第139話 <閑話>勇者アマトの冒険 伍

 酒蔵を後にした。

 あんなに飲んだのに、酔っ払ってないのが不思議。やっぱりこの世界に来てハイスペックボディになってるのかな? とか考えながら歩いてたら、鹿? 牛? いや、鹿だな。が、いる牧場に来た。

 こっちを見た鹿が、

「こんにちは」

 って言ってきたんで超ビビった。

「うわ! この世界って、鹿が話すんだ!」

「鹿じゃないよ。チャージカウって魔物だよ!」

 怒られた。

「へー! ……牛なの?」

 鹿っぽいけど。

「うん。ホラ、ご主人様が、これをつけると可愛いって、プレゼントしてくれた、牛がつけるアクセサリー!」

 あ、確かにカウベルしてる。ってことは、インドラ様がご主人様か。

 つーかさぁ、ココ、ソードさんの屋敷っつってるけど、中身インドラ様のお屋敷だよな?

「ご主人様、元気だった?」

「ん? 元気だったよ。俺、助けてもらってここに来たの」

「えー! 一緒! 僕も助けてもらってここに来たの!」

 魔物と同類か。いや、案外インドラ様の懐が深かった、って思うべきだな、うん。

 ……と話してたら、なんか周りに魔物が集まってきた。

「こんにちはー」

 ……さすがインドラ様の飼う魔物だよな。牛や鶏がお話し出来ちゃうって、さすが異世界だって思うぜ。


 ひとしきり魔物たちと話して、屋敷に戻ってきたらメイドさんが声をかけてきた。

「アマトさんは、魔物のお世話係はどうでしょうか?」

 お世話係?

「え? そんな係あるんですか?」

「いえ、ありません。今までは手が空いた者が世話をしているのですが……さすが、インドラ様が招かれた方。魔物とお話し出来るスキルの持ち主とは」

 ………………え?

「あの魔物たち、普通に喋ってましたよね?」

「私には、鳴き声にしか聞こえません」

 ………………マジかよ。

 こんなチートって……役に立つのか?

 使いようによっては立つけど……。

「インドラ様はもちろん会話出来るのですが、他はいませんでした。リョークはインドラ様が作られたので会話出来るのですが、細かな世話は出来ませんし、屋敷の見回りを主にやっておりますので早々手が空きません。ですので、会話の出来るアマトさんが専属でやっていただけると非常に助かります」

 ………………。

 ちょっと嬉しい。

 ここにきて、俺の価値が上がった! ロブさん、もうイキイキと働いてて、俺、どうしようかと思ってたのに!

 そんな情熱なんてない、中途半端な知識しか持たない役立たずかと思ってたのに!

「やります! やらせていただきます!」

 片手を挙げて宣誓した。


 と、いうわけで、俺は魔物のお世話係に就任した。

 舐めてかかってたら、結構大変。魔物たち、遠慮なくこき使うから。

 …………魔物にこき使われてる俺って一体? いや、深く考えたら負けだ。俺はこやつ等の産み出すミルクや卵を食ってる身分だ。

「ハァ? ご飯が足りない? お前さー、食べ過ぎると太るよ? ……って! わー、突進するな! デリカシーないからモテないんだとか言わないっ! わかった、持ってくるから!」

 ――そういえば、勇者って何だっけ? 知らん。忘れたな!

 俺、今は生き物係!

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