第197話 ショートガーデ親子が到着したよ
屋敷は使用人たちによって急激に整えられていき、なんか作らされたり、作ったり、ソードはあっちこっちで頼まれごとして連れ回されたりしてたら、手紙が来た。
――この世界、お手紙はなんとギルドから転送されるのだ!
手紙くらいの大きさと重さじゃないとできないらしいけど、でも、王都から手紙を出しても一瞬でイースに届くのだ!
そして、そこから届けられるのはギルドの配達員、人力なので途中で紛失の恐れもあるけど、まぁ、ほぼないらしい。
そもそも手紙のやりとりって、平民はあんまりしない。
単語はなんとか読めて自分の名前を書くことは出来る、くらいだって。
商人はもちろんできるけどね。
閑話休題。届いた手紙を読んだら、五日ほどで着くってことだった。
……結構早くない?
「この行程は普通なのか?」
「公爵家ですから、駿馬で移動してるのでしょう」
メイド長が教えてくれた。
そっか。
……あと、気になるのが。
「……家族で来る、って書いてあるが。なんでだ? 私がスカーレット嬢から聞いた話だと、学友の屋敷に遊びに行く、くらいの感覚だったぞ? なんで家族で押しかけてくるんだ?」
ピキ、とその場の全員が固まった。
「サリー、クララ、アンナ。さらに来客用の部屋を三つほど整えて下さい。インドラ様、申し訳ありませんが、来客用のサイドテーブルと椅子の作成をお願いしてもよろしいでしょうか?」
「わかった」
いち早くメイド長が復帰し、キビキビ指示を飛ばしてく。
私は、細々した細工が得意なので、装飾彫りしたテーブルや椅子を作成。
応接室や食堂も豪華絢爛にされ、当日。
馬車が来た。
三台ほど。
メイドさんや使用人が降りて、絢爛な馬車のドアを開けた。
「遠路はるばるようこそ。……貴殿は、ショートガーデ公爵でよろしいかな?」
私の前に、キラキラ目の男性が降り立った。
「おぉ、貴方が英雄【迅雷白牙】のパートナーの方か! 私はジェラルド・ショートガーデ。かつて英雄【迅雷白牙】に命を救われた者です!」
…………あぁ。家族で訪れた理由がなんとなくわかった。
ファンだから来ちゃったんだね。
ソードに会いに来ちゃったんだね。
ソードも理由がすぐわかったみたいで消えた。
隣にいたはずなのに、横見たらいなくなってたよ。
降りてきたスカーレット嬢が、顔を両手で覆い、非常に申し訳なさそうにしてる。
「…………お父様…………。恥ずかしいので、本当におやめ下さい」
だろうね。
「…………スカーレット嬢。私は最新の貴族のマナーに疎いのだが、学友の屋敷には、家族で訪問するのが普通なのか?」
一応、尋ねた。
「……本当に、父が、申し訳ありません!」
良かった、違うみたいだ。
あ、何も良くないか。
まぁ、来てしまったものはしかたがない。
さすがに母親は来なかった。
そしてお手紙をスカーレット嬢から手渡された。
要約すると、
『英雄様のことになるとおかしな言動に出る夫が駄々を捏ね、大変なご迷惑をおかけして申し訳ありません。その代わり、好きなように使ってやって下さい』
って書いてあった。
「……まぁ、しかたがない。手紙はいただいていたので、それなりの準備はしてある。私は当主ではないのだが……パートナーである当主は、危機を感じて逃げ去った。代わりに、私が案内しよう」
ショートガーデ公爵が、感心したように私を見た。
「野に下ったはずなのに、実に堂々とした佇まい、卑しさのない姿勢、さすが噂通りの方のようだ」
ん? 噂?
「噂とは?」
私は首をかしげる。
「インドラ殿こそ、スプリンコート伯爵家を継ぐべき方だという噂です」
なんだそのとんでもない噂は。
「つぶれかけた伯爵家を継ぎたい物好きなどいないだろう。私は、ソードの相棒で、冒険者だ!」
絶対ヤダ!
「えぇ、存じてます。私も微力ながら、力添えしますぞ」
なんと!
そう言ってくれたショートガーデ公爵を思いっきり見た後、手を差し出した。
「それは助かる。私は、今更貴族になる気などないし、平民で、ソードと共に冒険を続けるつもりだ。領地経営など真っ平御免だ、私は、ワクワク感を求め、旅をし続ける。貴男が力添えしてくれたならば、大変に心強い」
「もちろん! ご協力いたしますぞ!」
ガシッと握手を交わす。
後ろで
「あ。この二人、同類かもしれないわ?」
ってつぶやきが聞こえてきた。
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