第181話 スワン君からの手紙 一
私はシャド。
アレクハイド王の側近です。
幼少からアレクハイド王にお仕えしております。王のため、万難を排し、王をお支えする、と幼少の頃から決意し、日々精進して参りました。
――さて、若かりし頃少々ヤンチャだった王は、市井の探索を趣味としておりました。
いくら注意しても聞く耳を持ってもらえずハラハラしておりましたが、案の定悪漢に捕まってしまう事件が起きてしまいました。大変困難な状況におかれたところ、たまたま少年の冒険者に助けられ、以後、その冒険者……ソードを気に入り、ひいきにしておりました。
ひいきにした結果。ソードは元々武術は優れていましたが魔術まで精通し、少々やっかいな人間に成長しました。
更には王都の襲撃。
王を守ったのは良いのですが、活躍しすぎて英雄となってしまったのが更にやっかいです。
ですが、潰そうと思えば潰せました。このときまでは。
更にやっかいになったのが、相棒を見つけてパーティを組んでからです。
噂は聞こえてきていましたが、王都ダンジョン踏破という偉業を成し、王に頼まれ呼び寄せましたが……ソードの相棒になった人間が、非常によろしくない。
敵に回したら非常にやっかいです。
ソード自身、相棒の味方をすると宣言しましたので、その前に弱味を掴んで押さえつけ飼い馴らさなくてはなりません。
折良く、面白い噂が舞い込んできたので、これを利用しましょう。
ちょうど手頃な駒があったので、それを使い、依頼を出し、駒に探らせることにしました。
駒を特別クラスに入れ、クラスメイトルームメイトとして、困っている平民を見逃せないように見せながら探りなさい、と命令しました。
駒は完全なる素人ですが、彼等には玄人の方がバレそうですからね。
そうして、駒から些細なことでもいいのでと手紙を送るように指示をしてから数日後、彼等が入学した初日の手紙が届きました。
*
『 ○月×日
特別クラスの編入生はインドラという名前の平民でした。
とても綺麗で華奢な男の子です。
ですが、今までの平民……僕のような貧乏男爵家の子にすらいない、堂々とした態度です。
クラス全員を見渡し、不敵、と表現するのがぴったりの笑顔を向けます。
活躍している冒険者というのはこんなにも堂々としているのでしょうか?
僕の方が目が合った途端に伏せてしまいました。
インドラ君は放課後、イヤーナ子爵と取り巻きに呼び出されてしまいました。
僕には止めることが出来ません。
慌てて、唯一どうにか出来そうな……もう一人の冒険者、ソード教官を探して、その話をしました。
僕の話を聞いたソード教官は、額を手で打ちました。
「うーわ、ソイツら、生きてりゃいいけど……」
呟いた言葉は聞き違いかな? って思いましたけど、後に聞き違いじゃないのがわかりました。
「リョーク! インドラが何処にいるかわかるか!?」
「あいさー!」
「ヒッ!」
急に魔物が現れてびっくりしましたが、ソード教官に宥められました。
ゴーレムだそうです。
ソード教官は手首に付けてるバンドに向かって怒鳴ってます。
驚きました。
そのバンドからインドラ君の声が聞こえてきたからです。
さすが、英雄と言われている冒険者の方はすごい魔導具を持ってるなぁ、と感心しました。
ソード教官は救出に向かったので、たぶん大丈夫だろうと思い、部屋に戻りました。
一応、応急薬も用意してたのですが、戻ってきたのは汚れ一つ無い、綺麗な顔のインドラ君でした。
話をしたのですが、噛み合いません。
言ってることがわからないのです。
でも、どうやら余計なことをしたらしいです』
『 ○月×日
イヤーナ子爵がインドラ君を訴えました。
暴力を振るわれ拷問を受けた、ということでした。
……逆じゃないのかな? と思ったのですが、どちらにしろ訴えは退けられました。
イヤーナ子爵の主張する拷問をもし受けたなら、そこに傷痕が残るはずですが、どこにもなかったからです。
イヤーナ子爵は悔しそうでした。
そんなイヤーナ子爵を見てインドラ君はつまらなそうに言いました。
「……つまらないな。お前、もっと頑張って訴えなかったのか? 全然楽しめないじゃないか。ここは、私がお前に濡れ衣を着せられて窮地に陥るのがセオリーだぞ?」
僕、耳を疑いました。
インドラ君、何を言ってるんだろう?
イヤーナ子爵はインドラ君に食って掛かりましたが、彼の取り巻きたちは一斉に首を振り「何もありませんでした」と言ってます。
インドラ君に「お前らも、かかってきていいんだぞ?」と言われても「インドラ様には絶対逆らいません」って言ってます。
平民に、貴族が〝様〟をつけて呼んでます。
イヤーナ子爵はもうお前には関わらないと叫んで泣いて出て行きました。
インドラ君はとってもつまらなそうな顔をしています。
一体何があったのか、僕にはわからないけど、インドラ君はあの問題児たちに勝てる実力があるようです』
*
『 ○月×日
インドラ君は休み時間となると、席を立って出て行きます。
何度かつけたのですが、単に廊下を歩いているだけでした。
つけられたのがバレていたのかもしれません。
…………ただ、廊下の真ん中をすごく威張ったような態度で歩いてるのが気になるんですが。
みんな怖がって、避けて歩いてます。
教室に逃げ込む人までいます。
僕も怖くなってきたので、もうつけるのはやめようと思いました』
シャドはこめかみを揉んだ後、首を傾げた。
「廊下を歩いているだけ、なのは気になりますね。恐らく依頼の魔族を探しているのだとは思いますが、なぜ廊下の真ん中を我が物顔で歩くのでしょうか? 理由を聞いて貰いましょう。……にしても、初日にいきなり貴族を拷問ですか……。流石というべきなのか……。しかも、被害者が大袈裟に訴えたにしろ、傷一つ残さず治せるとはソード以上の魔術師ですね……。ますますやっかいさがわかっただけですか」
シャドは、同じ学年で学園にいなくて良かったと思った。
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