第4話『きっかけ』




「月瀬さんさぁ、いい演奏なんだけど機械的っていうか、もっと情熱っていうのかな、感情込めて吹いてみてよ」






新しい吹奏楽部顧問の注文に美住は困惑する。



情熱?


感情?


なんなのだそれは、どうすればいいのだ?




答えが出ないまま

楽器にかじりついて練習を続けて、気がついたら午後9時を超えていた。



いかん

集中するとすぐにこれだ。


私って、周りが見えないタイプなのかも





暗い廊下・・・誰も居ない。






灯りが付いている。

カシャンカシャンと機械的な音



恐る恐るのぞく




ひとりの男子が黙々と筋トレをしていた。



私に見向きもしない所を見ると、この人も私と同じなんだろうか・・・




でも・・・



なんだろう・・・



彼を動かす『何か』が、とても情熱的で感情的である気がした。



私と同じで私と違う



そんな奇異な存在だった。





・・・





「くらぁ!黒峰、いつまで筋トレやってる!」





体育の三井先生が怒鳴り込んできた。

確かテニス部顧問だっけ




「はっ・・・」



「またか黒峰、その呆けてジョギングやら筋トレをし続ける癖、どうにかしろ」



「すいません」


「私の考えた筋トレメニューを熱心にやってくれるのは素直に嬉しいが、限度って物があるだろ」






「・・・ん、おお、月瀬じゃないか、ああ、お前もまだ残っていたか」







$$$








黒峰君は必死だ。



なぜそんなに自分を追い込むのかわからない。

そして、その理由を知りたくなった。



話しかけることすらできなかったから、結局その理由はわからずじまい。





「それだよ! あいまいな指示だったが、ちゃんと応えてくれて嬉しいぞ」





だが、

その数日後、

なぜか私の演奏は感情的で情熱的になったらしい。



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