第138話 <閑話>勇者アマトの冒険 四
それから、魔物に追われ麻痺銃を撃ちまくり、盗賊に追われトウガラシ爆弾を投げまくって旅を続けた。
トウガラシ爆弾はすごい威力で、当たった人はおろか周りまで巻き込む凄まじさ(しかも尋常じゃない痛がりよう。まさしく転げ回ってる)で盗賊を一網打尽に出来たり、そんなこんなでなんとか無事にイースまで辿り着いた。
イースの検問所で英雄さんからもらった書状を見せたら、書状と俺とを交互に見られた。で、付いてくるように言われ、連れてかれたのがギルド。
ギルドの偉い人っぽい人と連れてきた役人の人がヒソヒソ話す。
「ソードから手紙を預かってるか?」
「あ、はい」
たぶん、コレ、っていうのを渡した。
「ふーん……。インドラの坊主……じゃなかった、嬢ちゃんと同郷なのか」
え? 聞き間違えたかな? お嬢ちゃんって聞こえたような? ま、いっか。
「あ、はい。インドラ様と……うーん、魂の故郷が一緒というか、なんというか」
どこまで話していいのかわからない、というよりか、言って信じてもらえるかがわからない。濁したけど、うなずかれた。
「わかった、とりあえずソードの屋敷に案内する。メイドたちにも書状があるのか?」
「あ、それはインドラ様が」
書いたのがあるはず。
次に連れてかれたのは、大豪邸。王宮はもちろん宮殿だったけど、この屋敷も、貴族レベルじゃない? あ、インドラ様って貴族だったっけ。すげーな、ホントチート野郎だわ。
ギルドの偉い人が、中から出てきた女性とヒソヒソ話してるのを見ながらそんなこと考えた。
渡した書面を読んだ女性がこちらを見ると、
「まず最初に、インドラ様が渡された武器をご返却ください」
って言われた。慌てて渡す。
「爆弾は、結構使っちゃって……」
盗賊には効果抜群だったから、すごいいっぱい投げちゃった。
「構いません。残りをご返却下さい」
渡された物全部メイドさんに渡したら、応急キットは戻された。
「こちらは、武器ではございませんのでどうぞお持ち下さい」
え、いいの?
「それでは、ご案内致します」
まごついてる間に案内された。
――案内されてまず思ったこと。すっげー、広い。王宮は実際広かったのかもしれないけど、隔離されてたからあんまり知らないんだよね。
「ひとまず全部案内してから、個人のお部屋にご案内致します」
って言われて、端から端まで歩かされた。ついでに説明を受けたけど、全部覚えるの無理! って思ったら、顔に出たみたい。
「最初は不慣れでしょうから、歩いている者、もしくは蜘蛛型ゴーレムを捕まえて尋ねて下さい」
あ、ゴーレムもオッケーなのね。じゃあ、リョークに尋ねようっと!
初日は、部屋に案内されて早々寝た。ベッドパッドがウレタンぽいヤツで、王宮だってこんなのなかった! つーか前いた世界の俺のベッド、パイプベッドに布団敷いたヤツだけど! ここの方がいいヤツ使ってるってどういうこと⁉ って思いながらぐっすり寝た。
翌日、慌てて起き出すと、すぐメイドさんが現れた。
「すみません、昨日は疲れてて……」
「構いませんよ。長旅でお疲れでしょうし、数日はゆっくりなさってください。インドラ様からもそのように仰せつかっております」
さすがインドラ様! ……って思ってゆっくりするつもりだったんだけど、ロブさんが、もう働いてる。
やっぱり騎士の人は違うんだね。俺ってば肉体的には強くなったみたいだけど、やっぱり疲れって精神的なものもあると思うんだ。
「ロブさん、さすが騎士団の人だよね。もう働くんだ?」
「はい。私は、ここの酒造りのメンバーに入れていただきました!」
ロブさんに話しかけたらイキイキと! 目を輝かせてイキイキと言われた!
「……え、英雄さ……ソードさんって、酒造ってるんだ?」
「作られたのはインドラ様です」
でたーーーー!
チーーーート!
そしてロブさんも『様』付けた!
「素晴らしい……! こんな素晴らしい酒を造られたインドラ様は、さすが英雄【迅雷白牙】様のパートナー! 素晴らしき英知の持ち主!」
ロブさんの目がイッちゃってる気がするのは気のせいじゃないかも。……なんか、友達が手の届かない遠くに行っちゃった気分。
「そういえば、アマトさんはインドラ様と同じ英知の持ち主と伺いましたが」
とか、酒造りの責任者みたいな人に訊かれて飛び上がった。
「いや、いやいや! あの人はすげー人ですって! 俺は、確かに話はわかる部分はあるけど、あんなに知ってないし!」
期待されたら困るって!
「そうですか……。インドラ様より、酒に対するアドバイスをもらえばどうだと、自分の知らない知識を知っているかもしれないと書状に書いてありまして……」
うわーーーー! 無理だから! あの人、自分がどれだけ凄いかわかってねーーーー!
「いや、いやいや、ホントに! 俺、酒造れないし! そもそもお酒そんなに飲まないし!」
頑なに言ったけど、俺って押しに弱いのは、王宮の一件でも分かってもらえると思う。
結局、味見してアドバイスすることになった……。
「ビール……じゃなくて、これってエールって言うんだっけ?」
どう違うんだったっけか? って内心首を捻りながら飲んだ。
そして飲んで分かった。
「あ、コレ、ビールじゃない。俺、発泡酒派だったけど……うわ、結構、味濃いな。うーん、なるほどね、コレ、インドラ様って何て言ってる?」
「材料が足りなくて、たぶん今言ったものが作れない、と」
へー。そうなんだ。
「えーと、インドラ様に、発泡酒もしくは第三のビールは造れないの? って、聞いてください」
「わかりました!」
急にバタバタ動き出す酒造り職人たち。
「これはどうでしょう?」
「これ、ワインか……。ちょっとだけだよ、俺、お酒強くないし」
飲んで、わかった。
「あ、なるほど」
「な、何か?」
「俺、安いワインしか飲んだことないからわからないけど、確か、ワインって、葡萄の品種で味が変わってくる、つーか葡萄で味が決まるとか聞いたことがある。それがコレなんだなー、って思った」
「……つまり」
「うん、コレ、もうちょいワインに合う葡萄の品種を探した方がいいかも」
香りが薄いし、味もなんか深みがない。総じて薄い。美味しいことは美味しいけど、ワイン? って感じの……。葡萄のお酒、って感じが近いかな。
とか思って職人さんたちの顔を見たら、すっごいショック受けたぽい顔してて慌てた。
「あ、美味しいことは美味しいよ! 葡萄のお酒! って感じ! でも、俺が飲んだことがあるのとは違うって思ったから」
「……インドラ様も、そう仰いました」
だろうね。頑張れ、酒職人。
ウイスキーとブランデーの味見もさせられたけど、これはよくわからない。飲んだことないし、あ、ハイボールならあるか。
って言ったらハイボールが出てきた! もう、そこまでして飲ませたいか!
「うーん、これは、大体こんな感じじゃないのかな? 俺、ホント、酒はあんまり飲んだことないから。高級なウイスキーとか、麦茶の味がするとか言うけどさー、そんなん飲んだことないし」
「麦茶の味ですね! わかりました!」
……何がわかったんだろう?
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