(8)今後の予定
『――というわけで、三人とも無事に試練はクリアしました』
「そう。ご苦労様」
サポート君を通しての灯の報告に、伸広は短くねぎらいの言葉をかけた。
『それで、一つ疑問なのですが……』
「うん? 何か問題でもあった?」
『問題もあったのですが、それはまた後で話します。それよりも、試練という割には結構緩めだったような気がするのですが?』
詩織は巨大カメと契約をしているのでちゃんとした結果として残っているが、灯や忍の場合は目に見える結果ではなく観念のような個人的な考えを得たくらいだ。
この程度の結果であれば、あの試練の場に行けた者であればだれでもクリアできそうである。
そんな灯の疑問が伝わったのか、伸広は少しだけ苦笑しながら言った。
「あー、そういうことね。そもそも試練――特に神からの試練は、ほとんどがその神の趣味嗜好に偏りがちだからね。ぶっちゃけると、個人的に気に入るかどうかだけを見られている感じかな」
『……そんなのでいいのですか』
「いいもなにも、そもそも神の試練ってそういうものだからね。それ以外の――例えばアイテム授受系の試練であれば、ちゃんと出された問題を答えないと駄目とか、魔物を倒さなければ駄目みたいなものもあるよ?」
『そんなものですか』
「そうそう。そういうものだって割り切るしかないかな」
個人個人で得た結論と同じようなことを言った伸広に、灯とその後ろで話を聞いていた詩織や忍から思い思いの反応があった。
今回の通信はきちんと映像込みになっているので、三人の表情に微妙に呆れが混じっているのが伝わってきた。
伸広も最初は似たような感情を持っていたのでそれについて何かを言うことはなかったが、できればそういうものだと早く割り切ってほしいと考えている。
いずれにしても神の試練については伸広もそれ以上の説明のしようがないので、灯の疑問に対する答えもそれだけだった。
「それで? 問題というのは?」
『それはあれだ。三人揃ってクリアしたというのもあるが、得た文様が三人とも
何とも言えない渋い表情になって言ってきた忍に、伸広は端的に答えた。
「それはもう、どうしようもないね。ずっとついて回るものだとあきらめるしかないよ」
『えー……。師匠、他にアドバイスとかは?』
「ない。というか、あったらそもそも自分も長い年月こんなところに引きこもっていないよ」
百年単位で拠点にこもって魔法の研究を続けている伸広らしい言葉に、弟子三人は納得の表情になっていた。
そこに諦めの色が全く混じっていないことで、三人の伸広に対する評価がわかる。
伸広の横でこれまで黙って話を聞いていたアリシアが、そんな三人の顔を見ながら言った。
「どうせ冒険者ギルドを通して伝わっているのは、アルスリア神の試練を突破したということだけだからあとはそれに伴う実力を見せればいいだけよ。そうすれば、名声のほうが高くなってさすが文様を得た者と言われるようになるわ」
『あの。それはもっと面倒なことになるような気が……』
少し控えめながらそれでもしっかり自分の意見を言ってきた詩織に、アリシアは小さく首を傾げながら返す。
「それ以外であれば、あとは名のあるところに所属するとかしないといけないわよ? 残りはそれこそ伸広みたいに引きこもって、ほとぼりが冷めるまで表に出ないとか」
『さすがに、それは……』
灯はともかく、忍や詩織はどちらかと言えば外で動き回って活動するタイプなので、じっと家に閉じこもったままというのは避けたいところだ。
必要であれば室内にこもっていることもできるが、できることなら冒険者活動は続けたいと考えている。
そんな忍の答えを予想していたかのように、ここでアリシアがにっこりと笑った。
「というわけで、一つお願いと提案があるのだけれど聞いてくれる?」
珍しいアリシアからの『お願い』に、三人は同時に顔を見合わせた。
『なんでしょう?』
「これから先の冒険者活動に、護衛兼仲間として私も加えていただけないかしら?」
『『『……えっ!?』』』
突然すぎるその提案に、灯たちは同時に驚きの声をあげた。
そのあとすぐに灯は伸広の顔色を伺ったが、その表情は全く変わっていないことから事前に二人で話をしていたことだと理解できた。
『師匠には話をしているみたいですが……本当にいいのですか? ……その、一国のお姫様が……』
いくら灯たちがAランクになったとはいえ、所詮はAランクという言い方もできる。
冒険者全体からすれば一握りという言われ方もするAランクだが、数でいえば百人単位でいるのでたった三人では王族の護衛として十分であるとはいえない。
ましてや魔物との戦闘もあるであろう冒険者活動をするとなれば、そもそも正気を疑われるレベルで反対されるだろう。
生まれながらの王族の一人であるアリシアも、当然ながらそのことは灯たちよりもはるかに理解している。
「まあ普通に考えれば駄目よね」
あっさりそう返してきたアリシアに、三人はそれはそうだと納得して頷きかけた。
だが続けられたアリシアの言葉に、今度こそ本当の意味で動きを止めることになる。
「だから伸広も一緒に行動するということで、お父様を説得したわ」
『『『………………えええっ!?』』』
アリシアが落としてきた爆弾に、灯たちは二重の意味で驚いた。
一つは、既に国王の了承を得ているということ。
もう一つは、伸広と一緒に活動することになるということだ。
伸広のことをよく知っている灯たちであれば確かにそれであるならばと納得できる……どころか、過剰戦力ともいえるくらいだが、あまり知らないはずの国王がよく許可を出したものである。
それだけ初代から伝わっている伸広に関する内容が、代々の王に信頼を持って伝わっていると言えるだろう。
そのことに加えて先ほどの二人の態度を見る限りでは、既に伸広にも話が通っているらしいということだ。
『師匠は、それでいいのですか?』
「いや、別に僕の場合は、結果的にひきこもるころになっただけで、引きこもろうと思って引きこもっていたわけじゃないからね? 目的があるならちゃんと旅もするよ?」
心外だと言わんばかり顔になった伸広だったが、この場で話を聞いていた残り四人は完全にジト目を向けていた。
それを見て旗色の悪さを感じた伸広は、少し慌てて付け加えた。
「と、とにかく、三人が問題ないのであればこれからは五人で活動するってことになるけれど、どうする?」
『それは勿論、私としては賛成だけれど……二人は?』
少し食い気味に賛成した灯だったが、すぐに左右に座っていた詩織と忍を確認する。
『私は大丈夫よ~』
『私も問題ないな』
「そう。それじゃあこれから先は、五人一緒に色んな所を見て回るってことで問題ないわね」
これで決定と言わんばかりに両手をぱちりと合わせたアリシアを見て、伸広は苦笑を返した。
いつの間にやら目的が色んな所を見て回ることになっているが、それに対する突っ込みはなかった。
なんだかんだで特定の場所でしかこれまで活動してこなかった灯たちも、アリシアの提案は魅力的に感じたのだ。
『それでは、私たちはそちらに向かえばいいのですか?』
そう確認するように聞いていた詩織に、伸広は首を左右に振った。
「いや。そっちの騒ぎを躱すためにも一度迎えに行くよ。それから少し休みをとってもらって、拠点で色々整えてから出発かな?」
伸広が転移を転移を使えば、それを辿れる者はほとんどいない。
それで一度姿をくらましてしまえば、最高神の文様を得たという熱狂も多少は落ち着くはずである。
いずれにしてもまずは拠点に戻って落ち着いてからということになり、灯たちはようやく人心地つくことができたのである。
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