第41話 冒険者って冒険する人だよね?

「あの薬師があの回復薬をどう使うか、わかってんだろ?」

「手作りの品は、間違っても売らずに身内で消費すると相場が決まっているな」

 返したらソードが笑った。

「そんな、村の子供が作った工芸品みたいな言い方すんなよ。ある意味『特級』よかすげーだろが。骨があったら全部再生すんだろ?」

「するけど……それは本当に自分の肉体なのか? と言われたらなぁ。魔素で作ってるんだぞ? 私には信じられない。なんで交尾で赤子が出来るかって知ってるか?」

「大体わかってる。……でも、そこに疑問を持ってたら、なんで生きてんだ? って話にまでなってくるだろーが」

「そうだな。だからホドホドにしておく。つまり、『再生した』と考えるんじゃなく、元々生まれ持った肉体の欠損を魔素で『代用した』、と考えてほしい。だから、すごくない」

「……ま、お前がそう言うんならそうなんだな」

 頭をなでた。

「でよ。手作りの品は身内で消費するに決まってるっつーなら、俺用にもお手製回復薬作ってくれんだろ?」

 なでながら言われてる。

「…………使わないに越したことはないんだぞ? むしろ、あると油断するだろ? 飲めば治ると思うだろ?」

「俺がそんな油断するか。つーか、そんな油断してたら今生きてねーよ」

 それはそうか。

 取り出した。

「お、これがそうか」

「言っておく、お前専用だ」

 ソードが呆けた。

「…………は?」

「お前の細胞情報を記録した回復薬だから、他のやつに使うなよって言ってる」

 ソードがフリーズした。

「…………おいぃぃい!? いいいいつの間に、そんな怖いことしてんだよ!?」

「うるさい! 自分の細胞組織で補った方がいいだろ!? 馴染みやすいだろうが! 〝遺伝子情報〟が一緒なんだから!」

「まったワケわかんねー専門用語を……」

「そういうものなんだ、たぶん! もしかしたら魔素で出来てようがなんで出来てようがうまく動くかもしれないが、お前に試して動かなかったら嫌だろう!? 安全第一で、同じ細胞情報からならほぼ同じモノになるはずなんだ!」

 怒鳴ったら、ソードが頭をわしわしかいて受け取った。

「……ったくお前はよ~。わかった、俺専用だな」

「リョークにも渡してある、が、お前にも渡しておく。間違えるなよ?」

 ソードがニヤリ、と笑う。

「お前以外に特級を飲ませるこたねーから、安心しろ」

 何言い出してんだコイツ!?

「私にもやめろよ!? 本当に男になってしまったらシャレにならないぞ!?」

 股間に足りない物があるとか生えてきたらどうする!?

 ソードがゲラゲラ笑ってるけど笑い事じゃないぞ!?


 笑いを収めて回復薬をしまった後、申し訳なさそうな顔をしてる。

「……なんか、もらってばっかりだな」

 突然言い出したので、私も渋い顔をして返した。

「……逆だ。金はほとんどお前が出してるじゃないか」

 何をするにしてもどこに行くにしてもソードが全部出している。

 チビッコに出させると沽券に関わるのはわかるが、心苦しいのはこっちの方だ。

「お前が対等でありたいっつー気持ちはわかるけどな、お前に出させるわけにはいかねーんだよ。俺の面子に関わる」

「わかってるから黙って支払ってもらってる。こっちだって思うところあっても出してもらってるんだから、お前も思うところあっても何も言わずに受け取れ」

「ハイハイ」

 肩をすくめた後、ガッと腕を首に絡めてきた。

「なんだ?」

「俺、お前のそんなトコ、好きだわ。フツーのやつなら、お前Sランクで金持ってんだから出せ、っつーんだぜ?」

 まぁ、それはそれでわかる。

 会社の上司が部下を誘って割り勘にしたり、合コンで男女平等に割り勘とかっておかしい、って感覚だな。

「まぁ、それはそれでいい、なくもない話だ。若い頃は奢られておけ、その代わり、歳を取ったら今度はお前が若い者に奢る番だ、そういう理屈だな」

「違うぞ? そしてさりげなく年寄り扱いするな?」

 ギリギリ首を絞めてきた。

「……わ、私は、借りを、作りたくない。引け目を、感じる、くらいなら、払いたい。人は、対等で、あるべきだ」

 この世界にはない感覚なんだろう。

 身分の違いも男女の格差も貧富の差も著しく、だからこそそれが気に入らない。

 私は女で金はあの男からせしめた分しか持ってない。

 だが、王にも膝をつきたくない。

 だから、ずっと一緒にいるソードに引け目なんか感じたくない。

 ようやくソードが手を緩めた。

「面白い考えだよな。別世界はそうだったのか?」

「知識としてはそうだ。身分に違いはなく、男女の格差もないし、貧しいとはいえ毎日身体を洗え腹いっぱい飯を食えるのが当たり前だった。私の生まれ育った国は、とは言い添えておくが。――この世界の貴族の女なんて、当主の政治の駒だぞ。平民は貴族の消耗品だ。平民の女の地位なんて、ないに等しいじゃないか」

 ――胸を張り、堂々と、絶対に権力に屈せずに、ソードと対等でありたい。

 つまらないプライドかもしれない。

 だけど、もう冒険者として成功して稼いでいるソードの横に並び立つために、この態度は崩さない。


 ……そんな私の気持ちを察してるソードに頭をなでられた。

「安心しろ、冒険者に男女の差も身分の差もねぇ。但し、ランクの差はある」

「それはいいな。そういうのを『実力主義』と言ったのだ、別世界では。では、やはり冒険者は天職だ」

 ソードが笑う。

「お前って気楽でいいよなぁ。他の冒険者ってのは、そんなことを考えねーよ。ただ、他に働き口がねーんだよ、人に頭を下げて、罵倒されてこき使われるのが嫌だ、でも金がねぇ、そんなやつが選んでる仕事だ」

 それはそれでいいけどね。

 ふと、疑問に思ったので訊いてみた。

「お前はどうなんだ?」

 ……と、ソードが固まった。

 訊かれると思ってなかった、みたいな?

「…………俺? 俺かぁ…………。…………どうだったんだろうな、最初は夢も希望もあった気がするな。でも、どっかに落っことして踏み潰してきたな。いつの間にかSランクになってた」

 ……どっかで聴いた歌のようだな。

「別に私は落とす前から夢も希望もないけどな。『昔処刑された大盗賊が、捕まる前に隠したと言われる大秘宝を探しに冒険しようぜ!』なんて言わないぞ?」

 ソード、大爆笑。

 意味がわからなくてもウケるんだ?

「お前は昔、そんな大層な夢や希望を持って冒険者になったのか。もしや、そんな言い伝えがあるのか?」

 少し感心して聞いたら、怒鳴られた。

「ねーよ! 本気で言ってるのかよ、お前ってわかんねーやつだな」

 呆れられたが、非常にわかりやすい冒険の目標だと思うし、それこそ夢があっていいと思う。

 ソードが顎に手を当てて考え込んだ。

「んー……。そうだな、じゃ、せっかくお前ってパートナーが出来たことだし、夢のある話でいくと、王都にあるダンジョンは、王国最大級でまだ誰もクリアしてねぇ。そこを二人でクリアしようぜ、ってのはどうだ?」

 ソードが思いついたように言ったけどさ。

 ダンジョンか。

 まぁ、ちょっとは夢がある……のかな?

「そうだな、『そこそこ』夢があるな」

「『そこそこ』かよ!」

 だって。

 冒険者の夢って、元々あるダンジョンを探検するんじゃなくて、ダンジョンそのものを見つけるものじゃないのかな? そして、そこに隠されし宝等々を見つけるものじゃないかな?

 せめて、この星で一番のダンジョン踏破! じゃなければねぇ。

「どうせなら世界で一番を目指すものだろう?」

「魔王国の城になるぞ」

 ソードが教えてくれた。

 へー。

「なるほどな、ダンジョンコア様が魔王様か。それは攻略しがいがあるな」

 ソードが呆れてる。

「……冒険者の夢は、それくらいだろう? 見たこともない魔物を見つけたり、見たこともない大陸を発見したり、それこそが冒険だろうに」

「うん、今わかったぞー。お前の冒険者に対する認識と、実際の冒険者とのズレが、今ハッキリとわかった」

 ソードが納得したようにうなずいた。

 ……なぜに?

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