第175話 発酵がお好きでしょ
紅茶を飲みつつ愚痴られた。
「……
興奮して、だんだんと素に戻ってきてるぞ?
「様々な種類の野菜の皮やクズ、あとは好みで肉の破片や骨を足して長時間、火力をごく弱めにしながら水を足しつつ煮込み、具をこして、今度は焦げ付きに気をつけながら汁を半量から三分の一くらいまで煮詰めれば、洋風だしの素になるぞ。冷蔵魔術か冷凍魔術がないと日持ちはしないがな」
「ほらーーーー! そういうチート知識をサラッと出してくるーーーー!」
スカーレット嬢が素に戻った。
「スパイスだって、香草だって、すっごい使いこなしてるし! ランチのときのサンドイッチ、超おいしいし! なんなら別世界で食べてたコンビニのサンドイッチよりおいしいし!」
うん、そうだね、私が目指したところは高級パン屋の御洒サンドだからね。
ソードが話に入ってきた。
「……ってことは、インドラはかなり別世界の知識量が豊富なのか?」
「豊富なんてもんじゃないと思います。だって私、お酒の造り方なんて知らないもん! 料理だって、向こうはちゃーんと調味料がそろっててすぐ使えるようになってるんです! まさか、調味料の作り方を知らないから作れない、なんてことになるなんて思ってもみませんでした! 一番は、せっけん! せっけんないし、作り方がわかんないし! なんか、劇薬使うってのは聞いてたけど、その劇薬の手に入れ方がわかりませんよ! そもそもそんな言葉が存在しません!」
スカーレット嬢が壊れてきた。
「まぁまぁ、落ち着け。紅茶のおかわりはどうだ?」
「……いただきます」
ついでやった。
「でも、スカーレット嬢だって、紅茶を完璧にしたじゃないか。この紅茶は、本当においしいぞ?」
「作り方を指示したわけじゃなくて、工程を全部視察して、いい加減にやってるところをビシバシ口出ししてちゃんとやるように指導したんです。お茶の葉の厳選まで口出ししてやらせました」
なるほどなー。
やっぱり素材ありきかな。
「……パンだって、イースト使ってないことにショックだったけど、イーストがよくわからなくて、ただ、お母さんがイチゴ潰して瓶に入れた汁を使ってたのを思い出して、たまたまそれが当たりだったんです。ただ、まだ完璧じゃないんですよね、ちょっと固くて」
そうなのよ、この世界、酒以外、発酵物を使ってないのよ。
パンも種なしパンだったしね。
それなのによくもまぁ酒好きが多いよな?
確かに別世界の私も酒好きが高じていろんな酒を造ってたけどさ。いや、発酵が好きだったんだろうな。
「それはもう小麦の問題だから、私にもどうしようもないな。スカーレット嬢も思っただろうが、ここは、大昔の別世界のように、小麦粉の種類が一つしかない。諦めてそういうものだと割り切っている」
この世界に薄力粉中力粉強力粉の概念はない。
さて。スカーレット嬢と意義のある会話を終えたところで、カイン君を探せ! に戻る。
『行き当たりばったり皆殺し作戦』を使えないとすると、どうしようかな。
……と考えていた矢先、動きがあった。
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