第184話 スカーレット嬢から依頼を受けたよ
依頼は無事、解決した。
スミス君の件はソード教官が報告し、私はシャドの動き待ちだ。
現在リョークに見張らせている。
シャド、どう出てくるかなーと思ったけど、部屋を爆破された後王様に呼び出されたので、自分の失態を話し自身の解雇と王様の安全のための警護を要請したが、王様は全部却下。
もしも私が王様の前に来たら、王様自身が謝罪する、と言ってのけた。
シャドはそれを聞いて真っ青になり、自分の首を私に差し出してくれと言い張っていたけど、王様は許さずそのまま退出させた。
解雇も投獄もされなかったけど、失態は失態なので(お手紙が燃えるとそのエネルギーで魔術が発動、私のボイスメールが大音量で流れ、最後に爆発するようにしたので皆聞いてたはず)自室に軟禁されてる。
絶望した感じでガックリと座って両手で顔を覆ってるところがいいですね! 演技じゃなければ。
ご飯も喉に通ってないようで、なかなかにダメージを与えられた様子。
もうちょい、策をひねってほしいところなのだが……。まぁいいや。
もうちょっとして気が緩んだ頃にまた、励ましのボイスメールをお届けしようーっと!
――そんなわけで、ようやくここを去ることになったのでスカーレット嬢に挨拶をしたら、ガッ!と手をつかまれ、深く頭を下げられた。
「お願いします! 人助けと思って! バケーション前の終業パーティで、私の破滅ルートが決定するんです!」
もうちょっとだけいてほしいと必死に拝み倒された。
私はスカーレット嬢のアリバイを証明する一人で、さらには王子たちの権力に屈しない唯一の証人なので、もしも連中がえん罪をなすりつけてきたら、スカーレット嬢と一緒にいたという証人になってほしいそうだ。
「……プリムローズ様が、王子ルートもしくは逆ハールートに入っているならば、私がざまぁされることになります。他ルート、特にカイン君ルートの場合はインドラ様がざまぁされる展開がありましたが、男子学生として入学されたインドラ様のざまぁは、どうあっても考えられません。私のざまぁの場合、婚約破棄を狙って私を陥れてくるはずです。でなければプリムローズ様とは結婚出来ませんから……」
辛そうに語るスカーレット嬢。
「うぅむ、そういうことか。……まぁ、私は冒険者だ。依頼とあれば依頼料によっては断らないぞ?」
「お金を積みます!」
「いや、金はいらん。そうだな……。うちの拠点ではレストランを開いている。そこに卸す紅茶を割安で優先的に譲ってくれ」
スカーレット嬢、キリッとした顔でうなずいた。
「わかりましたわ! それで助けていただけるのでしたら、なんとしてでも手を打ちますわ!」
「そうか。ならば、私も貴方のために一肌脱ごう」
そういうことで、新たな依頼を受けたぞー。ついでに美味しい紅茶の仕入れ先もゲットだ!
終業&卒業パーティ。
これが終わったら拠点に戻り、放り出してきた全てをもう一度やらねば……あ、その前に、海の町に行こう!
また仕入れてこようっと。
ソードはギルドに行っていて、欠席している。もしかしたら出席したくなくて逃げたのかもしれない。
ぐるっと周りを観察したら、スミス君が憂い顔で周りの女子にきゃいきゃい言われてるのが目に映った。
目が合ったら、スミス君はニヤリと笑った後こちらに来た。
「アドバイスありがとう」
礼まで言われたぞ。なんでだ?
首をかしげた。
「……私は、貴方にどんなアドバイスをしただろうか?」
「君は、プリムローズ様のように複数の異性を侍らせるのは好きじゃないと言った。そして、俺とプリムローズ様は境遇が似ているとも言った。……つまりそれは、俺にもプリムローズ様と同じことが出来るということだ」
なるほどな!
スミス君の説明で合点して、ポンと手を打って言った。
「言われてみれば確かにその通りだ」
「実際やってみたら、すごくうまくいった。……内緒にしてくれるか?」
「別に言いふらすつもりなんてないし、スミス君が独り立ちしたのを快く応援しているぞ? 私は甘ったれは嫌いだが、独り立ちした者は遠くで生温かく見守れる」
私のセリフにスミス君は声を出さずに笑うと、また表情を憂い顔に戻し、去っていった。
うん、もうスミス君は大丈夫だね。
とっても楽しそうで良かったよ。
次に寄ってきたのはスワン君。
――スワン君は正体がバレて以来、さらに怯え苦悩していたのだが、これ以降私の調査はしないように、という手紙が届いたと(震える声で)私に報告してきた。
そのあと両親が緊急に面会に来て何某か話し、それ以降は普通になった。
「……僕、インドラ君と出会って、いろいろ刺激になったよ。インドラ君を見てると、平民ってとっても自由みたいだし、両親とも話して、親戚で平民になって商売をしている人たちがいるから、卒業後はそこに行くことにしたんだ」
スワン君に身の上話を語られた。
「……僕、人付き合いも下手だし、成績もあんまり良くない。シャド様の力で特別クラスに入れられたけど、身の丈に合ってなくてすごく肩身が狭かったんだ。だから、次のクラス替えではちゃんとしたクラスに移されると思うし、これからは気楽に過ごせるかなって思う。……今まで、騙して陰でコソコソと調べていてごめんね」
――スワン君は本当に、うちの拠点にいるコカトリスを思い出させる子だなぁ。
この、おびえたような上目遣いが出会ったときの彼等を思い出させるよ。
「いや? 私としては面白かったぞ。ルームメイトがスパイというのは、ありきたりの話だからな!」
朗らかに言った私の言葉で、スワン君が曖昧な笑顔になった。
「……いっつも思うけど、インドラ君のありきたりって、ありきたりじゃないよ?」
「いいんだ。私が知ってる『ワクワクするような話』には、そんな内容があったりしたんだ」
「……そっか……。インドラ君はいつも刺激を求めてて、自分自身が刺激的だってわかってないよね。僕は、君が次は何をやらかすんだろうって、とっても刺激的だったよ。でも、最後は、楽しかった、って思った」
「うむ! それでこそ男だ!」
スワン君と笑い合ってると、周囲の談笑がピタリと止み、壇上に視線が集まった。
「諸君! 聞いてくれ! 私は、今日この場で、一人のかわいそうな被害者と、そこで行われてきた犯罪、そして! その犯罪を行った者を断罪したいと思う!」
視線を追うと、甘ったれ泣き虫王子が壇上で吠えていた。
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