第52話 デーズでお化け屋敷体験!
さて。
ダンジョン入り口付近に到着。
なんと!
気分の盛り上がることに、大規模な集合墓場の中にあるという……。
しかも、その墓場は、一年中日が差さないという……。
「盛り上がるな!」
「お前はな」
ソード、あんなに楽しそうだったのに、私の反応を見てるうちにどんどん投げやりに。
「お前、行ったことがあるからって、もうちょっと盛り上がろうって思わないか? 見ろ、このシチュエーション! 薄暗い空、群れ飛ぶ不吉そうな鳥、そこはかとなく聞こえてくる、ような、死人の唸り声!」
「何だろね、お前がうれしそうに語ると、途端に安っぽい見世物みたいになるよね」
投げやりに言われた。
「お前はつまらないやつだなぁ。……私はむしろあの子たちと行きたいぞ? 一緒に行ったらさぞかし楽しそうだ」
離れたところに、男女のパーティがもめている。
男連中は行く気だが、女子が渋っている……というより怖がっているようだ。
「お前のそのなめた態度を一度改めさせた方がいいとは思うんだけど、なめた態度でも簡単にどうにかなっちまうのが嫌なんだよなぁ。あんまなめた態度とってると天罰が下るかもだぞ?」
ニッコリ笑った。
「天罰は、神が与えるものだろう? だがな、神は人間ではない、だから人間のなめた態度など意に介するわけがなかろう。むしろ同じ人間が当てたがるものだろうな」
「ハイハイ。わかりましたよ」
むーっとして、ソードを指差した。
「むしろな、お前こそ、もっと楽しめ! 冒険するのに辛気くさいぞ! 言っただろう、お前はお前の生死にだけ責任を取れ! 人の生き様死に様は、ソイツだけの責任だ! 鼻歌交じりでダンジョンに潜って死のうと、辛気くさい顔でダンジョンに潜って死のうと、死んだら全て無に還りそれで終わりだ。なら、鼻歌交じりでダンジョンに潜って死んだ方がいいじゃないか。さあ、私と一緒に全てのものを使ってでも状況を楽しもう!」
「さりげなく『楽しむためには何でも利用する』宣言したな」
ソードはため息を吐くと、私の頭をくちゃくちゃにした。
「それもそうだ。わかった、やめた。俺も楽しむ、お前と冒険するって決めたんだもんな」
うなずいた。
「さて、そうと決まれば盛り上げ役がほしいところだな。このコンビで突入すると、非常につまらないことになりそうだ」
楽しむと言ったくせに、私のつぶやきにソードがため息をついたぞ?
…………と。
「ま、待ち、待ちなさい!」
震える声で呼び止められて、振り向いたらセイラだった。
「おぉ、チッパイ女子」
「誰がチッパイか!」
あ、しまった、つい。
「間違えた、セイラとか言ったか」
「わ、私、私を、連れてけば、聖水、いらない、わよ!」
プルプル震えながら言ってる。
「いや、その前に聖水はいらん。ダンジョンで使うつもりはない。言っただろう、土産でほしかったが、売らないのならいらない」
セイラはロッドを追加で持ってきていた。
なんといいますか……恩の押し売り?
「いらないから、とっとと帰れ」
しっしっと手を振る。
「さーてと、出来ればかわいく脅える女子に声をかけたいな。女子だけのパーティで潜るやつはいないかな?」
額に手をかざして周りを見渡す私をソードが白い目で見た。
「おい、オッサン。何考えてんだよ、それじゃナンパだろ」
「いいじゃないか、私は全力で楽しむんだ!」
何が悲しくて無反応の男二人、間違えたオッサンと少女の組み合わせでつまらなそうにお化け屋敷に突入しなければならんのだ。
肝試しとは、悲鳴を上げて怖がる女子と一緒に回ってこそ! 楽しい!
「だから、私が、一緒に行ってあげるって言ってるでしょ‼」
は?
振り向いて、セイラを見た。
プルプル震えながら、涙目でこっちをにらんでいる。
…………ふむ。
顎に手を当てて考えてみた。
「あ、足元からスケルトンの手が」
「キャーーーーーッ‼」
すっごい声を上げて、飛び上がって転んだ。
…………なるほど。
「よし、合格だ。一緒にダンジョンに行こう」
転んだセイラに手を差し伸べる。
ソードが額を手で打っていた。
「ホンット、お前って、度し難いバカだよな」
若干怒った声でソードが訊いてきた。
「お前、アイツの生死に責任もてるのかよ?」
「お前、私の話を今まで聞いてたか? 私は、『人の生死はそいつ自身の責任』と何度も言っただろうが」
ソードがため息をつく。
「お前は、何でも抱え込もうとしすぎだ! 私は、怖がる女子を見ながら肝試しをしたいだけだ!」
「うーわ、最低」
うるさい!
希望者がいるんだからいいじゃないか!
これぞWIN-WINの関係だ!
「とにかく、お前には一欠片の責任もない。何かあってもお前の責任じゃない。忘れたら何度も繰り返すぞ」
「……わかった。もう口出ししないよ」
そっぽ向きながらなんか決意してるようだけど。
どうせ自分が何とか助けようとか考えてるんだろう。
「今こそお前に酒を飲ませたい。ベロベロに酔っ払わせたら判断力が鈍り、自分がどうにかしようなどと考えず大人しく今を楽しめるようになるだろう」
「わー、ホントーにお前ってヒドイやつだなー」
なぜだ。気を遣ったと思う。
そんなこんなのダンジョンなのだが。
「なんで私が先頭なのよ⁉」
セイラが怒鳴ってきた。
「もちろん、お前を犠牲にして先に進むつもりだからだ」
そう言ったらセイラだけでなくソードまで唖然とした。
「わーお、お前の人でなしさを俺、見縊ってたわー。軽く考えて人死に出たら、どころか積極的に他人を犠牲にしようって、そこまでとは思ってなかったわー」
「守る者はソード、お前だけだ。他の者は、お前を守るため、私が楽しむためにどんどん犠牲になってもらう」
「さりげなく『自分が楽しむため』も加わってたね」
もちろん。
うなずいたらグリグリされた。
「いたいいたいいたい」
セイラが泣き出して先に進まなくなったので、
「仕方ない、じゃあ、一緒に歩こう。手を繋ぐか?」
手を差し出したら、泣きじゃくりながら握ってきた。
「…………。お前、女を口説くの、もしかして、巧い?」
何言ってんのコイツ。
「お前はちょっと離れてろ。あんまりくっつくと楽しくない。あと、私たちに近付いてくる者は倒すなよ? 私が倒す」
「はぁ……。わかったよ。でも、大丈夫か?」
ソードが諦めたように言った。
「もちろん。さぁ、出発だ! 冒険するぞ!」
その言葉に、ようやくソードが笑い、セイラも目をパチクリさせた後、泣きやんで笑った。
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