(9)サドの冒険者ギルド
とある目的のためにサドを出発した伸広たちは、一路南を目指していた。
正確にいえば目指す場所は南東にあるのだが、直線で行ける街道がないのでいったん南に向かってそこから東に進むことになっている。
ちなみに、蓬莱国は某日本国の北と四がなくなったような形をした島国である。
勿論周辺には小さな島も点在しているのだが、大きな陸地は大島と玖島の二つだけだ。
位置的には大島はドゥンゴ国から見てちょうど東側にあり、玖島は大島からみて南南西くらいにある。
そしてサドを出発してから一週間後、伸広たちは無事に目的地があるヤマの町に着いた。
このヤマの町には蓬莱国でもっとも大きな蓬莱の社がある。
この蓬莱の社はいくつか存在している神宮をまとめた場合の呼称であり、複数ある神宮にはそれぞれ神が祀られている。
その神宮の一つに最高神であるアルスリアを祀っているものがあり、そこに蓬莱国の主教である神教の最高位である卑弥呼が存在しているのだ。
灯たちからすればどこか聞き覚えのある名前が連発しているが、これも勿論ただの偶然ではない。
もはや説明をするまでもなく、
それが分かっているだけに、伸広から説明を受けた灯たちはもはや突っ込むこともなかった。
それよりも、今は彼らがここに来た目的のほうが大切である。
その目的とは、勿論卑弥呼に会う……なんてことではなく、ヤマの町の傍にあるダンジョンを攻略するためだ。
ただそのダンジョンを攻略するためには、それを管理している神教の許可をもらう必要がある。
その許可を得るために、伸広たちはさっそく神宮の一つを訪ねていた――――のだが。
「――ええと? どういうことでしょう?」
「申し訳ございません。突然すぎましたね。――皆様にはお話ししておきたいことがあるので、少しの間お時間をいただけないでしょうか? お手数をおかけしますがお願いいたします」
ダンジョン攻略の登録手続きをするために訪ねてきた伸広たちに、ギルドの受付嬢が頭を下げながらそう言ってきた。
先ほど同じようなことを言ってきたのだが、あまりに突然すぎたため全員聞き逃してしまった――というよりも、聞くことを一瞬放棄してしまったのだ。
伸広たちが蓬莱国に来てほぼ一週間である。
その間、特に冒険者らしい活動もしていないので、いきなりこんなことを言われる意味がわからない。
だからこそ伸広も含めてそんな対応になってしまったのだが、ここでいち早く立ち直って対応したのが、さすがというべきかアリシアだった。
「私たちがここ……というか、この国に来てからまだそんなに経っていないのですが、何かあったのでしょうか?」
「申し訳ございません。私も詳しくは……ただ、皆さまのような方々がいらっしゃったら別部屋にお通しするようにとだけ言われているのです」
「そうですか……」
受付嬢の説明を聞いたアリシアは、短くそう答えてから他の面々の顔を見回した。
正直なところ受付嬢の話は、怪しいことこの上ない。
この国に入ってから今まで、伸広たちは冒険者らしい活動はほとんどしていない。
旅の最中に襲ってきた魔物を倒したりはしているが、それはどの冒険者もやっていることでわざわざ呼び出しを受けるようなことではない。
それなのに受付嬢がこんな言い方をしてくるということは、何やら裏がありそうな――敢えて上げれば、総長あたりが絡んでいるのではないかという邪推さえしてしまいたくなる。
だが、もし本当に総長あたりが直接動いているのであれば、受付嬢や周辺からもう少し反応があっても良さそうではある。
というよりも、もし総長が絡んでいるのであれば、既に突撃されていてもおかしくはない。
受付嬢の話は怪しいのだが、伸広たちにとっていい話だという可能性もあるので簡単には無碍にすることもできない。
そうした諸々のことを考えたうえで、アリシアは視線を伸広に向けて一言。
「――――どうする?」
「……うーん。面倒に巻き込まれたくはないというのはあるんだけれど、正直なところ面倒かどうかも分からない……かな?」
「そうよね。それじゃあ、とりあえず話だけは聞いてみる?」
「そうだね。そうしようか」
とりあえずは話だけでも聞いてみようと結論を出して、改めてアリシアが受付嬢を見ながら言った。
「それでは、案内してもらえる?」
「あっ、はい。ありがとうございます」
何やら妙に貫禄があるように見えたアリシアの言葉に、対応していた受付嬢が微妙に緊張した面持ちで頷いていた。
この受付嬢は後になってこの時の対応をを振り返って自分した対応を褒めることになるのだが、それはまた別の話である。
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冒険者ギルドの中でも豪華な造りになっているんだろうなと思わせる部屋に通された伸広たちだったが、さほど待つことなくすぐに次の対応をすることになった。
自分たちを案内してきた受付嬢が部屋から出て行って数分も経たずに、細身で耳がとがっている男性エルフが現れたのだ。
「突然の呼び出しすみませんでした。何分こちらにとっても急なことだったので、少々乱暴になってしまいました。……ああ、失礼いたしました。私がこのギルドのマスターで、ジスランと申します」
立て板の水のごとく話し出したエルフギルドマスターに、伸広たちは一瞬驚いた様子になった。
ほとんど区切れなしに話をしたのだが、それでいながら聞き取りずらいところがなかったのだからもはや職人芸といってもいいくらいの技術(?)だったのだ。
エルフギルドマスター……ジスランの様子に気を飲まれた一行だったが、やはりここでもいち早く立ち直ったアリシアが最初に口を開いた。
「急なのは確かにそうですね。それで、どういったご用件なのでしょうか? 総長が何かを言ってきましたか?」
「はて? 総長ですか?」
アリシアにとっては探るつもりで出した総長という言葉だったが、きょとんとした顔で首を傾げているジスランを見て、総長からの横やりの線はないかと判断できた。
「いえ。関係ないのであればいいのです」
「そうですか……まあ、そちらがよろしいのであればいいです。それよりも、私どもの用ですが……といってもこちらもあまり正確には把握できていないのですよ。皆様方の中で『ノブヒロ』様はいらっしゃいますか?」
未だに自己紹介ができていないので、ジスランは改めてそう聞いてきた。
もっとも『ノブヒロ』という名前は、こちらの世界でも男性っぽい名前と認識されるので、ジスランの視線ははっきりと伸広に向いていた。
さすがにそんな状態で誤魔化しても意味はないと判断した伸広は、頷きながら答えた。
「ええ。確かに私はノブヒロです」
「そうでしたか。では、ノブヒロ様に伝言です。『折角ここまで足を延ばしたのであればここまで来い。連れの面倒も見てやる』――だそうです。どなたからの伝言かは……」
「あ~。はい。それだけで大体わかったので、言わなくてもいいです」
ジスランの言葉を聞いた伸広は、目を瞑って眉間に人差し指を当てながら盛大にため息を吐いた。
ジスランの言った『伝言』で、誰が言ったのかを正確に理解できたのだ。
ついでにいえば、この先確実に起こるであろう厄介ごとも見えてしまった。
だが、だからといってこの伝言を無視する選択肢は、伸広にはなかった。
何故なら厄介なことには違いはないのだが、受けられる恩恵も後半の言葉で理解できたからだ。
そうして覚悟を決めた伸広は、どうせこの先のことも決めてあるのだろうと予想して、改めてジスランを見るのであった。
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