第58話 何もかも気に入らない!<サジー視点>

〈サジー〉

 最初から気に入らなかった。

 当たり前みたいに〝あの〟【迅雷白牙】の隣にいるアイツ。

 俺よかひょろっこい、どついたら倒れて泣きそうなほどなよなよしたアイツが、よりにもよって【迅雷白牙】のパートナーだなんて!

 だったら、俺も! と思って【迅雷白牙】に

「あの! 俺! 俺も! パーティメンバーに入れて下さい!」

 っつったら、瞬きを三回くらいされた。

 後、

「……なんか勘違いしてるみたいだけどよ。俺、そんなに簡単に自分のパートナーにしないぜ? しかも『自分の実力も冒険者って職業もわかってないやつ』なら、尚更だ」

 って言われてショックを受けた。

 ハァ、とため息をつかれ

「……あのな。この程度で泣きそうになる子供と一緒に凶悪な魔物を退治出来ると思ってるのか? インドラの見た目に騙されて、自分もなれると思ってんだろうけどよ、やめとけ。アイツはあのナリで、大人よか肝が据わってて、しかも俺に匹敵するほど強い。さらには俺より冷静沈着、正直俺の方が宥められることが多いってやつだ。冒険者はな、他人がどーの、じゃねぇ、自分の生死に責任を持って殺すか殺されるかって命賭けて魔物を倒す職業だよ。……お前、家業があるんだろう? なら、ソッチを継いだ方が絶対! 儲かるし安全だし向いてる。家業を継いどけよ」

 って言われて去られた。

 二重にショックを受けた。

 ――しばらくしたら、アイツの噂で持ちきりだった。

 今は、【迅雷白牙】よりもアイツの方が人気だ。

 〝様〟までつけられて敬われてる。

 かーちゃんまでもが褒めちぎってる。

「いやぁ、さすが【迅雷白牙】様のパートナーだけあるよ! あの子はすごい! 大魔術師様で、大魔導師様で、さらに!料理まで天才的って、すごいじゃないか! こんなミルクしかない町の発展を気にして下さって、こんなおいしい料理をいろいろ開発してくださって、さらに、それにお金を取らないなんて! 素晴らしいお方だよ!」

 で、ミルクを瓶に入れて振れ、お前の仕事だ、と言われて意味がわからず振った。

 ……ずっと振ってるけど、許しが出ない。

「……まだ振るのぉ? もう腕がだりーよー」

 そうすると、かーちゃんどころかにーちゃんまでもが残念な顔してこう言った。

「……やっぱり、インドラ様は違うんだな」

「同じくらいの年齢なのに、あの方はあっと言う間にミルク油作ってたね……」

 カチンときた。

 どういうことだよ! って聞いたら、アイツはこれをものすごい速度で振って、そうすると塊と水に分かれたんだって。

 その後にーちゃんとかーちゃんが振ったらちゃんと出来た。

 ……つまり、俺の振りがノロいってことだって。

 ――とにかく、なんでもかんでもインドラ様、インドラ様!

 アイツがなんだってんだよ!

 女みたいにひょろこい頭のおかしいやつじゃねーか!

 アイツがチャージカウをほしがって、捕まえに行くのに【迅雷白牙】がついてく、って聞いて、チャンス! って思った。

 俺がちゃんと実力を示せば、なんならビビったアイツを俺が助けたりしちゃったら、【迅雷白牙】も見直してくれるかも!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る