ソレって女からは言いづらいしー。
「……なんだよ? なんかまた変なことを考えてるだろ?」
グリグリされた。
「相手が故郷を案内するのは、好意を示しているからだな。相手に自分を知ってもらいたいという気持ちが、自分のルーツとなった場所を案内することにつながる」
ソードが固まった。
「だが、だからといって別れないことはない。別世界では案内されて、別れた」
「うーわ! お前って、ヒドイ。俺の情緒を木っ端微塵に砕いたわ」
なんでだよ。
「つまりは。その気になろうが、その時の『その気』だ。交尾した後気が変わることはしょっちゅうある」
「…………」
無言でグリグリされる。
しかも、かなり強め。
言いたいことがわかったらしい。
「女の言えない理由は大体ソレだな。理由が分かって良かったな?」
「うっせーよ! 決めつけんな!」
だが、心当たりあったらしい。
……交尾した後捨てられたのか。
「気の毒に……」
憤ってズカズカ先を歩いていたソードがくるりと振り返ると、顔面つかまれて、正真正銘のアイアンクロー!
「フグググググ!」
「憐れんだ顔で、見るな! あと、決めつけんな!」
もう一回言われた。
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