第32話 よくある登場の仕方だよ(痛くないっ!)

 はい、お約束の登場をしたインドラでーす。

 ここは使いどころでしょ? ちょっとヤバそうだったし。

 こういった、戦いに横ヤリを入れて良いモノかってのは教わってなかったからどうしようかと思ったけれど、助けなくて死んだらやっちゃった感があるもんね、ダメだったら怒られよう。うん。

 そもそもが、大した敵じゃなさそうなんだけど、どうしたんだろう、疲れてるのかな?

 まぁ、見るからに疲れてそうだよね、地図のないワクワク感を味わいすぎて迷っちゃいました、みたいな?

「そ、ソイツら、ゴブリンの進化系よ! ゴブリンウォーリアとゴブリンメイジ! 一筋縄じゃいかないのよ!」

 解説ありがとう。

 ほう、強い……のか? 私を見てビビってますが?

「……強くは、なさそうなんだが……」

「何敵をナメてんのよ! そんなんだと簡単に死ぬわよ‼」

「でも、連中は私に脅えているようだぞ? 魔物は強者が解るから、私を見て脅えるということは、弱い敵なんだ」

「……え?」

 驚いたように魔物を見ている。

 うーむ、脅えて攻撃してこないものを倒すのは私の流儀に反するなあ。

 流儀ないけど。

「今ならまだ見逃してやる。立ち去れ」

 って言ったら、あたふた逃げていった。うん、弱い。

「ちょっと⁉ どうして逃がすのよ⁈」

「私の今回の依頼は遭難した受験者の救出だ。魔物の退治ではない。それに、脅えて無抵抗の魔物を殺したらかわいそうだろう。脅えた魔物を甚振って喜ぶのは下賤な性癖だぞ」

 全員に、唖然とされたので、どうやらまた私はやらかしたようだ。

 ……放置!

 私は通信機型魔導具を取り出した。

「ソード、こちらインドラ。救出対象パーティ一組、救出完了」

 ……ガチャガチャと『おい、リョーク、こっちはどう会話するんだよ』『え? コレ? つーかお前が話す?』『いーから、俺が話したいの!』って声が全部拾えてるけど。

『インドラ、聞こえるか?』

「聞こえるよー」

 『お、聞こえるってよ!』『え? お前が話したい?』『いやいいだろ、俺が話すって』って聞こえてくるんだけど。リョークとフツーに会話してるお前が私とリョークのやり取りを白い目で見るな。

『ゴホン。こちらは……完了、と言っていいな。多少トラブったけど、とにかくリョークのポッドにほうり込んで帰還する』

「えーちょっとー。私のかわいいリョークに、汚いオッサンたち入れないでくれるー? ソイツら相当臭かったよ? 絶対身体を洗ってない!」

『布に包んでくから安心しろ! とにかく、帰るからお前も戻ってこい!』

 怒られた。

 肩をすくめると通信機をしまって、少女たちと向き合った。

 まだ唖然としてる。

「えーと、まず怪我の手当をするか」

 刺されてる子がいるので、その子の手当てをした。

「……これって、何?」

 ソレ聞いちゃう?

「……あー、ここだとなんか回復薬とかいう薬で何でも治すんだって? 私はソレがあまり好きじゃない。治療は、自分の免疫機能でゆっくり行った方がいいと思う。ま、そうはいっても放置はよくない。傷口はちゃんと真水で洗い、その後油脂で塞ぐと自分の治癒力で綺麗に治るぞ。これは、私が作った解毒、抗菌、抗炎症、さらに肉芽形成と美肌効果のある特製の塗り薬だ。これを塗ってこのゼリーパッドで覆って安静にすれば、一週間で綺麗に塞がるだろ、たぶん」

 怪我したことないから知らないけど。

 でも、塗り薬は別世界の知識を活かして材料見つけて作った特製のだから、効くと思う。

 塗って、やはりお手製のゼリー状のパッドを貼った。

「じゃあ、あとはまとめて運ぶだけだな」

「「「は……?」」」

 特製の背負子を取り出した。

 長椅子型で、少女三人なら余裕で座れる。

「……ちょっと待ってよ、もしかして、私たち、それに乗って、アンタが背負って歩くつもり⁈」

 気の強い少女が背負子を指差してぷるぷる震えてる。

「もしかしなくてもそのつもりだな。安心しろ、少女の体重は羽よりも軽いと相場が決まってるんだ」

「「「んなワケあるか‼」」」

 決まってるんだ!

 私の体重も羽より軽いんだ!

 嫌がる少女たちを座らせて束ねて括り付けた。

「じゃあ、ちょっと揺れるだろうから、舌をかまないようにしろ。伝えたからな?」

「ちょっと待ってよ、嫌、無理だから!」

「止めて、ホント止めて、無理!」

「おい! 私は怪我人なんだぞ⁉ 無理してより大惨事になったらどうする⁉」

 ギャーギャーうるさいが、遮音魔術で聞こえなーい。

「じゃあ、ちょっと我慢しろよ。あと、乙女の意地で、吐くな」

 背負って、全力疾走した。

「「「ぎゃーーーーーー‼」」」

 五分くらいで着いた。


「お、着いたか」

「悪い、怪我人が出て手当てしてた」

 ソードはもう着いてた。

 ポッドを開けて中からオッサンたちを出してる。

「……また妙なものを作ったな。つーか、ちょっとかわいそうじゃねーか?」

 背負子に括り付けられて、真っ青になってる少女たちを見て言った。

「むしろ、お前も使え。こっちの方が安定する」

「やなこった。ションベン漏らされたら大惨事だろーが」

 それは考えつかなかったな。

 ……小便か。

「知ってるか? 少女から流れ出る水は『聖水』と言ってな、一部の連中が高値で取引をするという」

 ふと、思い出したことをニヤリと笑って伝えた。

「おいオッサン、変な貴族の知識広めるな」

「違う、別世界情報」

「尚悪いわ!」

 ……ふと、ポッドから出されてるオッサンたちを見たら、何人か死体だった。

「間に合わなかったか」

「生き残ってたのは二人だ」

 ボロボロの二人が転げ出てきた。

 転げ出てきた途端ソードに食ってかかった。

「お前のせいだ! お前が! もっと早く救出に来てたら! ムーニも! シグも! ニックも! 死なずに済んだんだ!」

 …………。

 何言ってんだこのオッサン?

 とりあえず蹴っといた。

「ぐはっ‼」

 ソードが頭をかく。

「お前、蹴るなって。せっかく救出したのに死ぬだろうが」

「救出したんだから依頼は完了だ。あとは好きにしていいだろう。助けたやつが敵に回ったり仇で返してきたりするのはテンプレだ。助けたところで関係を切り、気に入らなかったら殺す」

「殺すな」

 止められたので渋々うなずいた。

 死なない程度にしておくか。

 オッサンを見た。

「おい、お前。パーティメンバーが死んだのが、『助けに来たのが遅い』という理由が責任というなら、Cランク試験を受けたお前等にはどれほどの責任があると思うんだ?」

「な、なんだと⁉」

「仲間を守れる技倆もないくせに、あんな簡単なダンジョンで仲間を死なせたお前の責任はどれくらいなんだと聞いている」

 ソードが額で手を打った。

「おい、勘弁してやれよ。仲間が死んで余裕がないんだ、誰かの責任にして当たり散らさなきゃやってられないってのをわかってやれ」

「それでお前の責任に? 意味がわからない。……本当にこの世界の人間は利己的で、他人を陥れ罪を擦り付ける連中ばかりで反吐が出そうになるんだ」

「……おい」

 ソードが肩に手を置いた。

「余裕がないから他人のせいにするのか? そうしてお前が、お前のせいではないのに責められるのか? どうしてそうなるのか理解出来ない。……お前、説明しろ。お前は、なぜお前のパーティメンバーが死んだのが『助けに来たのが遅い』せいなのかを答えろ。お前、ソードに助けを求めたのか? 私はずっと傍に居たが、お前からそんな言葉を聞いたことがないぞ? 助けに来るのが遅い、ということは、お前はソードに少なくとも「全員を助けてくれ」と依頼を出し、ソードはそれを受諾したんだよな? もちろん、死んだ場合は責任を取る、という言葉も添えてな。……そんなやり取りは知らないぞ? ほら、とっとと答えろ」

「……うるさい! そもそもお前があんなに早く行くから、ペースを乱されたんだ!」

 うわー、今度は私のせいにしてきたよこのオッサン。

 途端にソードが蹴って、オッサン吹っ飛んだ。

「……殺すなと私に忠告したのはお前だった気がするが」

 ツッコんだが無視された。

「……まだ俺を責めるのは許せる。俺はSランクだからな、救出作業に出たときは生きていて間に合わなかったのなら、その責めを受けよう。だが、なんで同じランクを受験した、お前と無関係の冒険者のせいにしてんだよ? しかもお前、試験前にコイツに何と言ったか憶えてるか?」

 なんかソードが怖い顔で男の髪をつかみ、語るように質問してる。

「『不正受験でコネで合格決定してる』っつったよな? で、始まった後も『あんなに飛ばすなんてバカがやることだ』つって笑ってたよな? つまりは、実力もねーのにコネで受かるやつだって思ってたんだよな? で? その不正受験のペース配分知らずのおバカさんなDランク冒険者がいたくらいで、どうして優秀なお前がペース乱されたりするんだよ? あ? なんでだか、わかるように言ってみろよ‼」

 蹴られた男、呻きながら泣き出した。

 ソード、舌打ちすると地面にたたきつけて足蹴にしてるし。

 私は首をかしげて男を見下ろした。

「と、いうかな、パーティメンバー死んだの大半がコイツのせいってことじゃないか? つまりは、余裕がないからじゃなくて責任を逃れたいから必死で私やお前に押しつけてるんだろう。利己的で責任転嫁を得意とするプライドが肥大したオヤジがよくやる手口だな」

 別世界の上司とかな! 思い出した。

 ふと見ると、周りが何とも言えないような顔で私たちを見ている。

「……ご立腹は尤もですが、そのくらいにしてあげてください。コイツらにはこの後のこともありますから」

「……そうさな」

 ソードは大きく息を吐き出すと、踵を返す。

 …………なんかソード、様子が変だな。


 馬車で帰途に就くらしいが、あんなに揺れる乗り物には乗りたくない。

 ならリョークに乗る!

「怪我人や体力のないやつは背負って運んでやるぞ? お漏らしと嘔吐の不安がある場合は気絶させてから乗せるから安心しろ」

 って親切心で言ったのに、超高速で首を振られた。

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