第54話 考えるな、感じろ!
出口に出たら、なんかもめてた。
ん?と思ったら。
「……セイラ⁈ お前、その格好はどうしたんだ⁉」
すっごい恰幅のいいおっさんが走ってきた。
「お父様⁉ ど、どうしてここへ⁉」
うん、服装からして聖職者っぽいもんな。
セイラの父親だったか。
「こ、この格好は、その……汚れてしまったので、服をお借りしたのです」
「汚れただって⁉ 何があったんだ⁉ ……まさか、ダンジョンに入ったわけではあるまいな⁉」
セイラ、縮こまっている。
面倒くさいことになりそうなので、ソードと視線を交わし、さりげなく離れようとしたけど見つかった。
「……お前たちが、セイラを連れ出したのか‼」
ソードが片眉を上げた。
「連れ出した? バカなことを言うなよ。こっちは散々断ってんのに、ここまで勝手についてきたんだよ。しかも、上から目線でな。大方ギルドに頼んだら護衛代かかるからってんで、ケチって通りすがりの冒険者に声をかけてきたんだろうけどな。で、仕方なくついてこさせたけど、まるっきりお荷物だったよ。アンデッドのダンジョンなんて、神官は花形だろうに、震えてソイツにしがみついてるだけだったからな。ま、これでもう懲りただろ」
「なんだと⁉ 冒険者のくせに生意気な!」
私は首をかしげた。
「冒険者というのは生意気なものだぞ? 認識を改めた方がいい」
ソードが笑った。
「なんだ? 小僧」
「年寄りは興奮しやすいな。どの年寄りもすぐ興奮するので、ポックリくたばるんじゃないかと冷や冷やしてしまう」
ソードがゲラゲラ笑う。
すごいウケたらしい。
でも、ソードしかウケてない。
おっさん、ポックリいくんじゃないかってくらい顔が真っ赤だ。
「深呼吸を十回ばかりした方がいいぞ? 血圧が上がりすぎるとひっくり返るからな」
「うるさい! 生意気な平民め! 娘をたぶらかした罪を償わせてやるからな!」
「処女を奪ったと思っているのか?」
シーン。
「…………な、なんだと?」
「お漏らしをさせてしまったことは謝る。そこまで怖がるとは思わなかったんだ。……あ! 思いついた! もしかして、〝聖水〟というのは、彼女の小水のことか? そうか、そうだったのか、買わなくて正解だったな」
「ワーオ! お前、それ以上はダメ! 青少年に悪影響過ぎ!」
おっさん、口をパクパクさせてる。
ちなみにセイラは真っ赤になって顔を押さえている。
「おい、大丈夫か? だから、深呼吸をしろと言ったのに……」
おっさん、突然激高してつかみかかってこようとし、ソードが立ち塞がった。
ソードを殴ろうとするが、その手を軽くつかみ、冒険者カードをおっさんの眼前に突き出した。
「わかるだろ?」
「…………。私が、そんなもので黙るとでも思ってるのか?」
おっさんはフン、と鼻を鳴らす。
「なら、黙らせるさ。……教会は治外法権だと思ってるのかもしれないが、そうじゃないことを俺とやり合って証明するか? 俺は受けて立つぜ。どんな罪状でっち上げるつもりか知らないが、Sランクなめんなよ。教会の一司祭如きに俺がどうにか出来ると思うならやってみろよ」
ソードが冷たく宣戦布告すると、おっさんが歯ぎしりしたぞ。
「…………この、神を恐れぬ罪人が!」
また言ってる。
「お前等神官を恐れないのと神を恐れないのとは違うだろう。お前等は神じゃない、勘違いするな。それとも、神の名を騙るか?」
おっさん、ぐっと詰まった。
「お前は神より偉いのか?」
さらに尋ねると、おっさん、息を吐くと
「神は人間を造りたもうた。人間は、神の子であり、神より偉いなどと世迷い言をほざくものなど、それこそ天罰が下されるだろう」
と厳かに言った。
「それは流石に私もそう思うぞ。神が人間を作ったのならば、その作られた人間が「神より偉い」と言ったら、神は相当怒るだろうな。人間全てを滅ぼすかもな、「こんなものを作ったのが間違いだった」と言ってな」
「…………」
なぜか冷や汗をかきながら黙ってしまった。
「まぁ、実際、この世界が【神が作った箱庭】なのか、膨大なエネルギーにより発生した
唖然とするおっさんとセイラを放置してソードと二人でさっさとギルドに戻った。
「お前って、小難しいこと言いつつ煙に巻くの、うまいよね」
失礼な。
話が脱線したなと思って最後に軌道修正をかけるだけ。
むーっとすると、ソードが笑って頭をなでた。
「いや、助かってるって言いたいの。あの神官のこともそうだし、その娘のこともな。なんか……お前の言いたいこと、わかってきたわ。そうだよな、お前はオッサンぽいけどまだ子供で、冒険ってそういうふうに捉えてるんだな」
ソードが軽くうつむき遠い目をした。
「俺は……確か最初の頃はお前みたいに思ってたよ。今回も、あの子は上から目線で絡んで来て、たぶん、俺がSランクってのもわかって声かけてきた。ギルドに頼んでもアレじゃ足手纏いだろうし、あの高飛車な態度じゃそれどころか誰もがお断りだろーから無理だしな。でも、お前はあの子を足手纏いなんて考えねーで、盛り上げ役、っつって反応見て楽しんでんだもんな。なんつーか、〝余裕〟って必要だよな」
「……そんな当たり前のことを、ようやくわかったのか」
ソードは乾いた笑いをした。
「Sランクになるまで、本当にいろいろあったんだよ。助けられるのを当たり前だと思ってる連中が、俺の事情お構いなしに助けを求める。俺も、助けられる実力があるのに助けないわけにもいかねーから、助けなくちゃなんねー。俺が楽しもうと思ったとしても、それを周りが許さない。俺にはその実力があるんだから、俺が頑張ればいい。………なんだかなぁ、そうやってSランクになった」
遠い目をしながら語ったが……。
なんだその悲劇のヒーロー的考えは。
私は呆れた。
「お前は周りを気にしすぎだ。あのなぁ、人助けとは、『助けなければならない』とか思わずつい身体が動いて助けるモノだぞ? 考えるな、感じろ! で、やりたいことをやって文句を言われても、それは仕方が無い。『やりたかったから』で終わりだ。そうは言っても割り切れないものはあるだろうがな、仕方が無いんだ。それこそ酒場に行って誰かに話を聞いてもらえ。『こんなひどいことがあったんですよー』ってな」
ソード、爆笑。
その後しなだれかかってきた。重い。
「あー、その役割、今度からお前な」
「……別にいいけどな、コンビ組んでて発生する愚痴って、基本私のネタにならないか?」
今までも散々私に不満を抱いているじゃないか。
「今更、Sランク冒険者のソード様が、酒場で愚痴って吐けないの。
何事も無かったかのような体を装うの。あと、酒とツマミがおいしくないから行きたくない」
「エールもダメか? この世界、エールは作られているだろう? 酒場の定番だと聞いたぞ」
ビールはないけどエールはあるらしい。
ビールはホップだよね。
さすがに実物を見たことがないのでどれがホップかわからないし、この世界でもホップは使われてない、つか苦みをつけてない酸っぱいエールが主流。
「お前の作ったの、冷たくて苦くて酸っぱくなくて喉が渇いたときに飲むとおいしい。アレを飲み慣れると、普通のだともの足りなくなる」
ソードの発言を聞いて、思った。
……うん、なんだかごめん。
ソードがどんどんボッチになってくの、私のせいかも。
以前、酒場に行って自分の持ってた酒を振る舞ったら「奴隷送りにした冒険者から巻き上げた金で買った高い酒を奢って悦に入ってる」とか言われたらしいし。
……ソードって、ちょっと、不幸体質かもしれない。
「……そうだな、お前が酒場で飲みたいとか思ったときは、その場で飲食出来る屋台でも私が開店してやろう。手続き全くわからないけどな! それこそSランクの威光をブンブン振り回して、そこら辺で屋台をやって、みんなで飲もうか。安くてまずい酒なら移動しながらでも作れるから、冒険者相手の酒はそれを出せばいいだろう」
さすがに誰も彼もに振る舞うほどの酒は、現在の手持ちでは厳しい。
ソードがうれしそうに笑った。
後、髪をくちゃくちゃにしてきた。
「それって、いいな。けど、気を遣うなよ。でも、お前の作った『安くてまずい酒』に興味があるから作って下さい」
最終的には酒か。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます