第59話 アレをスカウトしたよ

 山に登り、チャージカウを捜す。

 ――見つからない。

 うん、知ってた。

 私、魔物から恐れられる女。

「……ソード~。私、もしかしてチャージカウに嫌われてるかもしれない」

「あー……。あの『魔物には強者が解る』ってヤツかよ。参った、いきなり頓挫したな。……仕方ないからお前、下山しろ。俺が適当に捕獲しておくから」

 やだやだやだ!

 自分の手で捕まえたいんだい!

「うぅ~……」

 涙目で唸ったら、ソードがヨシヨシとなでた。

「しょーがねーだろ。……つーか、ホントに魔物にエンカウントしねーんだよな、すげーわ」

 何?

 私、もしかして魔物が嫌う匂いでも発しているのか⁈


 ソードに宥められて下山しようかなと下りかけたとき。

「うわーーー! わーーー!」

 叫び声が木霊した。

「……オイオイ、危険だからこの時間には下山しとけ、っつっただろうが。まだ人が残ってたのかよ?」

「と、いうか、待ち伏せてたんじゃないのか? 今の声は、少年のようだぞ」

 子供の声だ。

 少女ほど甲高くないので少年と思われる。

 駆けつけると、サジー少年が魔物に襲われていた。

 運良く躓いたかで転び、魔物の突撃を回避していた。

 が、倒せるほどの技倆はなさそうだ。

 …………ん?

 この魔物……もしや。

「牛には見えないが……チャージカウか?」

 色は黒だし、立派な角あるし、どちらかというと鹿のような雰囲気だが。

 顔は若干牛よりかな?

「おい! お前はチャージカウか?」

 話し掛けると、魔物がこちらを向いた。

 おぉ! 賢そうだ!

「おぉ、ヨシヨシ。……今、ご飯をやるぞ? 私が作った特別製だ!」

 話が通じそうなので、餌を出してみる。

 少年が呆気にとられている。

「お、捕獲できそうか?」

「待て、この魔物は話が通じそうだ。ご飯を食べさせてみて、気に入ったなら説得してみよう」

「……話、うん、話ね。存分に話せよ、気が済んだら捕獲するぞ」

 ソードが物騒なこと言ってるし。

 少年が突然覚醒した。

「こ、コイツ! 俺を殺そうとしたんだぞ!」

「うるさい、だからどうした」

 大きな声を出したらチャージカウがびっくりするだろうが。

「お前が弱いくせに驚かすのが悪い。殺されたくなかったら大人しくしてろ。……ヨシヨシ、私が守ってやるぞー?」

 少年がまた呆気にとられた。

 チャージカウ、餌が気に入った様子で「ブモー(おいしー)!」と叫ぶとガツガツ食べる。

 そしてミルクを放出したので慌てて器を取り出して汲む。

 食べているところをなでた。

「よーし、うまいかー? ……ソード、気に入ってくれたようだぞ! 食べ終わったらスカウトしてみよう!」

「あーはいはい。お好きにどーぞー」

 なんで投げやり?

 私がチャージカウと戯れてる間に、少年が復活したらしく、見る間に真っ赤になって怒鳴ってきた。

「お、俺が弱いだと⁉ いいぞ、そのチャージカウを倒して俺が強いことを証明……」

「おい、テメ、なんでここにいんだよ?」

 冷たい声でソードが遮り、少年がビクッとしてソードを見た。

「俺は、ギルドに通達してもらったぞ? 『俺達がチャージカウを捕獲してる間、万が一の危険に備えて下山してくれ』とな。インドラが、金もうけの種になり得るであろうミルクの新しい調理法を無料で教え、ギルマス連中に金貨が飛び交うような高い酒を贈って根回しした結果が、コレか? ……別に俺たちが出した警告を無視するのはテメェの勝手だ。けどな、こっちだってテメーを殺したとしても文句は言わせねーよ。お前は、俺たちの、邪魔を、したんだ」

 少年、泣き出した。

 私はそっちのけでチャージカウと戯れる。

「……なぁ、お前、私と一緒に来てくれないか? 私の用意した牧場で、暮らしてくれないか? 山が気に入ってるのはわか……来てくれるか⁈ そうか! 来てくれるのか!」

「ブモー!」

「そうかー!」

 むぎゅーっとチャージカウを抱きしめた。

「…………って、シリアスに説教してる横でイカレた天才がバカやってるんだけどよ。おーい、アタマ大丈夫かー?」

 無視だ、無視!

「なぁ、もう少し来てほしいんだが、心当たりないか? お前も一人だとさみしいだろう? 私も拠点にはずっといないんだ。仲間と一緒に来てくれ」

「ブモー!」

 返事をすると、ノシノシ歩き出した。

「オイ、逃げられたぞ?」

「そんなわけないだろう、事情を説明にいって、仲間を説得してきてくれる手はずだ」

「なんの手はずだよ。あの牛、ぶもー! としか鳴いてねーじゃねーか」

 失礼な!

 ちゃんと意思疎通出来てたじゃないか!

「とりあえず、ミルクを真空パックだな。これで日持ちがする」

 真空にして蓋をする。


 待つこと一時間。

 ソードが

「いい加減諦めて、その小僧連れて下山しろよ。俺が捕まえといてやるから」

 って言ってるのを耳を塞いで聞こえないフリをしていたら。

 ガサガサ音がして、あのチャージカウが!

 仲間を連れて戻ってきた!

 ソードと少年、唖然。

「おぉ! 戻ってきたか! 来てくれるのか!」

「ブモー」

「モォォォー」

「ボォォォー」

 二頭仲間を連れてきた。

「ヨシヨシ、これからよろしくな。もう少し食べてくか?」

「「「ブボモォォォ!」」」

「そうかそうか、出してやるな?」

 イソイソと取り出して与えると、またミルクを放出するので慌てて容器に汲み取る。

「…………うわー。俺の常識がたった今崩れ去った気がする。俺ってまだまだ経験が足りなかったって気分」

 ソードを見てニヤリ。

「この程度で驚いていたら確かにまだまだ経験不足だぞ? 私だってまだまだだ! お前と冒険を楽しむぞ!」

 ソードが笑って、頭をくちゃくちゃにする。

「そーだそーだった。俺もまだ冒険してなかった、つーか、コレ、結構な冒険譚だぜ? 魔物と会話して仲間にするなんて、テイマーですら無理だろ。……そんでもって、コイツら、恐らくユニーク種だぜ? 色、見てみろよ」

 ん? 色?

 最初の子が、黒。

 連れてきた子たちが、白。

「普通じゃないのか?」

「普通は茶色」

 確かにその色もアリだな。

 ……と、顔を上げた黒が、

「ブモー!」

「ふむふむ?」

「ブモモー!」

「なるほど」

「ブモモモモー!」

「そうか、わかった」

 会話してたら後頭部たたかれた。

「真面目な顔してなんのコントだよ」

 後頭部を擦った。

「コントじゃない、会話してたんだ。――黒の言うことには、生まれついてこの色で、この色だと、目立つんだそうだ。他の魔物に襲われやすいし、人間にも襲われやすい。他のチャージカウのように餌をもらえないし、飢えていたところ、私が訪れて、スカウトしてきたので、同じような境遇の仲間を連れてきた、と言ってる」

 ソードが口を開けて唖然としてる。

「……なんだよ、そういう魔術があるだろう?」

「どんな魔術だよ! それは⁉ あるわけねーだろ‼」

 唾飛ばして怒鳴ってきてるし。

「……あるだろう? 意思を音声と魔素に乗せて飛ばす。音声と魔素に乗せられた相手の意思を読み取る。音波…音の波、光の波、それと似たような感じだな。別世界にはなかったが、流石は魔術のある世界。何でもアリだよな」

 ソードが額を押さえてうめいた。

「…………何でもアリなのは、お前だよ。何だよソレ?」

「ん?

 ……魔導具であるだろ? ギルドで使ってる、アレは、似た感じだぞ?」

 ソード、がく然としてた。

「ただ、この魔術、相手に同じ意思を読み取る魔術が使えなくては話にならん。相手の言いたいことはわかるが、こちらの意思が伝わらないからな。会話が出来ないタイプもいた、最たるはスケルトン、グールだ。うーむ、黒は賢いぞー」

 ナデナデ。

「え? じゃあ、出来ない俺って」

「黒よりも賢くないな。言うなら、スケルトン、グールレベルだ」

 ガーン! って顔してソードが立ち尽くした。

 後、すがってきた。

「ちょっと、俺に教えて。それは出来た方がいい気がする、教えて」

「いいけど……教えると言ってもなぁ……。それに、お前も半分くらいは出来てるんじゃないのか?」

「は?」

「お前、相手の悪意に敏感じゃないか。、意思を受け取ってるんじゃないか? 相手の言葉に乗ってきた悪意をお前はいっちいち拾い上げてるように思える」

 不幸体質の上に、悪意の意思だけ聴き取れる魔術持ちって、不憫よね。

 よしよし、と髪をなでてやった。

「その悪意の波動を読み取る魔術をもっと鍛えればいいんだ。――でも、それを研さんしていくとお前が壊れそうな気がするんだが、気のせいだろうか?」

「……俺もそんな気がしてきた。コワイからやめとく」

「むしろ私のようにシャットアウトする魔術を研さんした方がいいぞ。どうせお前は無神経なんだから、ソッチを研さんしていけ」

「さりげなくディスられてない?」

 ぷいーっと。

 知らんぷり。

 したら、両手で挟み込むようにグリグリされた‼

「いたいいたいいたい!」


 そんなこんなで、チャージカウのお食事&スカウト完了。

「コイツらを連れて町には入れないから、野宿をしよう! お前たち、身体を洗ってやるからな? 洗ったらきっと素晴らしく美しい毛並みになるぞー?」

「ハイハイ、好きにしろよ。……つーか、お前、いつまでいる気だ? とっとと帰れ」

 すっかり存在を忘れてた少年が、そこにまだいた。

 涙目で三角座りしながらこっちをにらんでる。

「まだ泣いていたのか。男のくせにビービー泣くな」

 少年に諭した。

「うるさいっ! お前なんか嫌いだ! 話し掛けるな!」

 泣きながら怒鳴ってくる少年。

「そうか、それは気が合うな。私もお前のことは到底好きになれそうもない。お互い嫌い合ってるというなら、存分に嫌えるな!」

 笑顔で言ったら、絶句した後、泣いた。

「うーわ、お前ってホントヒドイ」

「え……」

 え、私が悪いの⁈

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