第185話 断罪の場に見参!(自分も悪役令嬢ですが)

 会場は大きくざわめいた後、静まり、全員が王子を見た。

「その被害者とは! 今、私の隣にいるプリムローズだ! 彼女は、様々な嫌がらせに遭ってきた!」

 王子は横にいるプリムローズの肩を抱き、クドクドと説明する。

 それは、階段から落とされただの、椅子が汚されていただの、突き飛ばされただの、取るに足りない内容ばかりだった。

 首をかしげる。

 ……焼きごてを押されたとかじゃないのか?

 女子の虐めは大したことがないな。

 貴族の男は、平民の私に焼きごてを押して奴隷にしようとしたぞ?

「……その全ては! それを企てた犯人は! ――お前だ! スカーレット!」

 王子がようやくオチを言うと、大きくざわめき、皆が一斉にスカーレット嬢を見た。


 スカーレット嬢は顔を青ざめさせていたが、それでもこう然と顔を上げ、王子に応対する。

「エリアス王子、何をとち狂っておいでですの?」

「とち狂ったのはお前だ! スカーレット! お前は、婚約者の肩書きをプリムローズに奪われるのが怖くて、遠ざけるように嫌がらせをしていただろう!」

「……証拠はございますの? よもや平民を罰するのではあるまいし、公爵令嬢たるわたくしを、いくら第一王子とはいえ、何の証拠もなく犯罪者扱いできないでしょう?」

 スカーレット嬢の声が震えている。

 どうやら、乙女ゲームとやらと同じ展開になっているようだ。


 ――彼女から聞いたストーリーだと、スカーレット嬢が悪役令嬢として登場している場合、学園を追放され、さらに恨みを買っていた男子学生連中に乱暴され自殺するか、『公爵家に泥を塗った者』として公爵家から勘当され、留学という名の国外追放させられることになり、しかも移動の道中で盗賊に殺されるかの終焉を迎えるそうだ。

 ちなみに私が悪役令嬢の場合は、暗躍していたわりにがっかりするほどショボいやられ方で死ぬそうな。


 なるほど、バトルか。泣き虫甘ったれ王子が学園最強だったなら、まとめてかかってこられても全員をがっかりするほどショボく殺せそうなんだが。

 あ、攻略対象のソードとも戦うなら、もうちょい華のある戦いが出来るかも?

 ……と、断罪シーンを見ながら考えつつ、腕を組む。さて、私はいつ登場すれば良いのだろう?


 スカーレット嬢の言葉を聞いた王子は、馬のフレーメン反応のような笑みを浮かべた。……悪役面にしか見えない。あれが王子なのか。そうなのか。

「もちろんある! プリムローズが証言した! 今まではお前が怖くて黙っていたが、ようやく重い口を開いてくれたのだ! そして、第一王子である私がその証言の後ろ盾となろう。これで異論はあるまい? ……ディレク、スカーレットを捕らえろ!」

「お待ちください! 私には――」

「――はっ! 黙れこの犯罪者! お前の言葉など誰も聞く耳持たぬわ! ローズの痛みを思い知れ!」

 筋肉達磨がスカーレット嬢の言葉を遮り罵りながらスカーレット嬢に大股で歩み寄った。

 うわー、あいつ絶対に弱い者いじめ好きのサドだ。

 嗜虐的な表情でスカーレット嬢を見下ろしている。

 筋肉達磨が、毅然としつつも細かく震えているスカーレット嬢の肩を掴もうとする。


 ……ここだ!


「!! ……ギャアアアア!!」

 筋肉達磨が手を押さえて蹲る。

 ――私が、触れようとした手を焼いてやったのだ!

「……汚い手で、スカーレット嬢に触らないでもらおうか」

 一斉に私を見る。

 そして、一斉に引く。

 ……ちょっとー、なんで引くワケー?

 まぁ、演出的にはかっこいいから、いいか。


 スカーレット嬢は、気が緩んで泣き出しそうな顔で私を振り返った。

 ……のに、私の満面の笑みを見た途端、引きつったんだけど。なにゆえに?

「……インドラ……」

 王子がうめいた。

「スカーレット嬢は、私の友だ。謂われもなく犯罪者扱いされたならば、私も相応の対応を取るぞ? 折良くソード教官はいない。……私を止められる者は今、いないんだからな?」

 と言った途端、ガンガン皆離れていくんですけど?

 なぜかみなさん扉付近に固まってるんですけど?

 うーむ、ドラマの主役になったみたいだけど、なんとなくしっくりこない。


 王子が慌てたようにまくしたてた。

「お、お前の妹だろ! ローズは!」

「あぁ、だから、よく知ってるよ。。……悲劇のインドラ・スプリンコート伯爵令嬢の話を聞いたことがあるか?」

 王子が黙った。

 ということは、知ってるな。

「プリムローズのマナーがなってないのはインドラのせい、プリムローズの挨拶がちゃんとできないのはインドラのせい、プリムローズが汚く食事するのはインドラのせい。まぁ、なんでもかんでも私のせいにされたな。私がいなくなり、今、そのお鉢が回ってきたのがスカーレット嬢というわけか」

 私は王子を見ながら壇上へと歩く。

 王子は先ほどの勢いなどまるでなかったように、歩み寄る私を見て焦燥感を浮かべつつ、じりじりと下がった。

「お前、スカーレット嬢に愛されてると自惚れているな? 甘ったれ泣き虫王子が、私に何一つ勝てない坊やが、プリムローズを選んだ時点で王位継承から外されることが決定の『以前王子だったかもしれない平民』が、プリムローズの後ろ盾だと? 笑わせるな。……お前のその、スカーレット嬢を責める理由が、プリムローズのクズな父親を彷彿とさせて、私の怒りを煽る」


 ……当時のことを思い出すと、今でも腹が立つ。


「――あの男は本当に、事ある毎に私の責任にしたよ。プリムローズが自分で転んでも、遠くにいた私のせいにしてきたな。『私が側にいて支えなかったせいでプリムローズが怪我をしたじゃないか、この愚図が!』とわざわざこっちに来て殴られたのを思い出した。今、お前は、スカーレット嬢に同じ事をしようとしたな?」

 私の怒りのボルテージが上がってきたのがわかったのだろう。壇上に上がった私を見て、プリムローズの取り巻きたちが後ずさりした。

 小さい少年はプリムローズの後ろに素早く隠れ、繊細な顔の少年なんか、転んでお漏らししたぞ。

 そして後ろの方で

「……やっぱり、デーモンより、魔族より、絶対にインドラ君の方が怖いと思う……」

「僕も思いきり同意するよ……」

 とか言うつぶやきが聞こえてきたぞ。

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