第30話 試験、開始! そして終了! さらに依頼!
ともかく試験だ。
「では、これから試験の内容を説明する!」
試験官が説明しだした。
――要は、ダンジョンに向かい、ボス部屋に行ってボスを倒し、さらに奥にある札を取り、帰ってくる、ってことだ。
ボス部屋の奥か……ダンジョンコア様のいるところかな? うっかりにでも壊さないようにせねば!
気をつけるのはそれくらいだな。
「リョーク、全て回避して私に付いてこい、わかったな?」
「あいさー!」
うん、かわいい。
ナデナデした。
「…チッ! あんなモンスターまがいのゴーレムまでもらってんのかよ、Sランクのお気に入りはなんでも持ってて羨ましいぜ!」
とか聞こえてきたけど……こんなかわいいリョークをなぜモンスというのだろうか。
「では、今から開始だ!」
その声に
「おら、チート野郎に負けねぇぞ!」
「行くわよ! あんなやつに絶対負けない!」
とか声が聞こえてきたような気がしたけどその声は遠い。
「ギャハハ、バカじゃねーの、あんな速さで突っ走ってドコ行く気だよ?」
「ダンジョン潜ったことねーんだろ、縁故受験サマはよ!」
遠くの方から聞こえてきた気がしたけど、むしろそのスピードで今日中に終わるんだろか?
ダンジョン入り口付近で試験官らしき人に「うわっ!」とか驚かれたり、ダンジョン内でも「何だ⁈」とか驚かれたりしたけど、無視。
立ち止まらない縛りプレイ中。
そこそこ広いダンジョンを走り抜け、ボス部屋。
開けて、瞬殺。
ボス部屋抜けて、奥に……あ、人がいた。
「なんだ⁉」
「受験者です、札ください」
「え、受験者って……。始まったのいつだ?」
「結構前かな? ……止まらずにクリアって縛りプレイしてるんだけど、止まっちゃったな」
話すので止まってしまった。
まぁしょうがない。
人から受け取るとは思わなかった。
「え? あ、君ってもしかして、Sランク冒険者ソードさんのお弟子さん?」
…………。
「弟子じゃなくてパートナー。やつから何も学んでない。全て我流。それはともかく、最速で帰ってこいって言われてるから帰りたいんだ。札ください」
「あ、ごめん。……確かに最速だな。一番乗りだよ」
札を渡された。
「そっか。ありがとう」
「帰り道も気をつけろよ!」
「わかった。ダンジョンコア様によろしくな!」
笑った試験官らしき人に手を振って別れてまたダッシュ。
引き返したとき、絡んでこなかったパーティのひと組と遭遇したけど頭上を飛び越えた。
「え⁉」
「もしかして、今の⁉」
「がんばれよー。その道で合ってるぞー」
って言い捨てて通り過ぎた。
ダンジョン出たとき
「え⁉ まさかもうクリアしたのか⁈」
とか言われたので札を振った。
到着。
ソードがのんびりと私を見て、試験官はボーッと私を見た。
「そういえば、札を持ってきた後のことを聞いてなかったな」
試験官が口を開けたが、何も言わない。
代わりにソードがしゃべった。
「ちょっと遅かったな」
「途中で立ち止まって札をくれる試験官の人と話し込みました。ごめんなさい」
やっぱり遅かったか。謝った。
「冗談だよ。つーか、話し込んでこの時間か。ほぼ走り抜けてきたんじゃねーか」
「そういう縛りプレイだったからな。ちょっとは面白かったぞ? 冒険してる気になった」
「そーかそーか、良かったなー」
うん、投げやり。
ようやく試験官の人が我に返ったような感じになり、手を出した。
「……札を、預かります」
札を渡した。
…………。
「あとは?」
他にはないのかな? コテン、と首をかしげる。
「……試験結果を、お待ちください」
「どれくらいで出るんだ?」
試験官、固まったけど、なんでだろ?
「…………。全員が終わったら、試験官全員が集まって、ギルドに戻り、一時間ほどで結果を教えられると思う」
そっか。
個別じゃなくて全員の中から選ぶ方式なのか。
ソードが伸びをした後、荷物を持った。
「しょーがねーから待つか。しばらく野営が続くぞ」
「それは望むところだが、そんなにかかるか?」
「俺やお前基準で測るな。普通、二~三日かかるもんなんだよ。しかもお前のスピードで罠や敵を突破できる常識外れなんざあんまいねーよ。……もうそろそろ全員ダンジョンに潜っただろ。入り口で待とうぜ」
移動して、入り口にいた試験官と合流した。
「あ! さっきの!」
指差されたし。
「やっぱ見間違えじゃなかったか……。モンスターに追われてるような、それにしたって助けを求めたりもしてなかったし、テイマーがいるとは聞いてなかったが、テイマーかと……」
「リョークは、ゴーレムだ。リョーク、試験官に挨拶しなさい」
「初めまして! ボクは、リョーク!」
「それも基本動作か?」
「もちろんだ」
かわいいかわいい。
「しゃべるゴーレム……」
「声自体はコイツの声だけどな」
ソードが私を指差した。
「私の声を録音して、音声を流している。……ちょうど良かった、リョークに少し覚えさせたい。
試験官、Cランク試験の説明をリョークにしてくれ」
「え?」
「Cランク試験 ハ 冒険者Dランク ガ ウケル ダンジョン ニ 潜ッテ 札 ヲ 取ッテクル」
「「ええーっ⁈」」
あ、聞いてたんだ?
「よしよし、偉いなリョーク。さっきの説明を聞いていたのか」
「ボク、偉い?」
「偉いぞー?」
「わーい、褒められたー」
なでる私と小躍りするリョークを、ソードがすっごい冷めた目で見てる。
「感心するなよ。コイツは『仕込み』だ。元々そういう動作をするようにゴーレムが出来てんだよ」
試験官に言ったら「それはそれですごくないですか⁉」って感心された。
興味を持ったらしく、あっちこっちをしげしげと見られる。
「これは、どこで手に入れられたのですか? やはりダンジョンで?」
「私が作った」
「「は?」」
「私が作った」
シーン。
「これはなぁ、私がとってもとっても好きだったお話に出てくる多脚戦闘ゴーレムなんだ。すっごく作りたかったんだ。いつか魂が宿って、そのときは私に歌を歌ってくれる約束なんだ」
リョークにスリスリナデナデ。
試験官、ドン引き。
「すまんな。コイツは一言で言えば、イカレてる。魔導具作るやつはこんな感じのイカレた連中ばっかりなんだ」
失礼な!
*
五日後。
試験官からまだ戻ってこないパーティの救出要請が出た。
「んじゃ、行くか」
「ん」
「受験者に救助の依頼を出すのは本末転倒な気はするのですが……」
「どーせ合格だ、コイツが不合格ってならSの俺がランクの見直しになるだろうさ」
言い捨てたソードとダンジョンに突入した。
「思えばフラグだったなあ」
戻ってこないパーティは二組。
私に絡んで来たパーティだ。
絡まなかった二組は、特にすれ違った方は二日経たずに戻ってきた。
「お前に絡んだことか? つーかよ、不正がどーの依怙ひいきがどーの、冒険者にそんなモンが通用するって考えてる自体がおかしいんだよ。大体、他人を気にしてどーすんだよ? 俺たち冒険者は、己自身の能力を資本にして、依頼をこなしてくだけだろーが。お前が依怙ひいきでCランク上がったからアイツらが上がれなかったなんてことねーんだよ。そんな甘い考えで、生き残っていけるほど甘い職業だと思うなよ」
え、そんなハードモードなの?
まぁ、ガテン系職業だからね、某狩りゲーみたいに寄生してレベル上げしたって実力に合ってなきゃ村クエだってクリア出来ないよね。
途中までやってきた。
「さて、二手に分かれた方が効率がいいが、お前と離れるのは不安しかないんだよなぁ……」
ソードがすっごい逡巡してるんだけど。
「安心しろ、問題ない」
「ありまくりだわ! お前の煽りスキルが炸裂したら、救出対象とむしろバトルになるだろうがよ!」
「その場合は気絶させる。リョークを連れて行ってくれ、私は一人で行く」
「逆だろーが、オイ」
「リョークと私は離れても会話出来る。状況をリョークを通してお前に教えるし、リョークも私も互いがどこにいるか把握できる。お前がリョークを連れて行く方が効率的だ」
「…………。わかったよ、情報を逐一送れ」
苦い顔をしたソードが言った。
「というか、そこまでのダンジョンではないだろう? 地図を見ながらじゃ、すごくつまらないぞ? 攻略法がわかっているゲームなんて、面白味に欠けるよな」
ゴイン!
拳固が炸裂した。
「ゲームじゃなくて、救出だ」
「わかってるよ……。だから安心しろって言ってる。私には、全部『見える』」
ソードがため息をついた。
「……その慢心に、足を取られるなよ?」
「お前は心配しすぎだ。私は人生を楽しんでるだけだ」
ソードの頬をなでた。
「お前こそ心配だ。私に出来ることは限られてるし、お前に出来ることも限られている。そして、何を考えどう行うかも私の自由、私はそう『わかっている』。お前はどうだ?」
「…………」
いきなり抱きしめられた。
「下手打って怪我すんなよ?」
「お前もな。救出対象の連中より、お前の方が大事だ」
「……お前って、唐突にそういうことを言うよな。いっちょ前に俺を口説いてんのか?」
「どうしてそうなる」
心配してるのになんで口説くとかいう話になるのだ?
ため息をつかれ、離れた。
「ガキが大人の心配すんな」
「身体は子供、中身は大人」
「そういえば、オッサンだったか」
なぜ、男にする。
ソードは笑うと、一方の道に向かった。
さて。
私の方はーっと……結構遠いところまで行ってるな、三人か……死人がいなけりゃ少女たちか、当たりだな。
口の悪いオッサンは、同じオッサンに任せようっと。
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