第75話 レセプション・プレオープンだよ

 中に入ると、今日の招待客が息を飲み、姿勢を正した。

 今日はレセプション・プレオープン。

 初日はオーナーの私とソードが挨拶を行う。

 まぁ、挨拶は私だけがするのだが。

 ソードは絶対嫌だと拒否した。

「皆様、本日はお忙しい中お招きに応じて来店してくださり、感謝を申し上げます。私は、この『傲慢レストラン』のオーナーである、インドラと申します。以後、お見知りおきをお願い致します」

 定型の挨拶の後、店のコンセプト、オーダー方法、次回の予約方法、同伴の条件、知人を紹介したい場合、等々の注意点を述べた。

「食べ残しの持ち帰りは応じておりますので気軽にお声がけください。ただし、日持ちは一切致しませんので、当日中にお召し上がり下さい。ドリンク……恐らくお酒を嗜まれる方は、本日お出しする酒のご購入に意欲的になると推測いたします。

 ですが、販売は現在のところ、行っておりません」

 ザワッとした。

 ショック受けてる顔の人もいるし。

 あれ?

 なんか買う気になってたのか?

「理由は、少量を個人的に作っておりますので、需要に対して供給が追いつかなくなるからでございます。現在、レストランに提供する分、ソードが懇意にしている商人にオークションに掛けてもらう分、以上のみの販売になるでしょう。また、保管の難しい商品となりますので、個人への販売は見送らせていただきます。代わりに、最初の一杯は無料とさせていただきます。ドリンクメニューにある、どれでも無料です。二杯目以降はメニューにある金額を一杯ごとにいただくことになります」

 おぉー!

 と歓声が上がった。

 ソードがチラ、と私を見たが、いいんだ、売ってくれってしつこくされるくらいなら、最初の一杯無料キャンペーンやった方がいいんだ。

「……さて、見ての通り、私は元貴族でしたが、今は平民で冒険者をしております。ですので、貴族のマナーは知っておりますが、それをうるさく言うつもりはありません。ここは、平民のための、贅沢したいときに訪れる場所として開店するつもりです」

 言葉を一旦止めて見渡し、肩をすくめる。

「…………だから、そう萎縮するな。『周りに迷惑をかけなければ』、という前提はつくが、思い思いに料理を酒を味わえ。……あぁ、あと、いくら金があるからと言って深酒するなよ。暴れたり醜態を晒したらたたき出して次からは飲ませんからな。じゃあ、楽しんでいってくれ」

 どっと笑いが起きた。

 ソードも苦笑。


 エスコートされて、一旦控え室に。

「さて。様子を見つつ、ヘルプが必要になったら手助けするか」

「ハイハイ。……っつっても俺、荷物運びくらいしか出来ねーぞ?」

「充分だろ。なんならギルドマスターの相手をしてやればどうだ?」

 招待状を出したので来てくれたが、萎縮してしまってる。

「ま、そうさな。場違いなトコに来た、って思ってる連中に声かけてくるわ」

 フロアに向かっていった。


 様子を見てると、まず、最初の一杯が決まらない。

 ――なみなみと注がれると思ってる輩がいそうなので、見本をトレーに載せて回らせている。

 それを見ながらウンウン悩んでいる。

 普通のドリンクは氷と共にコップになみなみつぐ。

 シードル、エールは氷なしで七分目。

 ワインは小さめの装飾グラスに七分目、ブランデー、ウイスキーは氷をいれるがワンショットで見た目半分くらい。

 ブランデー、ウイスキーは炭酸割りも対応。ハイボールね。

 これらのドリンク対応〝だけ〟のために、バイトを雇いました。徹底的にしごきました。

 正直、万引きするやつが出るかもとか思ったけど一人もいなかった。

 それどころか怖くて持つ手が震えた(高額商品だから)ってさ。

 盗んで売ったらここで働く給料の何十倍ももらえるのに、そういう気持ちは起きなかったの? と失礼なことを訊いたら、すっごい勢いで首を横に振られた。

「絶対! バレる。出処、ここしかないし、すぐ捕まる」

「Sランク冒険者のものを盗んで売るなんて度胸はない」

「そんなことしたら命がいくつあっても足りない」

 とか……。

 あ、ソードが言ってたのってこのことか、「Sランク冒険者の家に忍び込むやつはいない」って。

 実際何度もあったそうで、全く見通しが甘いやつだな、Sランク冒険者って肩書きに胡座をかきすぎなんだよ! って思ったけど、普通は盗んで売ったりしないっぽいね。


 ようやくドリンクが決まったらしく、あちこちで乾杯が起きてる。

 萎縮してたギルドマスターも、ソードがなんだかんだ話し掛けてようやく緊張が解けたようで、ソードと乾杯してる。

 ギルドマスターはハイボールにしたんだな、ソードはエールだ。

 珍しいな、ソードがエールなんて……あ、わかった、やつだけ飲み放題だからだ。

 飲み放題じゃなくても飲むだろうけど、ダメだよ? 空気読んでね?

 給仕に、ソードにおかわり頼まれても出すなと伝える。

 空気読め、周りがおかわりしたら飲ませてやると言って断れと伝えたら、早速伝えに行き、がく然とした顔のソードに、バカ笑いしてるギルドマスターが見えて。

 すぐにソードが憤然と私の所に来た。

「オーナーなんだからいいだろ!」

「ならばより一層空気を読め。周りは飲み放題じゃないんだぞ? お前だけパカパカ飲んでたら、非常に視線の痛いことになるぞ?」

 うっ、と詰まった後、しばし黙り、またフロアに行った。

 さっき挨拶した壇上に上がると雑に挨拶し始めた。

「オーナーのソードだ。本日は、来店感謝する。今日は俺の奢りだ。飲み放題……はインドラが激怒して俺をたたき出すから止めといて、三杯!三杯まで無料だ!」

 ワーッと歓声が上がった。

 苦手な挨拶までして飲みたかったらしいよ?


          *


 コースメニューは、


   ・アミューズにグジェール

   ・オードブルが三層のテリーヌ、魔物肉の冷製発酵柑橘ソースがけ、前菜盛り合わせの中から一品

   ・スープは芋と発酵林檎のポタージュ

   ・メインが魔物肉のソテー、ワイン煮込みの中から一品

   ・デザートに発酵ベリーソースがけチーズケーキ


 最後は柑橘を軽く搾った冷水か普通に白湯か選べる。これも一杯だけ無料。

 紅茶は有料となる。豆茶も開発し、これも有料。


 料理長と私が決めた渾身のメニューだ。

 ミルクが使い放題になったので、ふんだんに料理に取り入れた。

 グジェールなんか、大量に作っちゃったもんね。


 ん? 卵?


 この世界の卵ってどうなってるの? って?

 フフフ。

 それも捕まえてきた!

 いや、スカウトしてきた!

 コカトリス!

 しかも、ユニーク種!


 ――小型だったの。

 しかも、目が覚めるようなブルーなの!

 ボク、小さくて仲間からも除け者にされてて、力も弱いから、隠れて棲んでるんだ、ってプルプル震えながら言うので、じゃあ、卵をくれるんだったら安全な住み処を用意するよ? って言い、スカウト完了。

 お友達ももちろん誘ってくれた。

 赤と黄色で、いろいろ思うところはあったけど、全部飲み込んだ。

 チャージカウに事情を話して一緒に暮らしてもらってる。

 毒腺が蹴爪と蛇部分の牙にあるけど、意識的に出さない限りは出ないよー、と言うので、念のために毒消しの魔導具を用意して、そこにいつでも飲める毒消し薬を用意した。

 でも、必要ないくらい仲良く暮らしてるし、卵もガツガツ産んでくれる。


 いやー、助かった。

 今まで卵拾いに精を出してたんだけど(巣らしきところに産み捨ててある、ちなみに本体はついぞ見かけたことがない)、これで安定して供給出来るわー。

 餌はエコなことに、酒を造った残り滓が非常に好みらしい。

 これはチャージカウも好きで、みんなでガッツガツ食べてる。

 あとは、麦芽とか、マメ科の植物をついばんだり、蛇部分はたまに現れる小魔物を食べるらしい。

 のどかだねぇ。色はなかなかに信号機だけど。……あっ、飲み込んだもの吐き出しちゃったよ。


 その、カラフルコカトリスが産んだ卵、殻はカラフルだけど中身は普通だった。

 毎日がイースターみたいなカラフル卵、今まで収穫してた卵よりうまい!

 味が濃いのだ。

 ちなみに、チャージカウのミルクも、スタンドで飲んだのより美味かった。

 さすがユニーク種!


 ――ボーッとコカトリスのことを考えてたら、デザートまで行き着いていた。

 お持ち帰りは三分の一くらい出た。

 ギルドマスターもお持ち帰り。

 特にデザートは全部持ち帰りでと頼んでた。

 女房子供にも分けてあげるんだそうだ。

 やっさしーい!

 たぶんにそんな人たちがお持ち帰りを選択したぽいね。

 酒飲みは「酔いが覚めるから」という理由で食後のドリンクを断ってたよ。

 酒飲みってすごい。

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