(10)硬い盾と反撃開始?
初撃をあっさりと防がれたアルカノだったが、特に驚くことはなく攻撃を続けていた。
そもそも魔法使いは、呪文を唱えるときが一番無防備になることはわかっている。
それゆえに、その無防備な時に狙って放たれた攻撃をどうするべきかという対策は色々と練られてきた。
伸広が取った方法もそのうちの一つで、ある程度の攻撃を防ぐことができる結界のようなものを張るというものである。
こうした方法は伸広だけではなく他の魔法使いも取っている方法なので、その点で驚くことがなかったというだけだ。
ただ続けて放たれた攻撃もしっかりと防がれたことには、さすがのアルカノも顔や態度には出さなかったが内心では驚いていた。
初撃を防ぐだけなら事前にきっちりと対策をしたうえで防がれたことは、これまでにも何度もある。
だが、冒険者ギルドのプラチナカードを持つ者の攻撃をきっちりと防ぎきるなんてことは、そこらの魔法使いどころか高位の魔法使いでも難しいことなのだ。
長剣を通して伝わってくる感覚からこのまま連撃を続けていても仕方ないと判断したアルカノは、一旦距離を置くことにした。
「――やれやれ。ここまで硬い防御は初めてだぜ。一体どれだけの魔力を込めてそれを維持しているんだ?」
アルカノは興味本位からの問いかけで答えがあるとは思っていなかったが、最初から魅せる戦いを意識していた伸広はその問いに答える。
「いや。別に身体全体を覆っているわけじゃないよ?」
「……なに?」
「言ってしまえば、普通の戦士とかが盾で攻撃を防ぐのと一緒だね。攻撃の軌道を予想してそこに硬質の盾を用意して防いでいるだけだよ。これだったら体全体を覆うよりも低コストでより硬い盾が用意できるからね」
「………………ふっ。ふふふ。なるほどな」
伸広の答えを聞いたアルカノは、一瞬呆気にとられた表情になったがすぐに納得の表情で頷いた。
一部の非常識なことを除けば、伸広の答えは合理的でありやり方によってはアルカノのような近接攻撃をする者にとっては一番いやらしい戦い方といえる。
その一部の非常識というのは、アルカノの攻撃全てをしっかりと防ぎきるだけの能力があるということだ。
近接戦闘を主に行う者ならともかく、遠距離攻撃の代表である魔法使いが近距離戦闘の訓練を受ける機会は少ないはずである。
その魔法使い(と思われる)伸広が、冒険者ギルドのプラチナカード持ちであるアルカノの攻撃をしっかりと見切って防いだのだ。
一般的な常識でいえば、あり得ないことなのである。
伸広が語ったことは全てではないが、それでもアルカノにとっては十分だった。
今のところ何故なのかはわからないが、伸広はアルカノのスタイル――近接戦闘に合わせて戦ってくれているということだ。
そうでなければ、そもそも接近を許さずに魔法を使っているだろうし、近づかれたとしてもわざわざ魔法の盾で防ごうなんてことは考えない。
それが魔法使いの戦い方であることは、アルカノもこれまでの経験でよくわかっている。
(どういうつもりかはわからんが、そっちがそう考えているならまだこっちにもやり方は――ある!)
言葉にはせずに気合を入れるつもりで心の中でそう呟いたアルカノは、先ほどと同じように一気に距離を詰めた。
そして始まる攻撃のラッシュ。
今度は先ほどとは違ってスピードよりも一撃の重さを重視した攻撃になっている。
その攻撃は、どの程度まで不可視の盾が耐えられるのかを確認しているのともう一つの目的がある。
「――――スラッシュ!」
いくらかの連撃をしたところで、武技と呼べるようなより一段上の攻撃を横殴りに放つ。
この攻撃でどうにかできるとはアルカノも考えていないが、今までとは違った反応が引き出せればまた違った対応方法もできる。
そんな希望を持って放たれたスラッシュだったが、今までとは違っていたところは攻撃を防いだ時の音の大きさが大きくなっていたくらいで、伸広自身には大きな変化はなかった。
「……おいおい。まじかよ。どんだけ硬いんだよ。それは」
「さあ……? 耐久性をちゃんと計ったことなんてないからわからないなあ。――ああ、そうか。プラチナランクの本気のスラッシュをやり過ごせるくらいには強いことはわかった……かな?」
「ハハッ。それは事実だな。――んじゃ、そろそろ次、いくぜ!」
そうして三度始まるアルカノの攻撃。
それも今度はスラッシュだけではなく、それ以外の武技も次々に使われていった。
その攻撃のラッシュは、まさしくこれまでの経験すべてがつぎ込まれたものであり、アルカノ自身も後に今までの中でも最高のものだったと語っている。
アルカノが武技を放つたびに闘技場内でホコリが舞い上がり、衝撃音だったり攻撃の余波が周辺に影響を与えたりしている。
ただアルカノにとっては残念ながら、その攻撃の中心に伸広はこれまで通りの表情で攻撃を受け流していた。
その一連の攻撃が止まったのは、さすがにアルカノの息が続かなくなって三度距離を置いたためだ。
流石のアルカノでも、味方の援護もなしに全力で十五分も動き続ければ息も切れる。
「――――やれやれ、まいったな。ここまでやっても一太刀も通らないか。……一つ聞いていいか?」
「何……?」
「これまで防戦一方なのは何故だ? 反撃するタイミングはいくらでもあっただろう?」
「あ~。ええとねえ……折角時間をかけて集まって貰ったのに、あっという間に終わったら残念じゃない?」
「クッククク。やはりそうか。観客のための『見せ試合』をしていたか」
「まあ、そういうことかな。あなたには悪いと思うけれどね」
「いんや? 悪いなんて思うことはないぜ? 観客を楽しませるのも俺らの役目だからな」
「そう? そう言ってもらえると助かるよ」
「そんで? そろそろ見せてくれるのか? 観客は十分に盛り上がったと思うが。ちなみに、俺は全力を出し切ったと胸を張って言えるぜ?」
「……そう。それじゃあ、そろそろ行こうかな?」
「おう。来な」
挑発するようなアルカノの言葉だったが、その顔はただただ真っすぐに伸広を見つめていた。
その目にはこれから伸広が何をするのか、じっくりと見定めようという決意が見える。
アルカノのその目を見た伸広は、事前に用意してあった選択肢の中から一つだけを選んだ。
「それじゃあ折角だからちょっとした講義をするよ」
「おいおい。こんなところでお勉強か?」
「まあまあ、そう言わないで。あなたも魔法使いが強くなることには興味があるんじゃない?」
「そうか。そういうことなら、喜んで実験台になろう」
伸広の目的を察したアルカノは、そう答えながらにやりと笑った。
「それじゃあ遠慮なく。――今のところ魔法の攻撃というのは、定型型と後付け型の二つがある……んだけれど、知っている?」
「いんや。魔法の理論はさっぱりだな」
「あらま。それじゃあ……実際にやってみたほうが早いか」
そう言った伸広は、両腕を肘のあたりでまげて手のひらを宙に向けた。
さらにそこから右の手のひらの上に初歩の魔法である
「――ここから、少しだけ工夫をすると……こうなる」
伸広がそう言葉にするとほぼ同時に、左の手のひらにあった上の魔力の塊が右の手のひらと同じ火球に変化した。
今伸広が左手で行ったのは、魔法使いを目指す者が学園などに入った場合に割と公判で学ぶ高等技術だ。
無属性である魔力に後から属性を付け足して変化をさせるというのは、よほど魔力操作に長けた者でないとできないとされているためだ。
それを別の手では魔法を行使しながらあっさりとやってのけた伸広は、魔法関係者が見ればそれだけで高位魔法使いだと警戒することだろう。
魔法理論には詳しくはないアルカノだが、伸広が行ったことが割と高等技術だということは理解している。
それ故に、これから何を話すのかと表情には出さずに、内心ではワクワクとしながら伸広の話を待つのであった。
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