第164話 新たな出会い
マナーの授業。
今回は、お茶会のマナーだそうだ。
私は男性役も出来る。
何しろ、男性のマナーを理解していなければ、相対する女性のマナーも理解出来ないからだそうだ。
確かに言ってることは正しいが、それを習わされる幼児の自分を思いやってくれ。
――と、今は思うが言いたい相手はもう死んで腐り落ちている。
相手役の女性をエスコートし、着席。
お茶の飲み方から軽食のとり方までいろいろあるのだが、相手役に恵まれて、難なくこなせた。
これが、プリムローズ辺りだと本当に大変だからな……。
絶対に嫌だ! とは思ったのだが、陥れるためにプリムローズを当ててくるかもしれないとは思っていた。
だがプリムローズは人気者らしく、皆に誘われていたのだ。よかったー。
なぜか緊張感漂う私の番。
「……エクセレント! スカーレット様がお相手とはいえ、完璧でした。……貴方は平民と伺いましたが……」
終わった後の教官の一言で、緊張が解けた。
なんだったんだろう?
「もちろん平民だぞ。だが、マナーは幼児の頃に厳しくしつけられたのだ。男役も女役もどちらも理解してなければならないと、五歳児の頃には完璧に両方覚えさせられていたな」
教官も周りも絶句。
周りを見渡し、フッと笑う。
「鍛錬が足らんのだ。平民は、それこそ『たかが貴族』より、もっともっと鍛錬をしているぞ。優雅に生きるのもいいが、鍛錬せねば、平民には勝てんな」
シーン。
相手役の女子が呆気にとられていた。
さて、プリムローズはあれから成長したのかな? と優雅に眺めたら、王子と組んだらしいプリムローズが、エスコートされて……うわ、ひどいな、王子はあんなんでよくもまぁプリムローズと結婚したがってるな、愛人にする気か? ってすごさだった。
教官が眉間を押しながら指導しまくる。
王子の手前、ビシバシ出来ないようだが、気にせず指導した方が本人のためだと思うけどなー。
……と、隣でため息が。
相手役のご令嬢、スカーレット嬢だ。
ダークブラウンの髪で、将来美女になりそうだがそれ故にキツい印象を与えそうな顔立ちをしている。
目が合った。
「私と組んでいただけて助かった。プリムローズと組んでいたら、さぞかし罵倒されただろうに。私への鬱憤を晴らす良い機会だと、そうされるかと思っていたが、されなかったな」
「……そりゃあ、あれだけのことを言い切る平民でしたら、さぞかし恨みを買ってるでしょうね……。……あの、プリムローズ様とはご関係がおありなの?」
うん?
どういう意味だろ?
男として『肉体関係』があるか聞いているのかな?
「私は、プリムローズの『姉』だ」
スカーレット嬢、絶句。
「…………えぇと、どういった比喩かしら?」
「腹違いの『姉』だ。まぁ、ご令嬢方はご存じないかもしれないが、サマーソル公爵の娘だった母がスプリンコート伯爵と交わって出来たのが私だ。十歳の時に出奔したので、関係は切れているが、血筋的には『姉』になる」
「…………そうでしたか。確かに『姉』が入学してこないのは変だと思ってたのですが……性転換されてたのですか」
「してない」
え、ソッチに誤解するんだ?
「手違いで、男子用の制服が届いたのだ。どういうことかと首をひねったが、面白そうなので男装して入学した。……特に困ったことはないな。だが、男装も飽きてきたので、今度はちゃんと女として女子寮に入寮したいと考え始めたところだ」
「やめて下さい。痴漢と間違えられますよ」
ってひどいこと言われた気が。
「むぅ……。女性の身体は自分で見慣れているぞ? ちなみに男性の身体も見慣れているので、両方いけるな」
「……変態ですか?」
って言われた!
ひどい!
「いや、私は性欲がないので男も女もどちらにも興味がない。ただ、明け透けにしゃべりすぎるらしくて、ソー……相棒にもよく怒られた。貴女の不快感を煽ったならば謝罪する」
少女はエッチネタ嫌いな子もいるもんね。
白馬の王子様……あ、そこにいるけど、プププ、『爆竹で泣いちゃう王子様』を待ってるタイプかもしれないしー。
「……本当に、元女ですか?」
って念を押されたし。
「元も何も今でも女だ。男装だ、これは」
「あぁ、工事中ですか」
「違う」
なんで工事中!?
つか、工事中ってこの世界で通用するの!?
胡乱げに見たら、相手も驚いたように私を見た。
「…………あの、もしかして」
と、相手に問いかけられたときに終業の鐘が鳴った。
「……貴女は、勇者と同郷の方か?」
私のその問いに、首をかしげた。
「勇者……?」
うん?
もしかして、機密事項だったのかな? 勇者が別世界の人間って。
そんなことをソードも言ってたような言ってなかったような。
「いや、それはいい。そうだな……〝桜〟という言葉を知っているか?」
ビクン、と反応した。
おぉう、マジか。同郷の人発見!
さらには、私と同じパターンかもなー。
「……
カレーライスと来たか。
「残念ながら〝米〟を手に入れる前にこの学園に来たのだ。今は〝ナン〟で我慢しているぞ」
彼女の表情が劇的に変わった。
「か、か、カレー、作れます?」
「スパイスは王都に売っていただろう?」
「だって、〝カレー粉〟がないんだもん!」
口調を崩して、周りがガン見。
スカーレット嬢、ハッとして、口を押さえた。
……後、咳払いした。
「……コホン。今度、お茶会に招待してもよろしいかしら?」
ニッコリ笑った。
「喜んでお受けいたします、スカーレット嬢」
さーて、ちょっと面白くなってきたぞー!
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