拠点DEバケーション編
第196話 バケーションに行きたいよ
パーティ会場である講堂を出て、スカーレット嬢は伸びをした。
「んーーーー! さてと。インドラ様、次はどうするの?」
「いったん拠点に戻る。……元々は依頼があったのでこの学園に来たのだ。貴女の依頼もあったので終業式まで延ばしたが、既に退学の手続きは済ませてある。また、冒険者に戻る」
「あら。じゃあ、拠点に行けば、会えるのね?」
「……まぁ、そうなるが……」
パン! とスカーレット嬢が両手をたたく。
「じゃあ
「「はぁ!?」」
ソードと声をそろえた。
「学友の屋敷に招き招かれ、はよくあることですもの! ね? インドラ様はチートしてるから、それに、屋敷にはメイドがいるのですから、普通に訪問しても大丈夫でしょう?」
……たぶん大丈夫だけどさ。
「申し訳ない。私は居候なのだ。以前言った通り、あのシャールという名の〝キャンピングカー〟も、屋敷も、全てソードの持ち物なのだ。メイドや使用人もソードが連れてきた」
逃げの口上を述べたらソードが、
「あっ、コイツ! 俺に責任を押しつけて!」
って言ってきた。
だがその通りだ。
「では、英雄【迅雷白」
「Sランクパーティ【オールラウンダーズ】!」
皆まで言わせず言い直している。
「……英雄ソード様。学友にして魂の友でもあるインドラ様のお屋敷に招かれたいのですが、よろしいかしら?」
ソードが、ハァ、とため息をついた。
「……まぁ、屋敷の連中はそもそも貴族の使用人たちだ。古株もうちに来たし、言えばなんとかしてくれるだろ」
「やったー!!」
万歳して小躍りしているし。
かわいいけど、公爵令嬢がソレでいいのか?
家主のソードが許可をしたので、スカーレット嬢を招くことが決定した。
寄り道せずに拠点に帰ってきて、屋敷の住人に事情を説明。
「……スカーレット・ショートガーデ公爵令嬢と誼を通じた。彼女も英知の持ち主だったのでな、話が弾んだのだ。私とは切り口の違う知識の持ち主だ。……で、だ。私は平民だとは言ったのだが……どうも、この屋敷にバケーションに来たいらしい」
「まぁ! おめでとうございます! インドラお嬢様! 学園でご学友が出来るなんて、しかもショートガーデ公爵令嬢だなんて! さすがですわ!」
メイドたちは大喜びだし、メイド長もなぜだか自慢そうにうなずいてる。
「いや、彼女が私の魂の同郷だったが所以だ。勇者アマト氏も同じ理由だしな。……それでな、スカーレット嬢は公爵令嬢としてのマナーは完璧だろうが、私と同じで魂の故郷では平民だったのだ。だから、この屋敷で寛ぎたいのだろう。それも踏まえて、もてなしてほしい」
「「「かしこまりました」」」
さてと。
何やら張り切ってる皆さん(料理長まで!)にお任せし、私は放り出していた作業の続きだ。
酒造りチームのところに向かうと、
「あ! インドラ様! お帰りなさい!」
我が麗しのプラナが出迎えてくれて…………
「おぉおお! もしや、出来たのか!?」
顔を輝かせ私を見たプラナの表情は、大層自慢げだった。
「エヘヘ、なんとか出来ました~。試運転して、大体こんな感じかな? って。ただ、これを大きくするとなると、熱量のコントロールが厳しいので、そこはやっぱりインドラ様のお知恵を拝借しないとって待機中でした!」
私の身長くらいの大きさで設計された蒸留器が、もう出来上がっていた!
魔導具ではなく、手動で、窯を作って火をくべて蒸留させている。
うんうん!
プラナ、君は天才だ!
「いいじゃないか! 実際どうだ? ちゃんと出来たか?」
酒造りチームに聞くと、チーム長が大きくうなずく。
「温度調節がなかなか難しいですが、良い感じです。いや、これをインドラ様はお一人でなさっていたのかと思うと、インドラ様の素晴らしさを改めて感じました」
いや、私は魔術だもん。
つきっきりで温度調節とかしないし、大変じゃないよ?
「よし、手動はうまくいった! 次は機械を大きくし、魔導具としよう。プラナ、君にも魔導具作成の心得があるのならば、合同で作っていこう」
「はい!」
顔を輝かせて返事をするプラナ。
うんうん、綺麗だね、かわいいね。
お次は食器だ。
サハド君、瓶を大量に作ってくれた。
作業工程を教えてもらい、単純作業部分には魔導具も導入していたが、それでもかなり手作業が必要なのに、助かった。
「サハド君、ありがとう!」
「いいえ。プラナも頑張ってたから、負けられない! って思って……」
照れて頭をかく。
初々しいねー。
「あと、食器も作りました! 絵付けは、コーラルさんがやってくれて、ホラ! すごく華やかじゃないですか?」
驚いた。
正しく売り物として出してもおかしくないほどの素晴らしい出来だった。
ふと振り返ったらメイド長が照れたような顔で控えていた。
「……絵画や刺繍などがお好きなイサドラ様に仕えておりましたので、私もそれなりに見てまいりました。まさか、私自身が絵付けをすることになるとは思いませんでしたが、中々面白くて……。お目汚しでしたら申し訳ございません」
「……いや、驚いた。これは、私の知識では、かなりの上質な食器の部類に入るだろう。このまま売ったら金貨で売れるぞ? というか、絵柄のついた食器なぞこの世界には無かったろうに、よくこういった柄を思いついたな? 素晴らしい」
「……お褒めいただきありがとうございます」
淡々としてるけど、ちょっと口元が緩んでるから、喜んでるよね?
「この作業、貴方に任せてもいいか? これは、スカーレット嬢に自慢出来そうだ。アマト氏には見せたか?」
「はい。『祝でもらうような高級そうな食器だ』と……」
おぉう、なるほど。
「うん、その通りだな。アマト氏の故郷では、結婚すると、親兄弟はもちろんのこと、友や職場の仲間からも祝をもらう。金貨の場合が主だが、こういった皿やカップを二つ揃えで贈るのもよくあったんだ。高い食器など、自分では買わないだろう?」
「あぁ、なるほど」
メイド長が苦笑した。
「面白い表現をなさる方だと思いましたが、理由があるのですね」
まぁ、知らない人が聞いたらそう思うよね。
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