拠点改革編

第64話 イースよ! 私は帰って来た!!

 ソードがやたらめったらなでてきて、途中でぎゅーしてきた。

「おい、どうした? 様子が変だぞ?」

「変なのはお前だよ。……言っても無駄だから言わないけどな。お前、さっきまで一緒にいた小僧のこと、許さないんだよな?」

 …………何の話だ?

「私は何を許さないんだよ?」

「だから……。……最後まで謝らなかっただろう? 今そこで、謝ってたんだぞ?」

 首をかしげた。

「それが許す許さないの話なのか? それは違うだろ、お前の話とは違う。私は、『やつの甘ったれた性格が嫌いで、甘やかしてる親も嫌い』だから、二度と見たくないと思ってるんだ。昔を思い出して嫌な気分になる。それだけだ。別に、許す許さないの問題じゃないぞ?」

 ソード、絶句した。

「お前の場合は、お前が私のことを何も考えずに連れてきて突き放したと勘違いした。そうではなく、私のことを考えていろいろ手はずを整えていた、そう聞いたから信用出来る人間だと思い直したんだ。あの甘ったれ小僧は、甘やかされてるから『嫌い』なんだよ。謝ろうがどうしようが知ったことか。あの親子を見てると、あの男とその娘を思い出して胸くそ悪くなるってだけだ」

「わかった」

 ナデナデナデナデ。

「……別に、お前が気に病むことじゃないだろう。というかな、本ッ当に、遮音魔術を覚えてくれ。いちいちそんな気にされても困るんだ。私はまったく気にしてない」

「お前が気にしない分、俺が気にするの!」

 何よソレやめてほしいんですけど。

 一言で言えば。

「ウザい」

「あっ! コイツ、俺の厚意をむげにしやがったな!」

 グリグリされた。

「いたいいたいいたい」

 理不尽だ!


          *


 最短距離を猛スピードで拠点に戻り、ソードに牧場を買ってもらう。

 正確には、屋敷の敷地を広げた。

 居残りのリョークに抱きついて再会を喜び、屋敷の住人にチャージカウたちを紹介し、世話を頼んだ。

 さすがにこれは給料を出さなくてはならない。

 と、いうことで。

「酒造を本格化する! 麦蜜も商品化する! レストランも開業する! よって、〝会社〟を設立する!」

 シーン。

 ソード、挙手。

「なんだね? ソード君」

「マスターインドラ、〝会社〟がわかりませーん」

 うーん、こっちだと適切な言葉がないんだよなぁ。

「……近いのは、商会なんだが、アレは、仕入れて売るだろう? そうじゃなく、販売元だ」

「商店か?」

「レストランはともかく、直接販売はしない方向だ。委託販売だな。信用出来る商会を見つけるところからスタートだが、心当たりあるか?」

 ソードが唸った。

「なくもねーけどな……。ただ、解るだろうけどよ、かなりの高額商品になる。輸送は下手すりゃそれこそSランク冒険者の出番だぜ?」

「ちょうどいい、じゃあ、輸送車を作ろう」

「……ちょっと、今度は何の魔虫作る気?」

 魔虫ってなんだ、魔虫って。

「いや、今度は夢も希望もない輸送車にする。じゃあ、輸送車を作ればいいんだな?」

「ちょっと考えさせて?」

 何をだ。

 料理長、挙手。

「レストラン開業は願ってもない話です。ですが、平民相手にでしょうか?」

「金がないやつをターゲットにしてもしかたないだろう。果たして貴族が金を持っているか、という話もあるが。まずは、金を持っている富豪をターゲットにしよう。あの男からせしめたポケットマネーはお前等の給料を出してもまだまだある、絢爛なレストランを作ってやろうではないか」

 基本、会員制にすればいい。

 貴族はいろいろうるさいので、金を持っていたとしても相手にしたくない。

 それよりも、貴族気分を味わいたい富豪を相手にした方がウケるだろう。

「洗剤は? アレもウケると思うぜ?」

 ソードに言われたが首を振った。

「洗剤の元になる薬品の製造が至難の業だ。恐らく今の技術では私にしか作れないだろう。蒸留酒は、もしも素晴らしい腕の技師と出会ったとき、手を組んで魔導具を作ってみたいと思う」

「そっか。技師、ねぇ……」

 ソードが考え込んだ。

「とりあえずそれは置いておく。今のところは私が作るだけでも間に合うはずだ。ソード、悪いな、冒険が延期になった」

 ソードが笑った。

「ま、これもまた冒険みたいなモンだ。酒造りは正直俺も楽しいからいいよ。じゃ、頑張っていこうぜ」

「「はい!!」」

 全員、元気よく返事した。

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