第176話 黒幕は誰だ
〈???〉
――朝……とはいえ、まだ日も昇らない時刻、そっと起き出した。
同室の彼はもういない。
いつも、これより少し前にどこかに行ってしまうのを知っていた。
今日は、どこに行くのかを突き止めなければ。
窓の外を覗くと、彼が裏の林に向かうのが見えた。
慌てて走り、裏の林に向かった。
…………と。
急に口を押さえられ、身柄を拘束され、物すごいスピードでどこかに連れ去られていく。
それはあたかもデーモンが自分を飲み込み彼の世界に連れ去られてしまうような、圧倒的な恐怖だった。
…………あの話は本当だったんだ。
この学園にはデーモンがいる。
魅入られたら、連れ去られて食べられてしまう、と。
***
人気の無い荷物置き場まで連れてきて、その男……【スワン君】を解放した。
スワン君、ガクガクしながらぎこちなくこちらを見た。
「…………インドラ君」
「私が誰かを能動的に連れてきたのは、君が初めてだぞ? 光栄に思いたまえ。基本、私は、受け身だからな。やられたら十倍返しを執行する、としているのだ」
近寄って、ニコリと笑った。
「さて、君が私をコソコソと嗅ぎ回っていたのは、知っていた。だが、君はあまりにも魔素が薄く、正直、魔術師としても微妙で、君が魔族とは思えなかった。そもそも、成績も微妙、貴族の爵位も微妙、そんな君がなぜ特別クラスにいるのかもわからないのだ。それこそ、『
スワン君がビクッとした。
「誰かに命令されているとしか考えられない。で、黒幕を突き止めるべく泳がせていたのだがな、いい加減、私の痺れが切れた」
スワン君の前に立ち、覗きこんだ。
「私はな? 本来、こんなつまらない学園に来たくは無かったのだ。授業も退屈、しかも、もう十年近く前にとっくに終わらせた内容を単に繰り返しているだけ、魔術も剣術も本気を出してはいけない。そうなると私にはもう、やることがないのだよ。だから、とっとと終わらせることにした」
スワン君、目に見えて震えてる。
「君の目的を、正直に言ってもらおう。私は催眠魔術など使えないのでな、手っ取り早く言いたくなる方式を採らせてもらう。しかも、早く戻らないとソード教官だけでなく他の連中も気付いてしまう。だからな? 多少、痛いかもしれないが、言いたくなるようにしつけてやろう」
「ごめんなさい! ごめんなさい! ごめんなさい! 何でも話しますから許して下さい! お願いします! 何でも話しますから!」
伏せして泣きながらまくし立てられた。
「ふむ……でもそのことが真実かわからないからなぁ」
「誓ってうそは言いません! 裏を取ってくれて構いません! お願いします、拷問だけは! 拷問だけは許して下さい!」
むぅ…………。
私はおびえ震える生物を痛めつけられないんだよなぁ。
「……では、しゃべるんだ。まずは、お前の雇い主の目的は何だ?」
「僕……僕の親が、雇い主様に、助けられて、ご恩に報いるように、って言われました。雇い主様から命令されたのは初めてですが、今度、編入してくる学生の、事細かな情報を、どんな下らないことでも構わないので手紙に書いて送るように、と。それで、僕は、両親に手紙を書いているフリをして、雇い主様に手紙を書いていました」
ふぅん。
つまり、私が編入することを知っていた人間、か。
「そいつの名は?」
「…………シャド、様、です」
シャド…………って、あー、アイツか。
以前、王都の借家に押しかけてきた、ソードの知り合いの、陰険そうな中年男だな。
なるほどな。
アイツは敵だったか。
「わかった。では、お前を拷問しない代わりに、手紙を書いてもらおう。今回は何を書く予定だ?」
「…………朝早く、誰よりも早く起きてどこかに消えて、戻ってくるから、どこに行くのか突き止めようと、今日は、窓から見たら、裏の林に向かったので、裏の林に何かあるのかなって」
なるほど、確かに端から見たら何か怪しげなことをやってると思われるか。
「魔術はともかく剣術は、学園の週に数回の生ぬるい鍛錬では鈍ってしまう。私はいつも、五歳の時から毎日、自主鍛錬を行っていて、それを欠かしたことはない。お前もコソコソと嗅ぎ回るよりも、報告書など適当に書いて『使えない』というレッテルを貼られた後、もっと自分を磨く努力をしろ。側仕えになると言ってもその弱さでは論外だぞ? うちのメイドや使用人は、下手な冒険者よりももっとずっと強い。でなければ、主人の身を守れないだろうが。それが側仕えの矜持ではないのか?」
スワン君、衝撃を受けたようだった。
「私は、裏の林で剣の稽古をしていた、と書け。それはソード教官も知っている事実だ。そして書いた物を私に少し貸し、返したならば封をして送れ。……拷問されたくはないんだよな?」
ヘドバンかという勢いでブンブンうなずいてる。
「ならば、言うとおりに実行しろ。騙そうと思っても、すぐバレるぞ? まぁ、身を以て知ってもいいが。私をなめてかかっているなら、好きにしろ」
間髪をいれず、泣きながら叫んだ。
「なめてません! 絶対に逆らいません! 言う通りにします! だから、助けて下さい!」
って……。
まるで私が悪者みたいじゃないか!
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