第163話 劇的でもない再会

 授業が終わった。よし。気合いを入れて……。

「【学園最高】はこの俺だ!」

 拳を振り上げ宣誓した。


「あー、もー……。……本当、人生を楽しんでるようで、何よりだよ」

 ソード教官が疲れてる。

 なんでだろう。

 肩でももんだ方がいいのかな?

「ソード教官、疲れてるなら肩でももみましょうか?」

「何? 次は俺の肩を粉砕する気?」

 気遣ったのにそんなこと言われる私。


 自室に戻ったら、スワン君におびえられた。

「うん? どうしたスワン君? コカトリスの変種が私に見つけられたときみたいに震えてるぞ?」

「…………コカトリスにおびえられたんだ? すごいねインドラ君って…………」

 ますますおびえた気がしたが、気のせいだ。

「大丈夫だ、私は、敵対しない者には優しいぞ? 王子は別に敵対したわけじゃないが、アレはお決まりの絡みなので、受けただけだ。王子に決闘を申し込まれるのはよくある展開だからな!」

「…………なんか、インドラ君の『よくある話』ってよくある話じゃない気がするんだ」

 気のせいだ!


「…………ねぇ、インドラ君って、普通の人じゃないみたいなんだけど…………。あ! 気を悪くしたらごめん!」

「別に悪くはしないぞ。出生は確かなので普通の人だな。容姿は母親に似ているらしいし……。ただ、環境が最悪で、すごい修行したのだ! そしたら強くなった」

 としか言えない。


「貴族は甘やかされて育てられているから、修行が生ぬるいんじゃないか? 平民は、特に冒険者などは強くならなければやっていけないからな。ソード教官だってすごく強いじゃないか。彼も、普通の人……だと思うが、修行して強くなったんだろうし、自分の鍛え方の問題だと思うぞ?」

「あ、そうか。そうだよね」

 納得したのかブンブンうなずいた。


 ――しかし、学園最強の座は手に入れられたが、肝心の依頼は展開を見せない。

 学園最強の座に就けば何かしらアクションがあるかと思ったら、むしろ皆が目をそらすのだが?

 最初に『歓迎会』をしてくれた連中は、ボスを除いて完全服従の、若干狂信的な付き人のようになってしまったし、つまらないなー。

 「ご命令は!」とか言って寄ってくるので「ないから勉強しろ」って追っ払ってる。


 ……そうだ! あの、心折れなかったボスと王子が組んで何かすごいことをやらかさないかな?

 ふと思い立って探すと、王子を見つけた。

 中庭の噴水近くに座っている。

 あ……女子とイチャイチャ中だった。

 しまった。

 ソーッと消えようと思ったら、二人がこっちに気付いた。

「……お姉様!?」

 なんとお相手は、愛人の娘だった。


「ローズ、知ってるのか?」

 王子がすっごい嫌そうな顔で私を見てるけど、無視してプリムローズに挨拶した。

「プリムローズか、久しいな」

 大分派手になった気がするが、平民臭さは大分抜けたな。

 そのプリムローズは放心してる。

 まぁ、久しく会ってない『姉様』が男装してたら、そりゃあ驚くよね。


「……インドラ姉様ですよね? どうしてそんな格好を……」

「うむ、これはな、手違いか男で手続きされてしまったのだ」

 なぜ誰も、私のことを『実は女ではないのか?』と疑わないのだろうかとは思っていたが、ここでプリムローズが暴露した。

 よーし、男には疑わしきがいなかったし、今度は女になって女子寮に移動しようっと。

「わかりましたわ! そういうことですの!」

 手を打ってはしゃぐ。

「『お姉様』は、『お兄様』だったんですのね!」

「オイ」


 どうしてそうなる?


「そうでしたの、私、てっきり、お姉様だったのかと思ってましたけど、女装はお兄様のお母様の教育方針だったんですのね。私、理解出来ましたわ!」

 いや、何も理解してないだろう。

「いや、私は『お姉様』だぞ?」

「わかりましたわ! お兄様!」

「あかん」

 あかんですわ、コイツ。

 昔ッからだけど、聞いちゃいねー!


「ちょっと待ってくれ。インドラ、とは、前にローズが話していた……」

「えぇ! インドラ兄様です!」

「お姉様だっつってんだろ」

 なんであえて否定するのよ! 男装だよ!

「…………そうか。出て行った兄とは、お前のことか」

「『姉』だ」

 毎回訂正。


「……しかし、ここで再会出来たとはいえ、もう少し早くローズに連絡してやったらどうだったんだ? ローズは随分お前のことを案じていたんだぞ?」

「お前、無関係だろ。なんで口出し……というか、私に文句を言ってくるのだ。それともプリムローズの男とやらなのか?」

「なっ……!」

 王子、真っ赤。

「そうか、プリムローズはもう開通したのか」

「お前、何を言ってるんだ!?」

 王子が逆上してる。

 プリムローズも赤くなりもじもじしている。

「だが、プリムローズよ。お前大丈夫か? 縁を切ったとは言え腹違いの妹だから教えといてやるが、コイツは第一王子らしいぞ? つまり、コイツと結婚したら、ものっすごい、貴族のマナーなど目じゃないくらい厳しいマナーの訓練を、徹底して日夜休みなくやらされるぞ?」


 プリムローズ、途端に真っ青になった。

 あ、やっぱり今でも苦手らしいよ?

「いいんだ! 純朴なプリムローズが初々しいんだ!」

「ならお前、王子を辞めろ」

 二人が絶句した。

「マナーを覚えるのが嫌い、そしてマナーなど覚えなくて良い、それが通じるのは平民だけだ。お前、平民になれ。そうすれば、マナーなどくそ食らえだぞ。でなければ、王になる気なら、王妃はマナーは必須だろう。恥をかき、バカにされ、見下されるのはお前とプリムローズだけではなく国全体だ。『マナーもなってない野獣のような粗野な人間の国』と思われるぞ」


 シーン。

 ……思い至らなかったらしい。

 オイオイ、大丈夫か?

 色恋に夢中すぎて、猿になってないか?


「私は王子を降りることを推奨する。平民はいいぞ? 私は野に下ったが非常に快適に過ごしている! 王をぶちのめそうが、王宮を破壊しようが、誰にも何もできないのだ! 素晴らしいな!」

「「え……」」

 なんか反論の声が上がったが、聞こえない気にしない。

 もう一度

「私を『お姉様』と呼べ!」

 と叫び、きびすを返した。

 ――うん。あの恋愛脳じゃ悪さしないね。

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