第77話 Bランク冒険者がやってきたよ
ベン君を訪ねて冒険者がやってきた。
ようやく旅立つようだ。
ベン君、屋敷にすっかり居着いて自室もちゃっかり確保し、ミルクや卵や加工品を、露店を開いて売って小金を稼いだり、もう住人のようになってたのだが、そういえば、旅商人だったんだなと思い出した。
「オィーッス。インドラ様、紹介します。俺が冒険者だったときのパーティ【明け方の薄月】ッス!」
…………薄倖そう。
限りなく存在感が薄いってことですかね?
なんとなくうなずける、印象の薄い小柄な四人組だ。
「あっ、インドラ様、失礼なこと考えてるっしょ! こう見えて、Bランク冒険者なんスからね!」
ちょっと驚いて目を瞠った。
Aランク冒険者は現在ほぼいないらしい。
ソードと【剛力無双】さんがそうだったらしいが、二人ともSランクになってしまい、一組パーティがいたが先のドラゴン来襲以来、消息不明になってしまったそうだ。
実質、普通の冒険者の最高ランクはB。
男女二組のパーティだ。
女性はどちらもロッドを持ってるが、さらに弓も背負ってる。
男は、短槍と短刀、棍棒と弓を持ってる。
「護衛が主なんで、遠距離攻撃メインのパーティなんです」
視線に気付いた女性が言った。
「【明け方の薄月】のリーダーを務めてる、シャインです。【迅雷白牙】のパートナーの方に会えて、光栄です」
って手を差し出された。
「ソードのパートナーの、インドラだ。【オールラウンダーズ】という名をつけた。今後、ベン君に委託して酒を販売してもらう予定だ。護衛、宜しく頼む」
手を握ると、さすが弓使い、結構な握力だった。たぶん。
私自身は圧がかかってる…かな? という感覚しか無いのだが。
「……おーい。何やってんだよ?」
って、ソードが現れた。
「ん? 見ての通り、挨拶を交わしている」
答えた途端にパッと手を離された。
「ん? どうかしたか?」
「い、いえ、どうもしませんよ?」
慌てたようにニッコリ笑うので、ニッコリ返した。
「なかなかの握力だな。弓使いなら当然か。鍛錬している証拠だな」
さすがにBランクともなると、鍛え方が違うのだろう。
パーティメンバーがリーダーと私を見比べると、ニヤリと笑った。
「俺も挨拶良いっすか?」
あ、ここにもチャラ男が。
「メンバーのトランっす!」
握手。
……。
…………。
…………。
「そろそろ手を離してくれないか?」
ガクリ、としたように手を離される。
なんだろ?
私が美少女だから、握手会? みたいな?
一曲歌って踊らねばならないだろうか。
全員に握手を求められた。
モテてるのか?
モテ期か?
ソードを振り返って見たら、目を細めてて、かつ呆れ顔だ。
「私は、ひょっとして、モテてるか? 美少女だから握手を求められたのか?」
途端にベン君が噴いた。
ブハ!
ブハ! って!
「いや~、さすがインドラ様ッス! ホント、そのマイペースな冷静沈着さに頭が下がるッス!」
「なら下げろ」
頭をつかんで下げさせた。
「イテテ、ギブ、ギブッス!」
手を離すと、ソードがナデナデしてきた。
「うん、お前って結構自惚れ強いよなー。モテてないからなー。あと、確かに、顔立ちは悪くないが、〝美少女〟だとは誰にも思われてないぞー?」
なんだとぅ⁉
「そんなことはないっ! メイド嬢や使用人からいつも言われてるっ!」
「あぁ、アイツらな…………。アレは別枠。お前が何しても盲目的に崇拝してるから。お前を女って思ってるってだけでもうおかしい」
ヒドイ‼
ソードが冒険者たちを見ると
「で? 握力自慢のお前等、俺のパートナーと握力比べしてどう思った? つーかよ、俺の相棒、お前等の手を握り潰さないように極力優しーくニギニギしてあげてたんだけどよ? モテてる、って勘違いしながらな」
「言葉がとげとげしいぞ! 私くらいの美少女だとな、〝握手会〟なるものが開催されてもおかしくないのだ! 皆が私と握手したいと群がっても何ら不思議じゃないんだぞ!」
ギャーギャー言って怒るが、ソード聞いてない。
「お前等良かったなー。俺の相棒が残念なやつで。なんか突っかかられても全部「モテてる」って勘違いする痛いやつでよ。じゃねーと、特級回復薬飲む羽目になってたぜ?」
残念てなんだ、残念って!
私は残念美少女じゃない!
「まぁまぁ、コイツらのお決まりの挨拶ッスから、そう怒らないでくださいって」
ベン君が間に入った。
「握手会が挨拶なのか。いや、握手は普通だぞ? 私は確かに潔癖症だが、相手の手が不潔だからといって、手袋をして握手するほど失礼じゃ無い」
「うん、今の発言が失礼極まりないけどな」
冒険者たち、一斉に自分の手を見つめた。
ソードがはぁ、とため息をついた。
その後、冒険者たちが謝ってきた。
小柄で非力そうとバカにしてきたやつに毎回〝挨拶〟と称して握力比べを挑んでるのだと。
「いや、バカにしてはいないぞ? パーティ名の如く、存在感の薄い薄倖そうな連中だな、と思っただけだ」
「うーわ、もっとひどいこと思われてた」
全員がガッカリする。
「いいじゃねーか、コイツ、あんまりなパーティ名の連中の目の前で「痛々しい」とか抜かすやつだからな。その程度ならまだ評価されてる方だぜ?」
「ソードの二つ名は、脳が言語理解を拒否したレベルだな。痛々しすぎて涙が出そうになった」
途端にアイアンクローされた。
「このまま圧かけて忘れさせてやる」
「大丈夫だ! もう忘れた!」
ヒリヒリするー。
つかまれたところをなでてたら、呆気にとられてた。
「確かに【オールラウンダーズ】っていいパーティ名ッスね。二人とも名前の通りだし」
とベン君が言ってくれた。
「え……この子も?」
とはリーダー。
「インドラ様はすごいッス! 魔術も使えて魔導具も作れるッスよ! 剣の鍛錬も見たことあるけどすっごいカッチョイイッス!」
かっちょいいってなんだ。
強くなさそう。
「この腰に差してる剣で、大岩切れるやつだからよ」
ソードが【木刀】を指さして言った。
冒険者さんたち、絶句。
「いつの間にやら斬れるようになってたな。恐らくこれで斬れないものは[こんにゃく]だけだろう」
「「は?」」
「……いいんだ、聞き流してくれ」
こんにゃく、この世界にないしね。
「その! インドラ様が作って俺に貸してくれた! 輸送ゴーレムをお披露目するッス‼」
ベン君、テンション高い。
自慢したいのね、そうなのね。
皆で厩舎……だったんだろうね、今はゴーレムが置いてある駐ゴーレム場に行った。
「「ギャーーー‼」」
言われた。
「ま、ま、魔物じゃねーか!」
違うよ?
「そうなんスよねぇ、インドラ様って天才だしカッチョイイもの作ろうと思えば作れるのに、なーんか虫に拘るんスよねぇ。
でも、性能はすごいッスよ!」
ベン君がピッ!と赤外線センサーを押すとウィーン、とフロントガラスが降りた。
「えっ? い、今の何?」
「すごいっしょ? 自動で動くんスよ? ホラ、乗った乗った!」
ベン君が手招きする。
「滅茶苦茶魔虫の口から食われる感満載なんだけど……」
ヒドイ。
でも、中を見てびっくりしたらしい。
「うわ! 中、古代都市みたいに凄くない⁉」
「え、ベン、お前、コレ、扱えるのか⁉」
「うーん、半分くらい? 基本弄らなくていいんで。あ、でも、ソードさんがいろいろ弄って遊んだんで、それは覚えたッスよ?」
ジロン、とソードをにらんだら、サッと顔をそらした。
「うっわー! 見た目に反して乗り心地サイコーじゃん!」
「ナニコレ、椅子がフワフワしてるよ?」
「やだ、寝そう……」
ベン君、得意げに
「毎日運転の訓練してたから、もうバッチリッスよー? んじゃ、ちょっくら辺りを走ってくるんで!」
って、行ってしまった。
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