第215話 〈閑話〉スカーレットと自慢の魔導具たち 四
スカーレットは顔を上げ、ジーニアスにこう然として宣戦布告する。
「ジーニアス様がショートガーデ公爵家の者である私をなめておられるのならそれで構いませんけれど、両親も、インドラ様も、英雄【迅雷白牙】様も、私の味方ですのよ? 王にすら一目置かれている英雄と、王の右腕に値する側近の方に失態を土下座でわびられるほどに恐れられているインドラ様、そして我がショートガーデ公爵家、これらを敵に回し勝てるとお思いなら、どうぞ、今までの態度を崩さす、そのままでいてらして? 私の寛容さがどこまでか試したいのでしたら、どうぞご勝手に」
ジーニアスがぐっと詰まった。
こういう言い方が嫌いなんだとは思ったが、もう好き嫌いの次元ではなくなった。
実際彼女の言う通り、現王の側近もインドラと敵対していたらしいのに学園で土下座をしてみせた。
つまり、自分と同じように嫌っていたのに、インドラの実力を知り、恐れ、自分のプライドなど捨てて即座にわびたのだ。
それこそが側近なのだ。
「本当に嫌みな女だな、お前は! お前に寛容さがあるなどとは思っておらん! 第一、平民の英雄と、その片割れの平民を味方につけたところで、大した戦力になるものか! 王子である私がジーニアスにはついているのだ! たかだか公爵家の娘の分際で、王家に楯突くな! とっととわびてアレを献上しろ! それで、その大言を許してやるぞ!」
「「………………」」
この発言に、スカーレットどころかジーニアスも黙った。
沈黙の後、再度スカーレットがため息をつく。
「……あら。
こわ張る笑顔でスカーレットが挨拶をした。
「スカーレット様!」
慌ててジーニアスが引き留めたがスカーレットは無視をしてエリアス王子に笑顔を作った。
「たかがショートガーデ公爵家の娘の一言で、騎士団長は解雇されて辺境に飛ばされ、その息子は勘当され平民になりましたわね。……あらごめんなさい、独り言ですのよ、全部」
スカーレットは別れの挨拶をして、歩き出した。
「本当に、生意気な女だ! お飾りにするのも
ジーニアスに同意を求めたが、黙ったままだ。
気にせずエリアス王子は続けた。
「……だが、あのゴーレムはまぁ、そこそこだな。あんな女にはもったいない。私が使ってやろう。……あの平民がどうにかしたとかたわ言を言っていたが、そんなわけあるものか。そう言ったら皆引き下がると錯覚しているのだ! 私はそんなものに屈するものか! 手に入れたら、ジーニアス、お前に操縦させてやろう」
……それは、きっと、エリアス王子の信頼の言葉なのだ。
ジーニアスは思う。
自分だって今まで散々スカーレットを嫌っておきながら、掌返しするのはみっともないと思う。
いっそ潔いほどに掌返しをしたプリムローズとシェルが羨ましい。
あれほどに情けない、みっともない、それほどに保身をしたいか、と、罵倒してたのに、自分もそうしなければならないとは。
そして、エリアス王子のわかってなさ加減がスカーレットに見捨てられる程だったのにも頭を抱えたくなった。
……でも確かに、自分だってそう思いたいのだ。
所詮平民の英雄、天才だろうが所詮平民のパートナー。
――だがその平民の英雄が、『パートナーの仇』と、虐待された原因となった妹を殺そうとしたその一振りは、空気を震わせ余波で壁を切り裂いた。
そして、それを阻む一振りは、パートナーの木剣だったのだ。
壁を切るほどの勢いの剣を、木の剣で止めた……思い起こせば相当の
そして、無詠唱で、爆発魔術を遠方から操作することが出来、予備動作無しで窓を爆散出来る魔術力。
戦っても絶対に勝てない相手に対し、『平民だから』という理由だけで見下しているのだ。
スカーレットには先見の明があった。
確かにスカーレットの父親は英雄びいきで有名だが、それにしても、『変わり者の傲慢な平民』で有名だったインドラとお近づきになろうと思うこと自体がすごいことだ。
変わり者だろうとなんだろうと、彼の知識に目をつけ、平民だろうと偏見を持たずに友達付き合いを始めたのだから。
「エリアス王子……。スカーレット様をえん罪で陥れたことは事実。しかも、騎士団長の子息であるディレクに『取り押さえよ』と命じたのも事実なのです。証人がいるとろくに調査もしなかったことも事実ですし、更には、他にも似たような被害者はたくさんいたのにもかかわらず、プリムローズだけ特別視して、それより高貴な令嬢をえん罪に陥れようとしたのです。謝罪は必要です」
謝れば、少しはスカーレットの
彼女に見離されれば、後がないのをわかってほしい。
確かに言い方は気に入らないしかわいげがないのも事実だが、それでも彼女は保身にたけていて、彼女は自分たちよりも上にいるのをわかってほしい。
何より『インドラという魔物を味方に付けた』その功績は、計り知れないのだ。
そこには王ですら屈服しているのだから。
それをわかってほしい。
王家の肩書きなど、ドラゴンや魔族にはなんの権威でもない。
ドラゴンの吐息や魔族の一撃で消える代物だ。
そして、それに匹敵する魔物がアレなのだ。
だがエリアス王子は、フン、と鼻を鳴らし見下した顔をした。
「えん罪? ローズに嫉妬していたのは事実だろう? やったかやらないかではなく、嫉妬していたかどうかだ。そして、私の愛が得られないからと、生意気に
バカにした声で理由になってないことを言い出す。
「エリアス王子……」
絶望した声を出したジーニアス視線の先に、スカーレットが護衛と話をしている姿があった。
会話を交わしたあと、護衛の女性が
「……エリー・ショートガーデ公爵夫人!!」
エリアス王子もその声に驚き、視線の先を見る。
護衛だと思っていた女性は、スカーレットの母親だった。
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