オールラウンダーズ!! 転生したら幼女でした。家に居づらいのでおっさんと冒険に出ます(web版)

サエトミユウ

幼女転生編

第1話 目が覚めたよ

 …………ハッ!!

 目を開けて最初に飛び込んできたのは暗く寂しい部屋だった。

 それをぼんやりと見ているうちに自分が今まで長く眠っていて、夢を見ていたのに気がついた。

 それは覚醒のような夢……夢? なのかな? 今ここで目を覚ましたことが夢のような、夢を見た。

 別世界で、別の人間として生きた記憶。生まれてから死ぬまでではないところが、夢なんだろう。

 目覚める直前に何かあった気がするんだけど……うーん、思い出せない。さらに追加で思い出したくない現実を思い出した。

 ――私は、ここの世界で、ここに住んでいる人間に、嫌われている。


 この世界の私は【インドラ・スプリンコート】という名前をつけられている。

 そして、家自体はそこそこ裕福な家庭に生まれたが、その裕福さをまったく生かせない環境にいる。

 五歳の子供(私)が寝込み、目を覚ましても誰もいない、暗い部屋に一人、ということがそれを物語ってると思う。

 両親……もう両親とは呼びたくない、産みの親らしき男女の、女の方は死んだ。

 なぜ生んだんだろう? と不思議に思うほどに私を嫌っていた。私に呪詛を浴びせ続け、産みの父親らしき男を待ち続けて死んでいった。

 つまり、男の方は女に関心がなかったらしい。関心がない割になぜ子作りをしたのか。交尾しなければ生まれなかっただろうに。性欲に負けたのだろうか。

 男は別に愛人を囲っている。

 愛人宅に行ったきりだったが、私の産みの母親が死に、そして愛人も死んだらしい。この屋敷に戻ってきた。

 子連れで。

 愛人の娘は大体私と同い年だ。まぁ、そこら辺はどうでもいい。

 男は私を毛嫌いし、愛人の娘をかわいがり私を罵倒する。女の嫌いは憎悪が含まれていたが男は純粋に嫌いなようだ。

 愛人の娘は私を嫌ってはいないが、私の境遇にまったく同情することはないらしい。自分がむけられる愛情と奉仕を当たり前に受け取り、私にもそれを求める。マイペースかつ鈍感すぎる人間だ。思いやりもなさそうだ。

 男は貴族だ。私を産んだ女ももちろん貴族だ。

 愛人とその娘は平民だったようで、マナーを知らない。だから愛人は死ぬまで屋敷には入れなかったのだが、娘は貴族の子。屋敷に入れる。

 だがマナーを知らないため、恥をかく。そして、恥をかいたことを私のせいにする。なので一緒にいたくない。

 恥をかかないように学べばいいじゃん。私の場合、母親らしき女に鬱憤ばらしのようにマナーを(物理的に)たたき込まれたので、出来るようになったのだぞ!

 同じようにすれば良いのにあの男は面倒なのか、それともかわいがっているフリをした虐待なのか知らないが、マナーを教え込もうとしない。

 いや、私への虐待なのか。マナーを知らずに恥をかかされたのはお前のせいだと私を虐待出来るから教えないのか。

 ……たぶん、別世界の夢を見るまでの私は相当追い詰められていたのだろう、病んで倒れた。

 そして夢を見て、覚醒。

 諦  め  た。

 夢の自分もさほど両親に愛されていた感じはなかったが、それでもまぁ、今よりマシだな。マシだけど、夢の私は思っていた。

「早いとこ独立して一人で生きていくぞ!」と。

 今、私も決意する。面倒な周りの人間はとっとと見限って、早いとこ独立して一人で生きていくぞ!

 貴族として生まれたからには、自由意志の結婚はほぼできない。

 そのままいけば、私もあの男の駒としてどっかの誰かと結婚させられるだろう。

 が!

 知ったことか!

 貴族の自分を捨てる。豊かな暮らしなど、今だってしてない。

 ……だが、女で子供の私には、この世界だとそれ以下の暮らしになりそうだ。

 とにかく、体を鍛えて丈夫にし、強くなり、体を資本にして稼いでいこう。私には別世界の知識がある。

 この世界でどれだけ役に立つかはわからんが、別世界の私はなんと剣術及び格闘術を学んでいた。血の気が多かったらしい。

 あと、この世界には魔術がある!

 らしい!

 ヒュー!

 ファンタジー!

 あの男に頼んでも学ばせてもらえないだろうし、全て独学になるが、とにかく、勉強と体力作り、さらに別世界の知識を駆使してものづくりしよう。

 別に天下とったる! などとは思ってない。別世界の私くらいに普通に暮らしていけたらと思う。

 あと、ストレスの元は近くに置いておきたくない。別世界の私は確か、仕事上のストレスが原因で体を壊して辞めたような……。


 ベッドから起き上がった。

 ……ベッド、固いよね。

 木製の台の上にマットレス敷いて、その上にシーツ。

 ……せめて布団がほしいなぁ……。まぁ、そこら辺もチート出来ればチートしたい。

 でもまだ五歳の子供だもん、今は基礎を固めないとね!

 起き上がり、周りを見回す。うん、誰もいない。

 ――元々私付きのメイドはいたけれど、あの男が屋敷に来てから全部取り上げられた。そして愛人の娘付きにして、私には新人メイドを一人つけた。

 新人メイドは新人なので本来は雑務から始めて教育され、ある程度経験を積んでから適性を見て女主人や子女につけられるのが常なのに、全てをとびっとびに飛ばして私の側付きに抜てき。

 当然、出来るワケがない、適性どころか教育すらされてないんだから。

 だが、できないのは新人メイドをつけた男の責任ではなく私の責任なんだとさ。

 お前の指示が悪い、教育が悪い、と虐待のいいネタにされる。

 もう反論するけどな!

 あの頃の私は死んだ。今の私は別世界の知識をもった体は五歳、中身は大人! の私なのだ!

 ……年齢を覚えてないんだけど。さて私、いくつまで生きたんだろうな?

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