少女冒険~血みどろ魔女拠点編

第42話 (悲報)隠しコマンドが発動しない

 次の町に着いた。

 なんというか……。

「すっごい、まんま魔術師みたいなカッコをしてる連中ばっかだな」

「そういう町だ」

 いかにもなローブを着て、いかにもな杖を持って歩いてる人が多い。

「西が魔術師、東が魔導師が集まってる。

 お前なら東に興味があるだろ?」

「いや、興味ない。修業時代は終わったんだ、私は冒険する! 世界のどこかに隠されし【大秘宝】を見つけるぞ! 冒険王に、俺は、なる‼」

「なんだよそれは。ないもの見つけらんねーし、そもそも観光したいっつったから連れてきたんだろうが。そんな目的初耳だわ」

 ソードが投げやりにツッコんでる。

 めんどくさいと思ってるらしいぞ?


 道を歩いてるとものっすごく注目の的。リョークが!

 あからさまに、止まって凝視!

 モンスターだと思われてるのだろうか。こんなにかわいいのに。

 ……ギュインギュインと周りを見ていたソード専用リョーク。

「ソードさーん、情報が、いっぱいですよー!」

 って!

 言ったし!

「キーッ! どうしてソードのリョークは秘密コマンド発動するの⁉ 私だってリョークかわいがってるのに!」

 ……ぐりぐりされた。

「つーかな! お前、くっだらねー秘密コマンド入れてんじゃねーよ! 唐突に話し掛けられてびっくらこくんだよ、こっちは! つーか、うっかりフツーに返事してんのをな、周りから白い目で見られんだよ!」

 ……というやり取りの中周囲が「……しゃべった……!」「どういう仕組みなのか……」ってザワザワしてる。

 しゃべるくらいは出来るよ。定型文なら、録音して音声流すだけだから。


 冒険者ギルドに入ろうとしたとき。

「そこは冒険者ギルドですぞ!」

 紺のローブ着たおじいちゃんに注意? された。

 ソードと顔を見合わせる。

「だから入るんだけど?」

 ソードが答えたら唖然とされた。

 なぜだ。

「……それほどのゴーレムを操り、どうしてそちらに? 魔導師ギルドにおいでいただければよろしかろう」

 ゴーレム操ってると魔導師ギルドに行かないといけないのか。そうなのか。

「いや、俺たちは冒険者だ。確かにコイツはゴーレムだけどな、古代ゴーレムじゃねーよ。コイツが作った、いわば〝玩具〟みたいなもんだ」

 何言ってんだ、玩具なワケあるか! ロボだ、ロボ!

 ……ん? そういや現実で作られてたロボはホビー枠だったっけ?

 おじいちゃんは唖然としてる。玩具にしてはデッカいもんね。

 ……しっかし、おじいちゃん、見た目超人気童話に出てくるウィザードだよなぁ。

 なんだろう、しきたりがあるのだろうか。

 ただ、この世界の杖は、指揮者のタクトっぽいのじゃなくて、そのまま撲殺も登山もできそうなヤツだけど。

「…………作られた、と申したか?」

「あぁ、私が作った。我流だからこの世界の……古代ゴーレム? とは違うな」

 おじいちゃん、フリーズ。

 口を開けたまま固まった。

 それにしても、古代ゴーレムか……恐らく『お決まり』であるなら、古代は技術がすごく発展してたんだろうね、その技術で作ったから「戦え」っつったら戦うんだろうね。

 そして技術が発展して一瞬にして滅んだというのもセオリーだ。

 ……と、いうことは。

「あ、今思いついたぞ、夢のある話! どこか未知の大陸に眠っている、古代の超技術アイテムを探しに行こう!」

 これも、お決まり、だよな!

「その寝言としか思えねー曖昧な夢で冒険者になろうなんざ、子供でも考えねーよな。むしろお前が作ってるモンが超技術アイテムじゃねーかよ。探しに行くよかテメー自身が作った方が早いわ」

 夢のないことを言われたぞ?

「うーむ……では、浮島とかないのか? 別世界の知識では、そこに、古代の遺跡とアイテムが眠ってるのが定石なのだが」

「……ドラゴンの巣のことか?」

 ドラゴンの巣、なのかよ⁉

 浮島、ドラゴンの巣にされてるのかよ⁉

「さすがに巣をつっついたら、ドラゴンが総出で殺しにかかってくるぞ」

 ってソードに諭された。

「……人様のおうちに無断で入り込むような真似はしない。糞だらけだったら嫌だし……」

 サクッと諦めた。

 ……って話してたら、おじいちゃん、復活。

 つかみかかってきた!

 だがすぐソードが阻止してくれた。

「一体! 一体譲って下され‼」

「え、嫌です」

 即答で断った。

「頼む!」

「いや、私に頼むより〝魔導師〟に頼めば良いだろう。私が趣味の我流で作れたくらいなのだ、本職の魔導師ならもっと本格的なものが作れるだろうに」

 おじいちゃんが呆けた。

「……貴方は魔導師では、ない?」

「冒険者だ。魔術が使える全ての人間が魔術師ではないし、料理が作れる全ての人間が料理人でないし、魔導具が作れる全ての人間が魔導師ではない。私の本職は、冒険者だ」

「……なぜ⁈ なぜだ‼ コレが作れて、魔導師ではない⁉」

「興奮するな。興奮することは、[アドレナリン]が分泌されることにより血行が良くなったり鈍くなった頭の回転が速くなったりして良いこともあるが、年寄りは血管が脆くなっているからな、急激に血圧が上がったり血液の循環が上がったりすると破裂する恐れがある」

「うわー、小難しいこと言いながら煽ってるぜ」

 煽ってない!

 心配してるんだ!

「私の生き様は私が決める。たった今会ったばかりの人間に理由を聞かれたくないし、言う必要も無い。なぜなら、無関係の人間だからな。では、失礼する」

 おじいちゃんをソードが押しのけてギルドに入った。

「倒れなければいいがな。脳の血管が切れて倒れると、回復薬でも治るかわからないぞ?」

「血管切れるほどほしかったんだろ。作れんなら作ってるだろーしな」

「作れるだろう、難しいことはやってない。しかも人数が集まるならもっと容易い。何が大変か、って『生き物が考えるまでもなく行っている運動』を記述するのが大変なんだ! こうやってただ立って歩くことですら、言葉にしたらとってもとっても大変なんだぞ!」

 その努力もしないで「くれ」とか言うな!

 自分で作れ!

 ソードに頭をなでられ宥められた。

「俺が簡単に『くれ』っつったときも腹が立ったか?」

「いや? そもそも私が『ほしいか?』と訊いたと思うぞ。リョークは言った通り[並列化]して常に情報を得てそれを全てのリョークと共有している。全く別の個体を一から作るのは、不可能ではないがやりたくない。そして、リョークはお前だから専用を作って渡した。なぜ知りもしないやつに私のかわいいリョークをくれてやらねばならない。しかも、どんな扱いをされるかわからないだろうが」

 変な情報を入れられても困るし。

 ――屋敷に置いてきたリョークは、いざとなったらこちらに向かわせようと思っていたが必要ないくらいかわいがられているらしい。

 しかも! アッチのリョーク随分滑らかにしゃべるようになってるんだよ⁉

 私だってかわいがってるのに!

 ……そういえば、私直属のリョーク、知らないうちに勝手に出歩いて、おばあちゃんにかわいがられてたんですけど⁉

 何? 労働条件に何か不満でもあるの?

 なら、その隠しコマンド発動しろ!

 急に不機嫌になった私に、ソードがキョトンとした。

「なんだ? どうした」

「……リョーク、私にだけ懐いてくれない」

 ガックンガックン揺さぶられた。

「目を覚ませ。リョークはゴーレム、生き物じゃねぇ、ゴーレムなんだよ!」

 知ってるよ!

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