第67話 商人が現れた!
レストランは良いとして、酒の販売が問題だ。
ソード曰く、「恐らく金貨が舞い飛ぶ金額」になるはずらしい。
貴族が飲んでいる酒の品質よりも頭二つ分くらい飛び出ている、と。
貴族の飲んでる酒を基準にするなら、
「卸価格で、最低でも金貨一枚、寝かせてるやつなら五枚以上だろうな。蒸留酒に関してはお前にしか作れない、どんなに安くても金貨十枚」
ってソードが言って、作り手全員が震え上がった。
「そ、そ、そんなものを気軽に飲んで……」
「いや、作り手は別にいいだろ。原価と手間は俺たちがかけてるんだ。技術も情報も、インドラが提示したんだろうが、研さんしたのはお前たちだろ? 俺は資金提供。だから、いいの! 無料でガンガン飲むの!」
飲みたいからって理屈捏ねてきた。
私もヒラヒラ手を振った。
「これは、ソードが、価値を換算したら、って話だ。希少価値があるものを作ったからといって、別に売る必要も無いし、自分たちで消費したって構わない。別に稀少な材料を使ってるわけではないからな。気にするな、自分たちが飲みきれない分を高値で売りつけてやる、くらいに考えておけ」
いかにも道楽的考えだな、と自分でも思いつつ言った。
酒はようやく三分の一スペースを埋めた。
安い酒も造った。
シードル、エールだ。
ドブロク作りたいんだけどなぁ、麹菌があればなぁ……研究しないとダメだろう。
そもそも米無いし。
でも、ミルクがあるんだから、米もあるかもな?
――そんなことを考えていたある日、客が来た。
ソードにらしいが、私も呼ばれた。
「ちーッス。お久ッス!」
チャラ男がいるんだけど。
ソードを見たら
「よ、久しぶり。呼びつけて悪いな」
旧知の仲らしい。
「コッチ、俺のパートナーのインドラな。コイツがとんでもねーもの作ってよ、売りに出したいんだけど、俺、お前くらいしか商人知らねーからさ。お前、売ってくんない?」
すごいざっくりした説明だな!
「えー、そうなんスか。良いッスよ」
終わり。
「…………話し合いは終わったようだから、私は席を外すな」
踵を返したらソードが捕まえた。
「まーて、待て待て。こっからが必要なんだって」
彼はベンジャミンと言うそうだ。
「ベンって呼んで下さいッス。じゃ、売り物見してもらっていいスか?」
え、商人ってこんなチャラくていいの?
「……これだ」
品物を出したら、チャラ男改めベン君が固まった。
「えっ? え、これって、酒?」
「そう、俺がこの世で最もうまいと思ってる、酒」
ソードがうなずいた。
ベン君が、私と酒を見比べた。
「……まぁ、まず味見してもらおう。価格はソードが大体決めてる。商品ならそこからさらに利益を乗せなくてはいけないだろう? さらにだな、この酒は非常に管理が難しい。気温が温かくなってきたら売ってはいけない酒もある。ある程度はこちらでも準備するが、その辺も踏まえて売るか売らないかも決めてくれ」
メイド嬢がすぐに試飲の用意をしてくれた。
なんか、さすが。
ソードも感心してる。
「やっぱ、貴族のところの使用人って、違うよな」
「あ、やっぱ貴族サマの対応ッスよね。俺、屋敷入ってからキンチョーしちゃって……。なんでソードさんお貴族サマの屋敷に住んでんスか?」
「貴族の屋敷じゃねーよ。元貴族と元貴族の使用人たちの家主になったんだよ」
「ははーぁ。やっぱSランク冒険者は違うッスよねー」
って、チャラいしゃべりで全く緊張も感心もしてる感じはしない。
「いただきまーす。……って、ウマ! なんスかコレ⁉」
「だろう? コレを売りたいんだ。……だけど、コイツ曰く、酒は生き物で、品質管理がかなり重要なんだ。委託販売にしたって、保管できる場所がないとあっと言う間に駄目になる。まぁ、そこはインドラが魔導具貸し出すっつってるけど、問題はコレだ」
指でお金のマークを示した。
「お前、コレにいくらつける? 輸送その他諸々を考慮しないとしてだ」
チャラ男ベン君、腕を組んだ。
「金貨は下らないッスね。オークションにかけてみます? 反応見てから売った方がいいッスよ」
今度は私が腕を組んだ。
「あまり公にしたくない。生産量が限られてるんだ」
「あ、じゃあ、尚更オークションの方がいいッスよ。少量しかないんじゃ注文殺到しても困るし、ならオークションで売り切っちゃった方が楽ッス! それに、じゃないと預かって、売り切り、とかでしょ? 保管が難しいとかだと、ここで保管してもらって輸送した方が楽なんで」
「じゃあそれで」
何しろ、適当に売れればいい。
原材料施設諸々合わせても金貨一枚はしていない。
ほぼもうけだな。
じゃあ、輸送手段を豪勢にするか。
「輸送は考えてる。馬車ほど簡単ではないが、教えるから乗れるようになってくれ」
「え? ロックリザードとかッスか?」
岩蜥蜴?
こないだ倒したやつ、馬の代わりになるの?
「いや違う。簡単に言うと、魔導具だ。ゴーレム……なのか?」
「えぇ! 俺、魔術使えないッスよ⁈」
…………?
「魔術は使えなくても魔導具は使えるだろう? ……でもないのか?」
意識したこと無かった。
そして、うちに住んでる住人は全員使える。
「フツーは、自前のマナで動かすんだよ。お前が作ってるのみたく魔素で動かすなんざ見たことねーっつの」
そうなのか……。
「うーん、魔石は必要になるのだがな。魔石を燃料に変えてるんだ。質はともかく量がいる」
「あ、それなら大丈夫ッス」
そうなのか、良かった。
「じゃあ、作るか」
ソードがすっごい嫌そうな顔してる。
そんな顔しなくても、普通の輸送車作るよ!
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