第30話 念願のスキルをアンロックしたぞ……って、ええ?
朝である。
本日はこの世界に……局所的ではあるが、スキルの概念が前文明ぶりにアンロックされる記念すべき日だ。
ミー君は既にたたき起こし、まずは先に俺とミー君を対象にスキルの概念をアンロックしようかと、俺の部屋で二人向き合っているところなのである。
「じゃあ……ナツくん……いくよ……」
「ああ……ミー君……来い……ってなんかえっちだな!」
「ば、ばっか! ナツくんのばか!」
何時ものやりとりを終え、いざスキルアンロック!
ミー君が俺をじっと見つめ、ムムムっと唸っている。そんな真似をしなくても何かコンソール的な物をピピッとやって出来そうなもんだけど違うのだろうか?
「……あの……ね……ナツくん……」
「どうした? 唸っていたが、アンロックって精神力を消耗したりすんのか?」
「え? そんなこと無いよ。コンソールをピピッと触れば良いだけだから」
「じゃあ、なんで難しい顔をして唸ってたんだ?」
「ナツくん……怒らないで聞いて欲しい……私たちに限ってスキルは既にアンロックされていたの……」
「……は?」
怒る怒らないの前に良くわからない。俺達だけスキルがアンロックされていた……? 一体それはどういう……。
「私も良くわからないけれど、神界とその関係者だから……なのかな? うんとね、今二人分アンロックしようとしたらさ『既にアンロックされています』ってエラーが出たの」
「えらー」
「うん……つまり私たちは既にスキルを身につけられる状態……ううん、もしかしたらこれまでに何らかのスキルを覚えている可能性が……」
……そう言えば、思い当たる節がある。
ヴェノムスライムの件だ。アレはもの凄く危ない毒を持っているとかギルドの本に書かれていたが、我々はその毒にやられることが無かった。
思えばこの世界に初めて降り立ったあの日、我々は毒草で死の淵をさまよった経験がある。
もしかしたらば、その経験が【毒耐性】スキルへと昇華したのではなかろうか。
他にも、ミー君はいつの間にかミー君の採取の腕がメキメキと上がっていたり、俺も家事がやたらと上達しているような気もするんだよな。
それに、ミー君が例の件で回復術をアンロックできたのも多分その関係じゃなかろうかと思う……知らんけどね。
ステータス表示さえ実装されればな……スッキリするんだけど、どうやらまだまだリソースが足らないようだから暫くはどんなスキルを覚えてるのかはお預けだなあ。
もしかすれば【鑑定】のレベルを上げれば見れるようになるかもしれんが……あれは見づらいからな……やはりここはあちこちで善行を働き、ミー君像を置きまくるしかねえな。
そんなわけで、開幕から少し躓いてしまいましたが、メインディッシュと行きましょうか。
リビングに移動し、エミルちゃんを呼んで3人でテーブルに着く。
俺とミー君が並んで座り、正面にエミルちゃんが座るという面接のような配置だ。
「さて、エミルちゃん。君にはこれからこの世界の秘密について教えてあげる」
どや顔でミー君が話し始めた。『研究好きのエミルちゃんだ、きっと食いついてくるはずさ』と、期待に満ちあふれた顔でミー君が語っていたが……多分、村の子供達に水芸を見せたときのようにエミルちゃんからちやほやされたいんだろうな。
が……しかし。
「世界の秘密? ああ、うん」
「反応が薄い!?」
エミルちゃんの反応がめっちゃ薄い。
まあわからんでもない。突然変な女に世界の秘密を教えてやろうと言われても『あ、そういうの間に合ってるんで』って返すのが普通だ。
エミルちゃんもきっと『いきなりこいつは何を言ってるんだ』と思っているに違いない。
「実は私はこの世界を管理している女神、ミューラニュールでね! そもそもこの世界に降りた理由は……で、異世界人のナツくんを……」
しかしミー君、めげない。気にせず普通に続けていく。
これにはエミルちゃんも苦笑い……いや、なんだか嬉しそうに聞いてるな……これは一応ひとつのネタとして聞いてやるかという顔か。
……
…
「……スキル機能を実装すれば鍛錬によって、新たな技能を授かることが出来るようになるんだ。
というわけでね、今回たまったリソースで取ったスキル機能をね、特別にエミルちゃんに先行実装してあげようと思うのだけれども……」
これまで黙って話を聞いていたエミルちゃんだったが、この瞬間ミー君に飛びかかった!
「きゃ! え、エミルちゃん!?」
「ほ、本当か!? 管理者殿の力を我に与えてくれるのか!?」
「管理者殿って……え、エミルちゃん落ち着いて? くっついてて良いから力……抜いて! く、首が絞まる……!」
はっと気づいて拘束を解くエミルちゃん。ゴホゴホとむせるミー君。しかし今の動き……凄かったな。アレが大精霊の力なのか? 全く見えなかったぞ……。
「えっとな、エミルちゃん。今回エミルちゃんに実装する【スキル】は近い将来この世界全体に実装する予定なんだけどさ、先だってエミルちゃんに使って貰って様子を見ようと思ったんだよ」
「なるほどな、我は実験体か……ふふ、良かろう」
「実験体て……まあ、そうなんだけど、俺やミー君にも実装済みだからな。で、ひとつ問題があってさ、現状リソース不足のせいでスキルが身についてもわからないし、どれだけ覚えたのかの確認も出来ないんだ」
「ふむ……となれば、日々の様子を記録し、成長具合を比べてみれば良いな。話に寄れば、習得した瞬間、才能を無視して能力が芽生えるようだからの」
ほんとエミルちゃんは賢いから助かるな。我々の参謀役としても大いに助けてくれそうだぞ。
「じゃ、エミルちゃん。スキルの加護を上げるね」
「うむ、お願いするぞ、ミー殿」
じっとエミルちゃんを見つめ、何やら指をひらひらと動かしている。アレは恐らくシステム管理用のコンソールかなにかが宙に投影されてるのだろうな……いいなあ……俺の鑑定さんもああならねえかなあ。
「終わったよ」
「む? 何かこう、我の身体が光ったり、頭痛がしたりそういう何かは無いのか?」
それな! 俺もこう、エミルちゃんが輝くんじゃ無いかなとか『ううっ』とか呻くのではなんてちょっと期待してみてたんだけど……何も無いな……。
「無いよ! 考えても見てよ。何時かは世界中の人達に同じ事をするんだよ? みんなが一斉に光ったらちょっと凄まじい事になっちゃうじゃん」
「確かに……でもさ、ミー君。その方が神の奇跡っぽくてかっこよくね?」
「……うう……かっこいいけど、いいの! 何も無くて良いの!」
「我はもっと派手な方が良かったのう……」
「うっ……エミルちゃんに言われると……でもどうしようも無いから……ごめんね……」
エミルちゃんには甘いミー君である。流石に神であろうとも、管理システムを改造するのは無理なようだ。
「よし、これで我はスキルが身につくようになったのだな?」
「そうだよ、エミルちゃん! これからは何をやっても無駄にならないよ!」
「うむうむ! ではナツ殿! 早速我に家事を教えてくれないか!」
「おう、任せろエミルちゃん! 君を立派なメイドさんに育て上げてやるぞ!」
「ふふ、お手柔らかに頼むぞ、ナツ殿」
こうして結果的にエミルちゃんに我々の秘密を打ち明けることになり、全てを知る仲間として迎え入れることが出来た。
彼女は三日の修行であっさりと【調理】と【洗浄】を覚え、今では俺には及ばないが、なりまともなご飯を作れるようになっている。
当分の間は普通のメイドさんとして頑張って貰う予定だが、遠征する際には同行して貰い、知将としての活躍を大いに期待していきたい所だな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます