第33話 講習を受けたよ(今更)

 着いたら合格発表。すぐに発表となった。

 問題なく受かった。

 落ちたのは、当然と言えば当然の、救出対象の二組。

 しかも、救出されたってことで、罰金が発生。え、勝手に救出されて罰金とか?

 ソードに聞いた。

「……なあ、自分は自力で脱出できたのに勝手に救出したんだとかごねて罰金払わないやつとかいないのか?」

 この世界の人間だと普通にやりそうなんだけど?

「いるよ」

 簡単に答えた。

 だよねー。

「つまりは、ゴネ得?」

「得かどうかはソイツ次第だろうな」

 ふーん?

 ソードに顎をしゃくられた方を見る。

「……こんな……こんな額になるの⁈」

「ふざけるなよ! 勝手に救出しといて、しかもこっちは三人死んでんだぞ! なのになんで罰金なんだよ!」

 試験官に食って掛かってた。

 うん、テンプレ。

 ただ、少女たちの方は、落ち着いた子が頭に血が上りやすい子に声をかけた。

「キャシー。……私たち、あの時救出に来てもらえなかったら死んでたよ?」

 剣士ぽい子も彼女の肩をつかんで軽く揺すって止めに入った。

「……わかったわ」

 それで食ってかかるの止めたらしい。

 残る一組に対して、試験官はため息をついてこっちをチラッと見た後向き直った。

「……救出要請が出るパターンは、試験前に説明したはずだ。それにな、そもそもギルドに入るときも説明したはずだ、『ダンジョンや期限付の依頼を受けた場合、期限後丸二日以上たった場合、ギルドが救出要請をかける場合がある』と。必要の無い場合は事前に申告しろ、そこまで講習で話したはずだ」

 私はぶるぶる首を振った。

 聞いてないぞ!

 ソードを見上げると苦笑した。

「……そういや、講習なんてのがあったな。すっ飛ばしてたわ」

「それ、大事じゃないか? 私は今の話、初耳だぞ!」

「俺がついてるからどーでもいーだろ」

 よくないだろ。

 今度講習を受けてみよう。そうしよう。

「そんなん受けてねーよ!」

 仲間がいた、オッサンだけど。

「とにかく、間に合いもしなかった救出で罰金なんて払う必要がねーだろ! 俺は払わねえからな!」

 もう一人は何か言う気力も無いようで、ぐったりと座ってる。

 パーティメンバーが死んだのが堪えてるようだ。

 というか、こっちの反応の方が私が知ってる普通だ、なんであのオヤジはあんなに元気なんだろ?

「……ソード、罰金ってつまり、依頼達成金のことだろ? アイツがゴネ得したら、依頼達成金が支払われないということか?」

「さーな。そりゃ、ギルド次第だ。ギルドが『救出されてないっつってるから達成金は支払わねぇ』って決定をしたら支払われねーし、そうじゃなきゃアイツがどうしようが支払われる」

「ふーん……。……なあ、お前、もしかしてこういったことがしょっちゅうあったのか?」

「あぁ、しょっちゅうあったな。ちなみに逆もあった」

 逆?

 首をかしげた。

「俺を救出した、っつー連中が出てきて、依頼達成金を請求してきた」

 え、そんなこと出来るの?

「いつの間にやら俺は遭難してることになった。その当時パーティを組んだ連中が、遭難届を出し、ギルドが受諾。依頼を出したらすぐに依頼が受けられ、俺はその依頼を受けた連中と途中で合流。何も知らないままギルドに戻ったら、依頼達成金を支払えと言われたわけだ」

 ワオ。

 確実に仕組まれてる。

「払ったのか?」

「お前なら払うか?」

「払わずソイツらを皆殺しにするに決まってるだろう、当たり前のことを聞くな」

「ちょっと? 俺は皆殺しにはしてないよ?」

 しとけ。

 ……と、試験官がごねてるオッサンを冷たい目で見下ろした。

「払わない、と。了解した。じゃあ、今後一切ギルドはお前から『どんな依頼も受け付けない』」

 男が固まった。

「……なんだと?」

「ギルドの方針に従えない、ならギルドも相応の対応を冒険者にするってことだ。気に入らなけりゃ冒険者辞めるなりギルドを抜けるなりしろ。特に今回のは、仲間を死なせたのはお前の責任だ。……助けが間に合わなかった責任だぁ? お前、冒険者ナメてんだろ? 冒険者は助ける側なんだよ! 助けられて当たり前っつーなら、冒険者辞めて村人やってろ!」

 あ、やっぱみんなそう思うんだ?

 …………うん? なんか大事なことを言った気がするぞ?

「罰金を払わないと、ギルドが依頼を受け付けなくなる」

「そうだ」

 じゃあ、払わなかったソードは?

 見上げたら、ソードが答えた。

「……その通り。俺は今も、ギルドに依頼を出せないし、救出要請も出ない」

「つまり、二度とその手口ではめられないということか?」

「その通りだな」

 ソードが苦笑した。

「ふーん……。なら、私もそうしてほしいな。みすみすその手口を使われると、ソイツの救出要請を出させるために人が立ち入れないような山奥にさらって首から下を地面に埋め込んでやりたくなる」

「お前、過激!」

 叫んだ後、頭をくちゃくちゃにされた。

「ま、俺がヤバくなっても俺を救出出来るやつとギルドが連絡取れるとは思えねーし、お前のことは俺が助けてやるからな。ギルドに頼ることはないな」

「いや、私がどうにかなったとしてもお前は助けにこなくていい」

 手が止まった。

「私がダメなときはお前でもダメだろう。わざわざ無駄死にするな。私はこの世界に未練が無いし、もしも私が死ぬときは禁呪の魔術を使う予定だ。近くにいると汚染されるから来るな。……って、いたたた!」

 グリグリしてきた!

「なぁ~にかっこつけてんだよちびっ子が! 黙って大人しく助けを待ってろ!」

 だから、来なくていいって言ってるのに。

「返事は?」

「来なくていい。いたいいたいいたい」

 グリグリされる。

「……そういうお前は来てほしいか? お前だって、自分がどうにかなったとき助けられそうなのは私くらいだろう?」

 手が離れた。

「……どうすっかね。そういうシチュエーションはもはや想像つかねーけどな」

「陥れられるくらいだろう? その時は私が関係者全員皆殺しにしてやろう」

「やめて、お願い。お前、本気でやりそう」

 お願いされたし。


 少女たちは持ち物をギルドに持ち込み換金してどうにか工面し、オッサン共は借金奴隷となった。

 奴隷とか!

 びっくりしたら説明された。言葉が悪いだけで、単に無給で仕事、住み込み食事付き、ってことらしい。

 やっぱりギルドの依頼拒否は厳しいらしい。

 冒険者辞めて他の職業になるにしても、冒険者ギルドにお世話にならないことはなく、続けるとしたらもう助けてもらえないもんね。

 私はというと、Cランクに無事上がったので、次はBランクを目指している。

 講習も受けてきた。

 私と同い年くらいの子たちが多かった。

 そしてなぜソードが受けなくていいと言ったのか分かった。

 武器の使い方や採取の仕方などがメインだった!

 本当に気をつけてなくてはいけないところがほとんど説明されないし。

 いや、説明はしているが、聞いてない。最後にちょろっと説明されて終わり。

「……一番大事な部分は最初に説明した方がいいと思う。集中力の途切れた最後の方にしてどうするんだ」

 最後の質疑応答のときに、意見しておいた。

 周りはキョトンとして、ギルド職員は苦笑した。

「依頼をこなしていけば自然と身に沁みるようになる」

「奴隷落ちして身に沁みた奴だっているじゃないか。そうならないように講習を受けているんだから、武器の使い方より重点を置いてくれ」

 武器の使い方なんて、それこそ一日でどうにかなるものじゃないだろうに。

 「救出されて罰金払うことになるのが嫌なら最初から断れ」ってのは一度言われれば理解出来るぞ。


          *


 戻ったら、「どうだったー?」と、日が落ちる前に飲んだくれてるオッサンが言ってきた。

「モテた!」

「はぁ?」

 講習が終わって、ほぼ全員からパーティの誘いを受けた。

 「もうパーティを組んでいるやつがいて、講習の存在を知らなかったから受けた」と断ったら残念がられた。

「少年少女たちにモテモテにモテたぞ! どうだ、私は人気があるのだ!」

 胸を張ったら気のなさそうな眠い態度でとんでもないことを抜かした。

「無い胸を強調しても腹が突き出るだけだぞ」


 って!


「気にしてることを言うなぁ~‼」

 ……今世の私、なんか、前世の私と違う。

 二次性徴出てる!って言い張ってるけど……前世の私の同い年だった頃、もうブラジャーつけてたぞ? 生理もあったぞ?

 ちょっとくびれた気がするが、つるっぺたなんだが?

 ソードが笑ってバカにした。

「気にしてたのかよ。中身はオッサンで見た目は少年って、女の要素が欠片もねーもんなー?」

「うるさーい! ……いいんだ、その代わり、脚が美しいからな!」

 前世の私は巨乳だったが、脚が太かった。

 所謂土偶体型だ。

 この身体は、ぺったーんとしているが、脚はとても美しい。

 ソードの目の前に脚を突き出してやった。

 すっごい迷惑顔をしているが。

「この身体の私は、脚で勝負する」

「その子供体型でいっちょ前に誘惑してるつもりかよ、ハッ! 悪いな、俺は巨乳派だ。小僧の脚に欲情する趣味はねえ」

「お! お前、巨乳派か! 奇遇だな!」

「……オッサン、お前もか。そりゃ奇遇だな」

 気のなさそうな返事をしてるけど。

「違う。 前世の私は巨乳だったんだ」

 また迷惑そうに見られた。

「脚は太かったんだけどな! 上半身と手には自信があったぞ!」

「なんの自信だ。お前、子供のくせにエロオヤジ知識がハンパねーんだよ。自重しろ」

「見た目の話だ! 鎖骨から胸の辺りの滑らかさ白さはよく褒められた。当時の恋人は脚派だったんだが――」

 やつは胸はないに越したことはない、が、脚が綺麗な年上の女がいいと言ってた。

 それなのに歳の離れた脚の太い私と付き合ったんだから理想と現実は違うんだろう。

 ――あ。

 ぽたりと、雫が垂れた。

 ソードが驚いた顔で私を見ている。

 その顔がにじんでいる。

 ――あぁ、そうか、私は、その男が好きだったのか。

 この世界に来て顔が思い出せないが、性格が悪いやつだったのを覚えてる。

 随分喧嘩した。

 それでも長く付き合っていたんだから、お互い喧嘩が好きだったんだろう。

 やつはどうしているんだろうか、私と同じように転生したんだろうか。

 ……気がついたら、ソードに抱きかかえられていた。

 頭をなでられている。

「……なんだよ、その男に会いたいのか?」

「違う。ちょっと感傷的になっただけだ。……せっかく綺麗な脚になったのに、見せびらかしたかったのに、「見た、良かったなー」と邪険にしながら褒めるやつはもういないと……思い出しただけだ」

「よくあることだ」

「そうだ。だから、お前が気にすることじゃない。……お前こそ、気に病むな。私のことも、こないだの連中のことも」

 ピクリとソードの身体がこわ張った。

「酒に含まれる[アルコール]という成分は、思考能力を鈍らせる。忘れたいことを一時的に考えなくしたり、正常な判断力も奪われるから普段考えないようなことを考えたり、行ったりする。それを楽しいと思うならいいが、楽しくないなら酒を飲むのも女に逃げるのも止めろ。どうせなら、酔った勢いで下半身丸出しで通りで踊りまくるくらい弾けて騒げ」

 途端に拳固が来た!

「お・ま・え・は! 発想がおかしいんだよ! そんな真似、Sランクの俺がやれるかよ!」

 いてててて。

「……お前って、かっこつけてるのかかっこつけてないのかわからないやつだな。大丈夫だ、酔っ払いはそのくらいのことを平気でやるものだ。私のいた世界はそうだった」

「何ソレお前のいた世界ってコワイ」

 ……まぁね、そんなにたくさんはいなかったけど、なんでか私の周りにはいっぱいいたよ?

 盗んだ自転車バイクで(駅前を)走り出して交番に突っ込んで捕まった酔っぱらいとかいたよ?

「あと、女に逃げるのはいいが、責任は取ってやれ。具体的に言うと結婚してやれ」

「俺が女とどうにかなったって前提で話を進めるの止めてくれる?」

 だって、朝帰りしてるじゃんか。

 帰ってきて、私に見つからないようにそーっと身体を洗ってるのも知ってるよ?

 身体を起こしてソードの両肩に手を置いた。

「大丈夫、私の中身は大人だ。性の知識はバッチリだ、男のメカニズムなども理解している。お前が行きずりの女と何をしていたか詮索しないし、それについて説教する気もない。でもな、この世界、子供を作らない方法でセッ…交尾をすることは出来ないんだろう? 残念ながら、私は愛のない二人が性欲に負けて交尾して出来た子だ。そういった子の痛みはわかる。なので、責任を取ってかわいがってやるように!」

「だから、やってねーから。勝手に話を進めて責任取らせないでくれる?」

 そんなに責任を取りたくないのか?

 でも、被害者が出たら私は無理やりにでも取らせるぞ?

 むぅっとしてるとソードがニヤリと笑った。

「お前と結婚する男は苦労しそうだな。ま、〝男〟と結婚する、かどうかがまず問題か」

 からかったつもりかな?

「案ずるな。私は男とも女とも結婚する気は無い。私の血筋をこの世に残すことはなく、誰かと番になる気などさらっさらない。運良く生き残れたらリョークに囲まれて余生を暮らす予定だ」

 ソードがまたこわ張った。

 ……その後、また抱きかかえられた。

「……なら、俺と二人でのんびり暮らすか。奇遇にもな、俺も結婚する予定もないし、子孫を残す気もねぇ。強い敵と戦い続けて、いつか勝てない敵とぶつかり合って死んでくんだろうと思ってたけど、生き残ったなら、お前と暮らすか」

 …………何を言ってるんだろう。

「いや、お前は責任取ってやれ?」

「だから、やってねーよ‼」

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